インタビュー
医療の国際化を推進することで日本の医療レベルはアップします
プロフィール
1955年4月3日生まれ。フランス共和国立エックスマルセイユ大学1981年卒。山一證券国際部証券アナリスト、CICユニオンヨーロピエンヌ銀行駐日代表、エクサン証券東京代表を歴任。
現在は、日本エマージェンシーアシスタンス株式会社代表取締役社長のほか、観光庁「インバウンド医療観光に関する研究会」研究会委員、経済産業省「サービス・ツーリスム(高度健診医療分野)研究会」オブザーバーとして活動。
- 目次
- フランス駐在時代にアシスタンス業の必要性を実感
- 日本と海外生活との間の”ギャップ”を埋める
- 日本の医療は期待できる産業各機関と連携し国際化を推進
フランス駐在時代にアシスタンス業の必要性を実感
日本エマージェンシーアシスタンス株式会社様にお伺いし、代表取締役社長でいらっしゃいます吉田一正さんにお話をお聞きします。
村山
まずはどのようなきっかけで、こちらの会社を設立されたのか教えていただけますか。
吉田
高校を卒業してから7年間フランスの大学に在学していました。帰国後、ちょうどバブルの前で山一證券の本社国際部に証券アナリストとして中途採用され金融のキャリアをスタート、その後山一のフランス現地法人に赴任、経営に携わることになりました。そこでフランスのアシスタンス会社、すなわち海外旅行者のサポート事業と出会ったのです。それは当時の取引先のひとつだったのですが、「フランス人の次に英語ができないのが日本人。だから、今後はアシスタンス事業の需要は確実に伸びる」といわれ、その会社の日本向け事業を手伝ってくれるのならば「証券の契約を進める」という交換条件を出されまして…(笑)。
村山
最初は副業のようなスタンスで始められていたとは驚きでした。しかし人から感謝される仕事だったからこそ、情熱を注ぐことができたのでしょうね。
吉田
まさにその通りですね。
日本と海外生活との間の”ギャップ”を埋める
村山
御社の業務内容について、詳しく解説していただけますでしょうか。
吉田
はい。当社の主たる業務は「アシスタンス」と総評されるものです。海外で日本人が遭遇する様々な困った出来事、それは例えば健康上のトラブルであったり、社会の仕組みの違いによって生ずる問題であったり。日本での生活と海外生活との間に生ずるそんな”ギャップ”を埋める役割を担っています。
村山
具体的にはどのようなお仕事をされているのでしょうか。
吉田
まず、もっとも大きなウエイトを占めるのが、海外旅行保険のサービス業務です。言葉の壁がある海外の病院においては、実際にどのような手続きを取れば良いのか、わからないことはたくさんありますよね。そのような問題をひとつひとつ解決していくのが私どもの役割のひとつなのです。
村山
それは旅行者にとっては大変便利で心強いサービスですよね。
吉田
そうですね。保険の問題だけに限らず、他の様々なトラブルに遭遇した日本人をサポートするために、200名強の日本人スタッフを世界8箇所の直営海外センターに配置しています。とにかく、色々な相談が集まってきますよ。さらに当社の母体であるヨーロッパアシスタンスのネットワークサービス網、世界35カ国、38箇所のアシスタンスセンター、208カ国の現地エージェントを駆使し、24時間体制にて電話一つで懇切丁寧に対応しております。
村山
なるほど。海外旅行保険のアシストのほかにはどのようなサービスを提供されているのでしょうか。
吉田
クレジットカード会社様からのご依頼によるコンシェルジュ業務も担当しています。他にも顧客と直接契約をして行う海外出張時のサポートや、留学生向けのサポート業務も提供しています。
村山
留学生向けのサポートというのは、どこまで踏み込んだサービスを提供されているのですか。
吉田
日本の大学と海外に行く留学生、そしてその親御さんの三者に対してのサービスです。海外に居る留学生におきる様々なリスクへの支援、大学や親御さんには大切なお子様が今、どこにいて何をしているのかといった安否確認を含む行動管理報告を徹底することで安心を提供しています。
