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2026年の消費4大トレンド、心の安定・個別化・次世代ウェルネスがカギに ― ユーロモニター

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国際的な市場調査会社ユーロモニターインターナショナルはこのほど、「2026年 世界消費者トレンド」を発表した。本調査は、同社のリサーチプラットフォーム「Passport」に基づき、美容、オンラインショッピング、健康・栄養、ライフスタイル、サステナビリティの5分野で実施された。分野ごとに20〜40市場を対象とし、各国・地域の消費者に対して年齢・性別に応じた割り当てに基づき、1市場あたり1000件の回答を収集している。

さらに、世界16拠点に展開する専門チームが、業界リーダーへのインタビューや独自の定性調査で得た知見を統合。生成AIを活用し、膨大なデータからトレンドの本質を抽出・分析した。

今回は、これらの分析をもとに、2026年における消費者の価値観や行動の変化を、4つの主要トレンドから読み解いていく。

 

トレンド1. 心の安定を求め、世界で高まる“コンフォート消費”

2026年の注目消費トレンドの1つが「コンフォートゾーン」だ。社会不安が続く中、58%の消費者が日常的に中程度〜極度のストレスを感じており、「生活の簡素化」や「心の平穏」に価値を見出す傾向が強まっている。

しかし、ストレスを感じている人は多いものの、十分に対処できている人は少ない。多くの地域で過半数の人がストレスを抱える一方、週1回以上ケア行動をとる人は3割前後にとどまる。欧州では6割超がストレスを感じながらも、対処している人は1割台にすぎず、「ストレスギャップ」が顕在化している。

▶︎各市場のストレスギャップ
青色が「中程度〜極度のストレスを感じている人の割合」を示し、オレンジ色が「週に1回以上ストレス軽減活動を行っている人の割合」を表す

各市場のストレスギャップ

こうした背景から、3人に2人が日常をよりシンプルにしようとしており、購買行動でも「少なく、しかし質の高いもの(less but better)」を選ぶ傾向が広がっている。

この意識は商品選びにも現れており、2024年には「自然由来」を訴求する食品・飲料・化粧品・洗剤などの日用品の売上が3772億ドルに達した。さらに、ストレス軽減や気分の向上といった「心の健康(メンタルウェルビーイング)」を意識した商品が増加。2024年9月〜2025年8月の間に、健康訴求を含む、オンライン販売された新製品の1割がこのニーズに対応していた。

企業の取り組みも進んでいる。IHGホテルズ&リゾーツは、英・アイルランドの一部拠点で「NOMO(Night On My Own)」宿泊パッケージを導入。割引料金やレイトチェックアウト、ウェルネス特典などで、一人時間の充実と心身のリセットを提案している。こうした配慮は、「心の安定」志向に対応する具体例といえる。

 

トレンド2. 自分らしさを追求する消費者、企業に迫られるマイクロ・パーソナライズ対応

2026年、消費者は「本物らしさ」や「自己表現」をより重視するようになる。世界の消費者の65%が自らのアイデンティティが受け入れられていると感じ、47%が他者との差異を意識。購買行動にも反映されており、過半数が「自分の信頼できるブランドからしか買わない」と答えている。

この傾向はZ世代や若年ミレニアル世代が中心だが、シニア層にも拡大。例えばベビーブーマーの63%が日常にテクノロジーを積極的に取り入れ、年齢にとらわれない自己表現を実現している。

現代の消費者は、「自分らしさ」を反映した商品や体験に価値を見出しており、58%が自分の嗜好に合った体験、50%が個別対応の商品・サービスを求めている。また、長期的な目標よりも「今この瞬間の満足」を優先する支出が増え、短期ローンの利用も拡大している。

こうした流れに対応するため、企業には画一的な対応から脱却し、超個別化(マイクロ・パーソナライゼーション)への移行が求められている。実際、53%の業界関係者が「個人主義とパーソナライズの潮流が今後を左右する」と回答し、48%がすでに戦略の見直しを進めているとした。

 

トレンド3. 次世代ウェルネスの本格化、医療レベルのケアが日常に

消費者のウェルネスの捉え方が変化している。寿命や日常パフォーマンスの最適化を目的に、医療レベルのテクノロジーや科学的根拠に基づくセルフケアが一般化。74%が健康管理にアプリやデバイスを使用し、GLP-1薬(肥満治療や血糖コントロールに使われる注射薬)の利用率も2024年の6%から2025年には9%へ増加している。

