インタビュー

「”住んでよし、訪れてよしの国づくり”の観光ビジョンに向けて」 田辺市熊野ツーリズムビューロー・多田稔子会長 インタビュー

2018.10.05

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外国人宿泊者数が、5年間で約5倍になっている熊野古道のある和歌山県田辺市。その驚異の躍進を支えている田辺市熊野ツーリズムビューローPart1では、その団体を率いる多田稔子会長にこれまでの経緯と今後の展開についてお聞きした。Part2では、田辺市熊野ツーリズムビューローも関わって、新たに地域の特色のある旅行商品開発をサポートするべく立ち上げた一般社団法人JARTAについて伺った。

 

— 一般社団法人 JARTAという団体が立ち上がりましたが、目的と活動について教えてください。

地域の旅行会社同士が連携する場づくりとして、一般社団法人 JARTA(Japan Alliance of Responsible Travel Agencies)を立ち上げました。従来の発地型募集・送客という旅行のしくみを転換し、より多くの地域住民の支持を仰ぎ、地域の特色のある旅行商品開発をサポートする旅行会社を増やすための取り組みとなります。

それは、近年急激な訪日観光客の増加と一局集中による「観光公害」が懸念されているだけでなく、旅行会社主導の利益を追求した結果、観光地への還元が制限されており、地域づくりとしての観光を振興する意義が問われているからです。

まず具体的には、GSTC(※1)の勉強会をしていく予定です。我々もきちんと知る必要があり、このことが「住んでよし、訪れてよしの国づくり」の観光ビジョンの近道だと信じるからです。

※1)GSTC(Global Sustainable Tourism Council)が提案する世界規模での持続可能な観光基準のことで、以下の4つのテーマがあります。
1:持続可能性の高い計画の実施
2:地域住民の社会的、経済的な恩恵を最大限にすること
3:文化遺産の活性化
4:環境負荷の低減

これらは、SDGs(持続可能な開発目標)にも大きく関与するものになります。

これまでは、「旅行会社」と「旅行者」の2軸だったものを、さらに「地域」を加えて3軸にしていくことが重要です。

 

— JARTAの設立への想いをお聞かせください。

最近、観光について、「サスティナブル」という言葉をよく耳にします。「持続可能」と訳されていますが、どうも私には違和感がありました。

試行錯誤していたなかで、「責任を持つ」ということが地域の観光には大事だと気づきました。地域に住んでいる人たちが喜ぶ観光、住んでいる人に賛同されないと意味がありません。そのためには、旅行会社として責任を持って送客すべきではないでしょうか。

前述にあるように、旅行カウンターを設けたきっかけは、外国人旅行者が増えるにつれ、ノープランの人までやって来るようになったからです。これを放置しておくと、住民の不安が高まってしまいます。

やはり訪れる外国人旅行者には、地域をリスペクトしていただきたい。その仕組みをつくる必要があるのです。

今後は、旅行会社を選ぶという時代になるでしょう。どのような活動をしているかの背景も問われ、地域に対しきちんと配慮している旅行会社かどうかも重要です。海外は進んでいます。日本の場合、今のところどの旅行社を選んでもあまり大差がありませんが・・・。

このような背景があり、地域の旅行会社同士が連携して、場づくりを始めました。それが一般社団法人 JARTA(Japan Alliance of Responsible Travel Agencies)なのです。

海外の旅行会社から、日本ではこのような団体の動きがなかったのかと驚かれ、いかに日本が遅れているのか愕然としました。7社で設立しましたが、今後は、同じ志を持つ人のネットワークを日本中に広げていきたいと思います。


— その設立の経緯について教えてください。

我々と似たような考えを持っている人は、少なからずおりまして、イベント等いろいろな機会で出会うことがありました。去年はSDGsの重要な年だったこともあり、団体の立ち上げが去年の暮れから進み出したのです。

立ち上げのきっかけをつくった代表理事の高山傑さんは、京都出身ですが、最近は淡路島に活動の拠点を移し、サスティナブルツーリズムの先駆的な活動をされています。

私の場合は、設立メンバーであるだけで、まだ具体的な業務はまだ何もしていません。これからでしょう。まず枠組みができただけですから。

同じような志の旅行会社が、パイの奪い合いになったことはありません。安心して連携すれば、紹介し合えるというメリットがあります。そして、連携した旅行商品づくりも出来ます。


— 旅行会社が結集したというのがユニークですが、みなさん収益にシビアなのでしょう?

DMOは立ち上がったのはいいけれど、収益性はどうなのかと疑問の声が取りざたされていますね。しかし我々の場合、収益というよりも、地域の課題を一つ一つ解決していく過程で、旅行会社が必要になって立ち上げたというところです。行き着くところ、地域課題の解決には、経済活動が重要になってくるといえるのかと思います。我々の仲間も近いところではないでしょうか。

旅行会社として関わる場合、宿との対応を上から目線ではなく、地域に寄り添いながら一緒に解決していくようなイメージです。行政ではないので、ビジネスのことに立ち入ることができ、また半分公的なポジションなので、一方で社会問題についても立ち入るスタンスでいます。

これからも地域とともにインバウンドを促進していきたいと思います。

— ありがとうございました。

◆活動目的や立ち上げメンバーは以下を参照

【活動目的】(定款から一部抜粋)

  1. 旅行サービスを提供または手配する旅行業社等に対する格付・認証制度の導入、導入支援
  2. 観光関連事業に従事する者に対する教育・研修・講演会の実施
  3. 旅行業法に基づく各種旅行の企画、販売、旅行業者代理業
  4. 観光開発に関する研究及びコンサルティング
  5. 旅行及び観光に関する情報収集及びその発信
  6. 旅行、観光に関する図書及び雑誌の出版
  7. 各種イベントの企画及び開催
  8. インターネットを利用した通信販売業及び各種情報提供サービス など

2030年に向けて旅行会社として持続可能な開発目標(SDGs)を目指し、フェアで健全な地域(観光地)づくりのための仕組みづくりを提案します。

【設立メンバー】
理事:高山 傑 株式会社スピリット・オブ・ジャパン・トラベル(京都第2-575) 
理事:壹岐 健一郎 有限会社リボーン(埼玉第2-1198号)
理事:井上 雪子 チェルカトラベル株式会社(京都第3-547) 
理事:亀津 淳司 Discover Walks(福岡県第3-662号) 
理事:鈴木 宏一郎 北海道宝島旅行社(北海道2種-597号)
理事:多田 稔子 一般社団法人田辺市熊野ツーリズムビューロー 
熊野トラベル(和歌山2-283号) 
理事:西谷 雷佐 たびすけ合同会社西谷(青森県3-146号)

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