村山
なるほど。それならば、留学生の親御さんも大変安心できますね。さらにグローバル化が進み、観光のみならずあらゆるシーンにおいて、あらゆる立場の日本人が海外へと進出していく中、御社のような企業の存在がさらにクロースアップされていくのでしょうね。
吉田
ありがとうございます。最近では、今まで説明してきた逆のパターン、すなわち、海外から日本にやってくる旅行者に対するサポートも行っています。例えば、よくあるケースとしては海外の保険加入者が、日本で医療を受けた場合に、その間に入って双方へのサポートを行うなどといったサービスですね。そして、もうひとつの業務の柱として、経済産業省と観光庁が推進している、海外からの患者を受け入れる「医療国際化」業務に対する支援にも力を入れています。これは、インバウンドの一環としても考えられています。
日本の医療は期待できる産業、各機関と連携し国際化を推進
村山
インバウンドと医療国際化業務へ着目されたきっかけを教えていただけますか。
吉田
フランスの大学に在籍していた頃の話ですが、ご存知の通りフランスは移民が世界一多い国で、様々な人種の学生がそこに集まり、みんなフランス語を使ってフランス式のロジックにて議論をしている光景を目の当たりにしてきました。自国に海外の人を受け入れ、同化させることにより、フランス文化を発信しているわけです。そういう感覚は、残念ながら今までの日本に欠けている部分です。したがって、現在のインバウンドに対する日本の取り組みというのは、そんな意味でも非常に注目に値すると認識していました。
村山
なるほど。それは大変興味深いお話ですね。では、医療の国際化への取り組みについては、どのようなきっかけが?
吉田
元々、国と医師との間で議論が進められていた、この海外の患者さんを日本の病院で受け入れていくという事業を、より具体性のある現実問題として捉えたときに、どうしても文化の違いや言語による受診の祭の問題や保険支払いの問題による様々なトラブルが生ずることが予想されていました。不安を感じていた医師の間でアシスタンスに対する必要性が論じられるようになり、医師側の推薦で、経済産業省が設置する「サービス・ツーリズム(高度健診医療分野)研究会」および観光庁主催の「インバウンド医療観光に関する研究会」のメンバーとして招かれたのが始まりでした。この研究会では、有識者が集まって日本における医療の国際化を推進するための具体案の検討を行っています。
村山
どのような課題が存在していますか。
吉田
日本の医療のレベルが高水準にあるにも関わらず、諸外国においては、その印象は意外にも希薄です。例えば中国の方でしたら、まず香港、シンガポール、バンコクと続き、スイスやドイツ、アメリカの医療のレベルについての好印象を持たれており、日本の優位性は明確にはなっていません。しかし、実際に中国の患者の方を日本にお連れしての実証事業を行ってみると、「院内は清潔で、医師は丁寧で説明もきっちりしてくれる」と非常に評判は良いですし、言葉の壁さえ乗り越えればリピーターとなる可能性が非常に高いということがわかりました。私どもは、日本の医療が期待できる産業であると捉え、国や医師、さらには自社以外のアシスタンス会社、旅行会社などの関連機関と連携しながら、この医療の国際化を推進していきたいと考えています。
村山
その取り組みを行うにあたって、官学民の足並みはしっかりと揃っているのでしょうか?
吉田
もちろん様々な問題はあります。医療と観光とあわせて集客したいと考える観光庁と、医療の産業化の先鞭と考える経済産業省との間でも認識や思惑が違いますし。しかし、はっきりといえることは日本の医療が本来の意味での国際化を果たしたときに、そのレベルは間違いなく上がっていきますし、それを享受できる日本人にとっても意義のある活動であるということです。今後も各関係者とともにしっかりとした議論を重ねていきながら協力していきたいと考えます。
村山
今日はお忙しい中、ありがとうございました。
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