データインバウンド
訪日客が一番困ったことは? 「なし」が5割。「混雑」など新たな課題もー観光庁
2025.04.28
やまとごころ編集部観光庁は、2024年度「訪日外国人旅行者の受入環境整備に関するアンケート」の結果を公表した。観光庁は、訪日中の外国人旅行者が快適な観光を実現するための環境整備を進める上で、旅行中に困ったことを継続的に調査している。インバウンド需要が拡大し、旅行者の構成やニーズも変化する中で、日本の受入環境の評価を示す重要なデータとなる。
今回の調査は、日本から出国する訪日外国人旅行者を対象に、2024年12月から2025年1月にかけて、主要国際空港(新千歳、成田、羽田、関西、福岡)で実施し、4189件の有効回答を得た。回答者の国籍・地域別では、中国、韓国、台湾、香港、アメリカが上位を占め、年齢層では20代と30代が全体の6割以上を占めた。また、訪日回数を見ると、約7割がリピーター(訪日2回以上)だった。
旅行者の日本滞在時に最も困ったことは?「なし」が5割に
特筆すべきは、旅行中に「困ったことはなかった」と回答した割合が51.1%と、前回調査(2024年度)の29.7%から大幅に増加した点だ。これは、全体的な受入環境の改善、あるいは旅行者の日本の環境への適応が進んだ可能性を示唆する。ただ、依然として半数近くの旅行者が何らかの不便を感じており、その内容は変化を見せている。
今回の調査で最も多く挙げられた「困ったこと」は、「ごみ箱の少なさ」(21.9%)であり、次いで「施設等のスタッフとのコミュニケーション」(15.2%)となった 。また、新たに追加された項目である「観光地や地域の混雑」(13.1%)が3位に入り、オーバーツーリズムに関連する課題が顕在化してきたことがうかがえる。
最多の課題、観光地などでの「ごみ箱の少なさ」
2024年度調査で、訪日外国人旅行者が最も困ったと回答したのは「ごみ箱の少なさ」(21.9%)だった 。これは2023年度調査(30.1%)から減少したものの、依然として多くの旅行者が街中や観光地でのごみの処理に不便を感じている実態を示している。
具体的にどのような場所で「ごみ箱の少なさ」に困ったかと都市部と地方部でそれぞれ尋ねたが、困った場所は観光スポットや観光案内所、観光スポットまでの過程など、都市部と地方部で概ね同様だった。
公共スペースにおけるごみ箱の設置は、景観維持やテロ対策などの観点から制限されている側面もあるが、旅行者にとっては、持ち歩くごみの扱いに困るという直接的な不便さにつながる。特に、飲食のテイクアウト利用が増える中で、この問題はより顕著になっている可能性がある。設置場所の工夫や、ごみの分別・持ち帰りに関する多言語での情報提供強化などが、今後の対策として考えられる。
なお、公共ごみ箱の設置状況や管理方針は、世界的に見ても都市によって大きく異なっている。たとえば、ニューヨークやパリでは、歴史的にも日本より多くの公共ゴミ箱を設置し、市民や観光客の利便性を重視する傾向が見られる。ロンドンではテロ対策として透明なゴミ袋方式のゴミ入れが普及している。ソウルは、ゴミ従量制導入後に公共ゴミ箱が減少したが、市民や観光客の不便解消のため、近年再び増設へと方針転換している。シンガポールは、ゴミ箱の数よりも罰則規定の厳格化と徹底した法執行によって街の清潔さを維持しようとしている点が特徴的だ。また、台北では、コンビニエンスストアが実質的なゴミ捨て場として機能している側面が見られる。
コミュニケーションの壁、飲食店で多数発生
「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない(英語が通じない等)」は、今回15.2%で2番目に困ったこととなった。これは昨年度調査(22.5%、2位)から割合が減少しており改善が見られるものの、依然として重要な課題となっている。
コミュニケーションで困った場所としては、都市部・地方部ともに「飲食店」が最も多く、次いで都市部では「百貨店・ショッピングセンター」「鉄道駅、バスターミナル」が挙げられている。いずれも旅行者が頻繁に利用する場所であり、注文、買い物、移動といった基本的な行動において言葉の壁が存在することを示唆している。
困った際の対応で最も多かったのは、「スタッフ側又は旅行者自らが自動翻訳システムや翻訳アプリケーション等のICTツールを利用してコミュニケーションを行った」だったが、「コミュニケーションをあきらめた(自分で情報を調べる等行った)」という回答も2割以上あった。これは、翻訳ツールの活用が進んでいる一方で、それが必ずしも円滑な意思疎通に繋がっていない、あるいは利用をためらう・諦めてしまうケースも少なくないことを示している。
現場スタッフ向けの言語研修や、より使いやすい翻訳ツールの導入・活用支援に加え、指差し会話シートや多言語メニューの整備といったローテクながらも効果的な手段の再評価も重要と考えらえる。
