データインバウンド
2030年に33兆円 拡大するムスリム旅行市場、日本は女性向け旅先5位
2025.07.08
やまとごころ編集部世界153の目的地のムスリム旅行者への対応状況を評価した「世界ムスリム旅行指数/Global Muslim Travel Index (GMTI)2025」が、マスターカード・クレセントレーティングによって発表された。今回で10回目を迎えるこのレポートは、ムスリムに関する各国の観光政策や民間企業の方向性を定める国際的な基準として注目されている。
レポートによると、2024年の世界のムスリム旅行者数は1億7600万人で、前年から25%増加した。2030年までには2億4500万人に達し、旅行支出総額は2300億米ドル(約33兆円)に達すると予想されており、ムスリム旅行市場の経済的影響力の拡大を示している。
ムスリム旅行の渡航先ランキング1位はマレーシア
2025年の世界ムスリム旅行指数(GMTI)ランキングでは、マレーシアが10年連続で首位を維持した。トルコ、サウジアラビア、UAEなど、世界イスラム協力機構(OIC)加盟国が上位を占めた。礼拝施設の整備や食の透明性、宗教的慣習への高いレベルでの理解が進むなど、ハラール認証制度の整備を含めたムスリム旅行者が安心して旅行できる環境が整っている点が高く評価された。
OIC非加盟国はシンガポールが首位、アジア諸国の躍進が上位に
OIC非加盟国のランキングでは、シンガポールが10年連続でトップに立ち、続いてイギリス、香港、台湾、タイがランクインした。ハラール対応の選択肢の豊富さや、技術を活用した情報発信などの「実用性」の高さが評価された。
例えば、シンガポールや香港などでは、主要空港やMICE施設においてハラール食の提供や礼拝施設の設置が進んでいるほか、ハラール対応の明確な表示などの情報提供が、ムスリム旅行者の利便性を高めている。特に香港はムスリムフレンドリーなインフラ整備に多額の投資を行っており、前年よりスコアが10ポイントアップ、GMTI2025の「最も有望なムスリムフレンドリーな旅行先」賞も受賞した。
欧州で唯一トップ5に入ったイギリスでは、豊かな歴史、および文化的遺産にムスリムフレンドリーなサービスを組み込むことで、ダイバーシティとインクルージョンを実現。台湾は、文化と宗教の多様性を尊重する温かい雰囲気を提供し、ムスリムフレンドリーな観光地としての地位を確立している。
日本は44位、ムスリム女性の旅先として高い評価
日本はGMTIランキングで44位、OIC非加盟国のランキングでは14位だった。特にムスリム女性旅行者向けの旅先として評価が高く、OIC非加盟国の中で5位にランクインした。治安の良さやきめ細やかなサービスが、ムスリム女性にとって安心できる旅行先として認識されており、「ムスリム女性向けデスティネーション」ランキングでは、シンガポール、香港、アイルランド、台湾に次ぐ75点を獲得した。
なお、GMTIの評価モデルであるACES(Access, Communication, Environment, Services)を項目別に見ると、日本は「アクセス」や「コミュニケーション」において改善の余地があるものの、「ムスリムフレンドリーな環境」と「サービス」の面で着実にスコアを伸ばしている。特に、都市部の主要駅やホテル、一部の観光施設では礼拝スペースの設置やハラール食の提供が進んでいることが、評価向上に繋がっている。
ハラール旅行を体現する5つの消費トレンド
最後にこのレポートに掲載された、世界のムスリム旅行市場を形成する重要な5つのトレンドを紹介する。
ハラール旅行のためのスマートアプリ
ムスリム旅行者の間で、信仰に沿ったサービスや、自分だけのパーソナルな体験にスムーズにアクセスできるアプリなどデジタルツールの利用が広がっている。
現代の女性ムスリム旅行者
女性のムスリム旅行者が、より安全で、多様性を受け入れ、配慮して設計された空間を強く求めており、旅行業界に対し、女性が安心して快適に過ごせるようなサービスや施設の開発を促している。
ムスリムフレンドリーな施設
アルコールフリーの環境、ハラール認証の食事、礼拝施設、そして男女別のプールやスパを提供する目的地が、ムスリム旅行者にとって不可欠な選択基準となっている。
一人旅の急増
若い世代のムスリム旅行者の間で、一人旅が急増しており、彼らは自分のペースで自由に旅を計画し、個人的な旅程を重視する傾向がある。
デジタルデトックスリトリート
イスラム教の価値観である「マインドフルネス(気づき)」と「バランス」にインスパイアされ、多くのムスリム旅行者が、自然や精神性に根ざしたテクノロジーフリーの休暇を求めている。
<編集部コメント>
ムスリム旅行者が増える今、求められる“文化的配慮×実用性”の視点
2030年には2億人を超えると予測されるムスリム旅行市場。その成長とともに、宗教的ニーズに配慮した観光地づくりの重要性が高まっている。日本は治安やサービスの細やかさでムスリム女性からの評価が高く、都市部を中心に礼拝スペースやハラール食の整備も進みつつある。今後は「アクセス」や「情報提供」など、旅の不安を取り除く実用面の強化が鍵となる。文化的配慮と実用性を兼ね備えた観光地づくりが、世界のムスリム旅行者に選ばれる第一歩となるはずだ。
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