インタビュー

台湾から訪日するベジタリアンは想定60万人!台湾で訪日ベジタリアンガイドブックを制作する25歳の挑戦

2019.11.13

印刷用ページを表示する


世界のベジタリアン人口は現在、3〜4億人と言われており、その数は年々増加している。訪日外国人のおよそ5%がベジタリアンというデータもあるが、訪日ベジタリアンの多くはレストラン探しに苦労し、非常食を持参する人も多いのが現状だ。

今回はインバウンドを迎え入れる上でいち早くベジタリアン対応に着目し、台湾人向けのベジタリアンガイドブックを発行した山崎寛斗氏にフォーカス。台湾と日本の2拠点でベジタリアン・インフルエンサーとしても活躍する同氏の活動についてご紹介する。

 

インバウンドにおけるベジタリアン数で、圧倒的に多いのは台湾

ベジタリアンとは「菜食主義者」のことで、ベジタリアンという言葉は「健全な、新鮮な、元気のある」という意味のラテン語 「vegetus」に由来する。ベジタリアンは世界中で増加の一途を辿っているが、インドではおよそ30%がベジタリアンとされ、ヨーロッパ諸国、東南アジアなどではベジタリアンの割合が10%を超える国も少なくない。一口にベジタリアンとは言っても種類がとても多いことをご存知だろうか。

例えばベジタリアンとヴィーガンでは、厳密には摂取できる食べ物が異なる。ヴィーガンは肉だけでなく卵や乳製品も食べないし、ベジタリアンの中でも魚は大丈夫と考えるペスコ・ベジタリアン、卵は大丈夫なオボ・ベジタリアンなど様々だ。中でも、オリエンタル(中華系)ベジタリアンと呼ばれる台湾、東南アジアなどに多いベジタリアンはかなり食べられるものが限られていて、肉、魚、卵、乳製品だけでなく、五葷(ごくん)と呼ばれるニンニクやニラ、ネギなどの野菜も食べない。台湾にベジタリアンが多いのは台湾仏教や道教といった独自の宗教に関係している。五葷を食べないのは、精のつく野菜であり、匂いも強いため、修行の妨げになるとされており、台湾ではベジタリアンフードのことを「素食」と呼んでいる。

ベジタリアンは比率だけで言えばインドやヨーロッパ諸国の方が多いものの、国・地域別のベジタリアンの比率と訪日外国人観光客数を合わせて見てみると、訪日台湾人のベジタリアン数が圧倒的に多いことがわかる(下図)。

台湾から訪日する観光客は年間約500万人で、その内ベジタリアンの数は60万人ほど。つまり、ベジタリアン率が高い国・地域の中でも台湾は圧倒的に訪日客数が多いため、大きなインパクトを生んでいるということだ。

 

台湾から訪日するベジタリアンに着目し、ベジタリアンガイドブックを制作

台湾から訪日するベジタリアンの需要に気づき、中国語の関西版ベジタリアンガイドブックを作ろうと一念発起したのは、フードダイバーシティ株式会社に勤める山崎寛斗さん。ガイドブックの制作費を募るため、今年4月にインバウンドに特化したクラウドファンディング「JAPANKURU FUNDING(ジャパンクル ファンディング)」に挑戦し、成功した。

 

▲山崎さんのクラウドファンディングには、台湾から多くの支援が集まった

 

山崎さんは現在、社会人4年目の25歳。タイのバンコクで育ち、その頃から漠然と海外に興味を持ち始めた。大学在学中には、北京に語学留学をして中国語をマスター。その後、訪日した人の日本へのイメージをもっと良くしたいと思うようになり、「日本の魅力を発信する」というビジョンのもと、学生団体を作り観光ガイドを始めた。ガイドをする中で、「ハラル、ベジなど食にポリシーを持った人がこんなにいるのに、連れていける場所がほとんどない」ということに気がついた。卒論研究中に出会ったのが、自由に任せてやらせてくれる社風のフードダイバーシティ株式会社の前身であるハラールメディアジャパン株式会社で、インターンとして携わるようになった。「ベジタリアンに関する情報発信をすることで日本の魅力を伝えたい、困っている人を助けたい」という想いから、その頃に出会ったマレーシア人留学生たちと一緒に動画を作成。ムスリムの人々が訪日旅行を楽しめるように東京の観光スポットや、ハラル食が食べられるレストラン、礼拝スペースなどの情報も撮影し、HALAL MEDIA JAPANの動画として配信させてもらうことになった。

▲ムスリムの人々楽しめる浅草のスィーツ店なども紹介している

 

