インタビュー
地域の観光資源を磨いて連携 インバウンドを国民運動へ
2020年に開催が予定されている東京オリンピック・パラリンピックに向け、数々の外国人観光客誘致の施策が打ち出されている。しかし、2020年以降、それらが持続可能なものとなっていくか。危惧する声もあがっているのは確かだ。公益社団法人 日本観光振興協会の理事長である見並陽一氏は、すでにその先の日本の観光産業の在り方について見据えていた。
プロフィール:
昭和25年三重県生まれ。大阪大学を卒業後、昭和49年 日本航空(株)入社。平成4年東日本旅客鉄道(株)入社。
東京地域本社旅行業部長、東北地域本社営業部長、取締役鉄道事業本部営業部長、取締役カード事業部長、取締役IT事業本部長などを経て、
平成18年常務取締役鉄道事業本部副本部長、
平成23年常務取締役観光振興(全般)に就任。
平成24年6月より現職。
観光地や観光資源の連携を強めることで、新たな観光ルートを創出
村山
まずは、日本観光振興協会様の事業内容から教えてください。
見並
私たちは、日本の観光振興のナショナルセンターとしての役割を果たすべくミッションを受け、発足した団体です。元々は地域の魅力を国民の方々へプロモートするという役割を担っていましたが、近年のインバウンド需要をにらみ、日本ブランドそのものの魅力を発信するという役割まで領域を拡大して取り組んでいます。
私どもが日本全国の関連団体とともに推進している事業は二つ。
まず自分たちの持っているものを発掘して磨き上げること、そしてもう一つは人材育成になります。
まず前者についてですが、磨き上げるためには、何かと何かをこすりあわせて研磨しなくてはなりません。すなわち連携が重要ということになります。
この連携にも2つあると考えていて、ひとつは観光資源の連携、そしてもうひとつ観光地の連携があると考えています。
村山
なるほど。観光地や観光資源の連携によって、どのような効果が生じると考えられるのでしょうか。
見並
近年、インドネシアやミャンマーの人たちが、日本の産業が辿ってきた道をたどる、例えば北九州のコンビナートや設備、秋田県の小坂町の鉱山や鋳鉄技術などを見学するという「産業観光」の需要が高まりを見せています。
産業観光では県域などのエリアの垣根を飛び越え、産業というカテゴリで連携したツアーが企画されたり、あるいは上記の例でいけば、地場産業を見学した後に、地域の温泉や自然の景観、史跡などの観光資源誘導することも考えられます。
また、北前船をテーマとすれば、その寄港地が観光地として連携することが考えられます。このような連携によって、これまでとは違った魅力を持つ新たな観光ルートが成立することとなります。
村山
おっしゃる通りですね。従来の日本人の感覚では組み合わせることがなかった、新たな連携が生まれるのですね。
人材育成はどのようなカタチで進められているのでしょうか。
見並
せっかくの観光資源をきちんと指し示すことができる人材が必要となります。特に、インバウンド2000万人に時代がやってくれば、確実に地域の観光にも波及していくことは間違いありません。
そして、観光が日本のリーディング産業となっていくことは間違いないのですから、この産業に身を置いて良かったと思えるような誇りが持てる仕組みを作っていくことが必要です。
そして、地域観光の活性化が環境保全と地域共同体の社会生活向上へと繋がっていかなければならないのです。
観光資源と地域が共生することがインバウンド活性化のカギに
見並
追い風になっているのは確かですが、事業モデルそのものは変換期にあると捉えています。
そこで、地域と人間が共生することが観光の意義と捉えれば、環境と地域文化に基軸をおくこととなり、そういう意味ではようやく日本の観光が本質的なところに到達してきたといえます。
だからこそ、観光に関与する人間は皆、過去にとらわれず、真剣にならなければならない。エンドユーザーにとって何が良いのか、地域にとって何が良いのかを考えなければならない時がやってきたのです。
村山
観光関係者は、いったい何をすれば良いのでしょうか。
見並
観光の根底に環境保全や地域社会の保全という考えがあるならば、かなり哲学的、あるいは社会学的領域へと近づいていくことになります。
観光事業者にもこのような知識が求められることは間違いありません。
だからこそ、私たちは人材育成に力を入れており、最近では、それもずいぶんと手ごたえを感じるようになってきました。
そして、そういった人材を介して、観光資源と地域がしっかりと馴染んでいかなければならない。
有名な観光資源があるだけでは、インバウンドは活性化しない、観光客が増加しないということは皆さん、身を持って実感しているはずです。
観光は観光資源と地域が共生を果たさなければ力を発揮しないのです。
村山
観光資源と地域が共生するためには、まずは地域の方々が、自分たちが持つ魅力に気づくところからはじめるということでしょうか。
見並
その通り。まずは自分たちの手で自分たちの地域の資源を全部棚卸ししてみる。
コンサルティングなど外部団体が入ってくるのは、その次の段階、編集者視点が必要になってからで良いわけです。
英語がしゃべれなくたっていい、自信があれば堂々と日本語でご案内すればいいのですから。
おもてなしというのは、表面的な作法ではなく、自分たちが大切にしてきたモノを真心こめて紹介すること。
それこそが精神的なおもてなしなのです。
そして、どこにいっても同じおもてなしや料理を提供するのではなく、地域それぞれの個性を生かして役割を分担し連携することで、すべての地域が観光地になりうると考えています。
地域の観光資源を磨くことで、2020年以降も持続可能なものに
村山
今年に入り、日本観光振興協会様が主催となる「観光立国推進協議会」が開催されていますが、その意図についてお聞かせください。
見並
何事もそうですが、オールジャパンという体制を敷いて新たなモデルを作る時には、色々な人が色々なアイデアを持っているものの、それをつなげる場がないということは往々にしてあることです。
特に観光というのはすそ野の広い産業なので、例えばIT産業や製造業など異業種のアイデアも取り入れていくべきもの。
産業が成熟化している今日では、それぞれのジャンルに専門家がいて、独自のノウハウを持っているわけです。
それらの知的資源を共有して議論を行い、消費者に提供できるような事業として成立させましょうというのが、この「観光立国推進協議会」の狙いとなります。
ですから、メンバーは観光産業に加え、地域や食、文化、芸術、ファッションなど観光関連産業の団体、企業の代表者を中心に100名程度で構成しています。
それぞれのマーケティング力を総合して観光振興に生かしていこうというものです。ベンチャーもレガシーも参加して、新たな視点と旧来構造を融合し、新たな発想が生まれることを期待しています。
村山
すばらしい取り組みですね。
見並
さらに、もうひとつの役割としては、各地でどんどんフォーラムを開催し、観光の持つ力を消費者や観光に従事する現場の方々ひとりひとりに認識してもらう、いわば“国民運動化”して、観光で日本を元気にしようという意図もあります。
国民ひとりひとりが自分の国に誇りを持って、他の国から来た人に日本を理解してもらう。そして、その結果として経済的利益を獲得することが、観光立国の正しい姿だと認識しているのです。
村山
私たちひとりひとりが意識を変えることで、日本が本当に意味での観光立国となるということですね。
見並
そういうことです。そして、来るべき2020年、東京オリンピック・パラリンピックまでに、東京だけでなく地域の観光資源を磨き上げ、その効果を波及できる道筋を作っておく。
仕組み作り、連携をしていけば、各地域が世界に通用する観光地になっていくはず。
そうなれば、2020年が終わっても持続可能なものとなっていくのです。
時間軸での連続性と空間としての広がりの両方が実現できるよう、私たちは一歩一歩着実に、やるべきことを進めていくつもりです。
村山
本日は、ありがとうございました。
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