即効性・精度・パーソナライズ性を求める傾向も強まり、ダーマコスメ(皮膚科学に基づいた高機能スキンケア製品)は全地域で2020〜2024年に2桁成長を記録。49%の消費者が科学的処方の美容製品に追加料金を払う意向を示している。もはやウェルネスは、ゆるやかな改善ではなく、即効性ある成果が期待される時代に入った。

この動きは美容・健康分野にとどまらず、旅行や日用品にも波及。ウェアラブル機器や肌解析デバイスを活用し、衣類やコスメもリアルタイムでの最適化が進んでいる。

特に旅行先でのウェルネス支出が拡大した。スパや医療ツーリズムの需要が伸び、2024〜2025年に2桁成長、2026年には市場全体で1000億ドル超に達する見込みだ。西欧・北米が主力市場だが、アジア太平洋や中南米も成長が続く。

▶︎旅先でのウェルネスサービス支出(単位:10億ドル)
項目は左から、濃い青:西ヨーロッパ、オレンジ:北米、紫:アジア太平洋、黄土色:中南米、水色:東ヨーロッパ、緑:中東・アフリカ、紺:オーストラリア

旅先でのウェルネスサービス支出

次世代ウェルネストレンドを適用した例として、UAE発のウェルネス特化型ホテル「SIRO」は、回復トリートメントや快眠設計の客室など、旅とセルフケアを融合した体験を提供している。

こうした潮流の中、62%の業界関係者が「ウェルネスとセルフケアは今後5年で業界に大きな影響を与える」と回答。医療レベルのケアとテクノロジーの融合が、次世代ウェルネスを牽引している。

 

トレンド4. 中国がけん引 アジアブランドのグローバル展開が本格化

アニメやK-POPに代表される日本・韓国文化は、アジアブランドの国際進出を後押ししてきた。近年では中国ブランドが注目され、「Labubu」(中国発トイブランドPop Martが展開する、香港人アーティストによる人気キャラクター)や映画『ナタ 魔童の大暴れ』、中国ドラマなどが世界的に人気を集めている。こうした文化的影響はエンタメの枠を越え、消費行動へとつながっている。

アジアブランドに対する認識も、低価格でニッチな存在から、革新性・デザイン性・文化的洗練を備えた選択肢へと進化。2025年には、5人に1人の消費者が中国製コスメを技術的に優れた製品と評価している。

この動きを支えるのが、TikTok、SHEIN、Temuといった中国発のデジタルプラットフォームだ。TikTokでは4人に1人がアプリ内での商品購入を経験し、37%がライブ配信を通じて新たなブランドに出会っている。Z世代を中心に、パーソナライズやゲーミフィケーション(ポイント獲得や抽選などの遊び要素)を取り入れた買い物体験が浸透している。

さらに、中国企業は大型家電やスマホ、モバイルゲームなどの複数分野で世界シェアを拡大。2026年には輸出総額が4兆ドル、越境EC売上が1395億ドルに達する見通しだ。現地ニーズへの柔軟な対応や、文化的ストーリーテリングを重視したブランド戦略により、新市場開拓とプレミアム化を進めている。

▶︎2026年における越境ECの売上予測
項目は上から、濃い青:1400億ドル(中国)、紫:660億ドル(アメリカ、イギリスなど)、赤〜オレンジ:10〜330億ドル(日本、韓国、インド、ブラジルなど)

2026年における越境小売ECの売上予測

アジアブランドの存在感が高まる中、企業には現地ニーズへの素早い対応や、モバイル・AIを活用した顧客体験の提供が求められている。中国系企業が世界のEC市場を席巻する今、競争力を保つには、ブランド力や安定した供給体制、信頼性といった真似しにくい強みがカギとなる。

 

【編集部コメント】

観光の企画に活かすべき、2026年の消費者心理

消費トレンドは、消費者の価値観や行動変容を示す重要なヒントとなる。心の安定を求める「コンフォートゾーン」、医療レベルのセルフケアが広がる「次世代ウェルネス」、そして文化的背景が購買に影響する「アジアブランドの台頭」など、いずれも観光体験に応用可能な視点だ。

中でも、超個別対応を求める流れは、商品・サービス設計や地域の戦略にも直結する。これらの変化を一過性と捉えず、「自社や地域とどう接点があるか?」を考えてみることが、次の一手につながるかもしれない。

(出典:ユーロモニターインターナショナル、 Top global consumer trends 2026

 

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