海外のベジタリアンから潜在ニーズを掘り起こす

以前、1000人ほどの台湾人に「日本に来る時に非常食を持ってきていますか?」とアンケートを行ったところ、実に8割以上のベジタリアンがクッキーやカップ麺、おにぎりなどを持参している事が分かったそう。ベジタリアンに対応しているお店がない場所も多いし、探してもすぐには見つけられないから、行かないか、行っても食べないのだという。山崎さんは「せっかく日本が好きで何度も来てくれている台湾のベジタリアンも、こんな状況では日本にお金を落としてくれない」ということに気がついた。実際、予算に糸目をつけない台湾の富裕層にもベジタリアンは多いと言われており「対応をしていないことによる機会損失は大きい」と山崎さんは考えた。

そこで台湾人向けに、ベジタリアン対応している日本のお店の情報発信を「Japanese Vege」と題したFacebookページでスタートさせた。自分で写真を撮り、中国語で記事を書いていたところ、ファンも増え、今ではフォロワーが2万1,400人にも上っている。台湾ではベジタリアンを取り上げるテレビ番組があり、そこで自身のFacebookページが取り上げられた時の反響が大きく、台湾での需要があることに気がついた。

▲台湾人の友人も多い

 

台湾、香港のベジタリアンコミュニティはFacebookで10万人ベースのものが多い。それらのコミュニティが山崎さんのFacebookを応援し、シェアしてくれる。それらのコミュニティでは毎日、現地のコンテンツや日本のコンテンツが配信され、ベジタリアンに対応しているお店の情報などのやり取りも行われている。

山崎さんも始めは知らないことが多かったが、発信を続けていく中で、沢山のフォロワーに教えてもらいながら、彼らがどんな情報を欲しているのかを日々学んでいる。それまでは山盛りネギが乗っているものも発信していたが、ネギも食べられない人がいると分かったのは、フォロワーからの指摘による。また、野菜だけのお好み焼きと発信しても、「その鉄板って、豚肉を焼いたものじゃないの?」といったコメントや、ごま油で野菜を揚げた天ぷらにも、「それって鶏肉も一緒に揚げているよね?」というコメントが寄せられることもあった。「そういうところも気にするんだ」と感じ、色々と学びながら皆が必要とする情報を探っていったという。

浅草を中心としたコンテンツが集まった時点で、最初は東京版ガイドブックを作ることにした。台湾最大級のクラウドファンディング「flyingV」で資金を集めて「東京食素!美味蔬食餐廳47選」と題したガイドブックを制作し、2018年12月に台湾などのアジア5地域で販売開始。発売から3カ月で増版が決まるほど人気を呼び、すでに5000部が販売された。

▲台湾の書店では、日本の旅行ガイドブックのセクション並んでいる

東京版発行と同時に多くのフォロワーから寄せられたのは、関西版を待ち望む声だった。そこで着目したのがインバウンドに特化した日本のクラウドファンディング「JAPANKURUFUNDING」だ。目標金額を100万円に設定し見事目標金額を達成した。すでに関西のベジタリアン対応レストラン50店舗を取材も終え、来月12月の出版に向けてた最終段階となっている。

 

日本各地と台湾を、そして世界を繋げる

「レストランは100%ベジタリアンで席を埋める必要はない」と山崎さんは言う。「もとの味は守りつつ、常連客がいる状態で徐々にベジタリアンにも対応していく。こうしたスタンスでやっているお店は比較的うまくいっています」。ベジタリアンの客が1日数人だったとしても、月単位、年単位で考えればそれなりの売り上げにつながるということを忘れてはならない。また、「ベジタリアンの定義は100人に聞けば100通りある」と山崎さんは語る。レストランでベジタリアンに対応しない一番の理由は「何かあったら怖い」というものだ。しかし山崎さんは、逆に明確な情報開示をすることで、利用者側に判断してもらうこともできると指摘する。

「台湾からの訪日ベジタリアンに情報を提供し、台湾と日本の架け橋になること」を自身の大切なミッションの一つとして掲げている山崎さん。しかし、架け橋になるためにはガイドブックの力だけでは足りないと考えている。本を手に取り、読んでみて、喜んでくれる人がいる。その波及効果でお店を出して対応を始めようと思ってくれる人がいる。自治体がそれを知り、自分の地域で取り組みをやってみたいと思う。ガイドブックをきっかけに、今後はより一層ネットワークを広げていきたいとのこと。

また、フードダイバーシティ株式会社に所属したまま、社内ベンチャーとして起業も果たした。社名はフリーフロム。ミッションは「日本と世界をプラントベースで繋ぐ。そして地球環境、日本の経済の発展に貢献する」をミッションとして掲げている。プラントベースとは欧米で広がりつつある、人間の都合で動物を使わないために植物由来の食品を中心とした食事方法。台湾に多いオリエンタルベジタリアンに向けた動きから、さらにその活動の幅をぐいっと広げていくことになるだろう。プラントベースなプロダクトを日本各地から発掘し、それを世界に広めていくこともしていきたいという。

「日本に来てどんなに美しいものを見たり体験したりしても、食が伴わなければダメ。そこを根底から変えたていきたい」と語る山崎さん。25歳の飽くなき挑戦は、今後もまだまだ続きそうだ。

 

 

最新のインタビュー