また、「多言語表示の少なさ・わかりにくさ(観光案内板、地図等)」も10.8%(5位)で、依然として課題となっている。困った場所としては、都市部・地方部ともに「飲食店」が最も多く、次いで「鉄道駅構内」「百貨店・ショッピングセンター」が挙げられた。地方部では「道路標識」で困った割合が都市部より高い傾向が見られた。
具体的な問題点としては、「多言語対応されていない/表示言語数が不足している」が最も多く、次いで「記載量が原文と比較して少ない」「誤訳があった」などが指摘されている。対応として翻訳アプリ等が使われる一方で、「表示の解読をあきらめた」という回答も3割程度あり、情報伝達の質の向上が求められる。
日本の新たな課題「観光地や地域の混雑」
今回新たに追加された調査項目である「観光地や地域の混雑」が、困ったことの3位(13.1%)に入ったことは、特筆すべきだろう。これは、インバウンド需要の急回復に伴い、特定の地域や時間帯におけるオーバーツーリズムが、旅行者の体験に具体的な影響を与え始めていることを示している。
混雑に困った場所としては、都市部・地方部ともに「観光スポット、観光案内所」が最も多く、次いで「鉄道駅、バスターミナル」「交通機関の車内」が挙げられた。特に都市部において、混雑を問題視する割合が高い傾向が見られた。
具体的な困りごととしては、「混雑や渋滞等の情報が発信されていない・情報量が不足」が最も多く、次いで「混雑や渋滞等の情報が多言語対応されていない」「説明はされているが、内容が分かりにくい」と続いた。これは、単に混雑していること自体だけでなく、混雑状況に関する事前の情報提供や、現地でのリアルタイムな情報入手の難しさが、旅行者のストレスを高めていることを示唆している。
混雑予測情報の多言語での発信、時間帯別・曜日別入場者数の可視化、代替ルートや周辺スポットの提案など、情報提供のあり方が今後の重要な対策となるだろう。
改善あるも「公共交通の利用」は依然として課題に
「公共交通の利用(乗り場、経路の情報、乗換方法等)」は12.3.%で4位となり、2023年度(13%)からやや改善は見られるものの、依然として課題として残っている。
困ったと感じる公共交通機関は、都市部では「新幹線以外の鉄道」が突出して高く、地方部では「バス」と「新幹線以外の鉄道」が高かった。
具体的な困りごととしては、都市部・地方部ともに「乗り場、降り場の場所の特定」が最も多く、都市部では「目的地までのルートの検索」も同率でトップだった。日本の複雑な鉄道・バス網、複数の事業者による運行、多様な切符やパスの種類などが、依然として外国人旅行者にとってのハードルとなっている様子がうかがえる。
対応としては、「自分でインターネット等で調べた」や「周りのスタッフに聞いた」という回答が多く、「あきらめて他の交通手段を使った」という回答も1割程度あった。これは、移動における困難が、旅行計画の変更や機会損失につながっている可能性を示している。経路検索アプリの多言語対応強化、駅やバスターミナルにおける案内表示の改善(特に乗り場や乗り換え)、主要な交通系ICカードの利用可能範囲拡大や、クレジットカードのタッチ決済導入などが、引き続き求められる。
加速する入国手続き時の混雑と手続き煩雑化
2023年度調査とくらべて5ポイント増え、8.6%が困ったと答えたのが、「入国手続き」(6位)だった。水際対策の緩和・撤廃後、入国者数急増による空港の混雑や手続きの煩雑化が影響している可能性がある。Visit Japan Webなどのデジタル化が進められているが、実際の運用面での改善が追いついていない、あるいは旅行者への周知やサポートが十分でない可能性も考えられる。
変化する課題に対応し、体験価値向上へ
2024年度の調査結果は、訪日外国人旅行者の「困ったこと」が変化していることを明確に示した。「困ったことはなかった」という回答が増加したことは前向きな兆候であるが、「ごみ箱の少なさ」が依然トップであり、「観光地の混雑」が新たな主要課題として浮上したことは、今後の受入環境整備において新たな視点が必要であることを示している。
インバウンド業界は、これらの変化を的確に捉え、対策を講じる必要がある。ごみ箱問題への対応、混雑情報の多言語での効果的な発信、多様化する決済手段への対応、そして依然として重要なコミュニケーション支援や交通案内の改善など、取り組むべき課題は多い。データに基づき、これらの課題解決を進め、すべての旅行者にとってより快適で満足度の高い日本滞在を実現することが、持続的なインバウンド成長の鍵となるだろう。
(図版出典:観光庁 令和6年度「訪日外国人旅行者の受入環境整備に 関するアンケート」調査結果)
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