インタビュー
壮大なアジア·ネットワーク構想に尽力、“移動”が世界を元気にする
プロフィール
1963年生まれ
1994年5月:WILLER TRAVEL株式会社(旧株式会社西日本ツアーズ)を大阪市に設立。同代表取締役社長に就任
2005年6月:大阪市北区にWILLER ALLIANCE株式会社(旧西日本ホールディングス株式会社)を設立。同代表取締役社長に就任
2006年1月:大阪市北区にWILLER BUS株式会社を設立。同代表取締役社長に就任
2006年4月:高速バス「WILLER EXPRESS」事業を開始
目次
- 安価で機動力のある”バス”。そんな”アナログ”への可能性
- ウィラーが中心になって推進するアジアの交通インフラ・ネットワーク
- 新しい属性に合わせたサービスを作り。そしてアナウンスをしていく
安価で機動力のある”バス”、そんな”アナログ”への可能性
村山
創立以来、躍進を続ける御社ですが、まずはその成り立ちからお話いただけませんでしょうか。
村瀬
大学生時代に旅行サークルに属しており、スキーやスキューバといったスポーツを通じて全国の若者が集まり、交流できるような場を作っていました。
その活動を通じてわかったのは、”移動”という行為の中には、多くの素晴らしい出会いや刺激的な体験、新しい発見など、人に元気を与える要素がたくさんあるのだということ。移動をすることで人が元気になるのであれば、そういった環境を作っていきたい、そんな思いでサークル活動を続けてきました。
それがある日、付き合いのあった旅行代理店の人が「君たちは面白いことをやっているから会社を作ったら」と言っていただいて。
そのときは、私が代表だったわけではなく、一メンバーとして参加し、学生時代の延長のような感覚でサラリーマンをスタートしたのです。
村山
その会社から独立をされたのですね?
村瀬
30歳のときに、会社との方向性の違いを感じて起業を決心しました。
当初は、先ほどもお話した、出会いや体験といった人を元気にする要素を組みあわせて、若い人のレジャーを創造しようと、移動先のイベントと絡めたパッケージを提供していました。そして、40歳になった時に、ただ単にお客さんを集めるだけではなく、社会貢献度の高いビジネスを始めようと考え、それはすなわち”移動”を活性化することだと至りました。移動を主体とし、当社の第二期成長戦略と位置づけたのです。
村山
なるほど。それが始まりだったのですね。活性化すべく”移動”にバスを選んだのは、どういった理由からでしょう。
村瀬
バスに可能性を見出した理由は、まず、”安い”ということ。そして、線路や駅や空港がなくても、日本全国、津々浦々運行が出来るということ。さらに、「乗りにくい」「わかりにくい」というイメージがあり、アナログっぽさが残されていたがために、逆に可能性の大きさを感じました。
そこで、まず大都市と20万人以上の地方都市を中長距離バスで結び、各地方の乗り合いバス会社との連携で全国のバスネットワークを作ろうと考えたのです。
手始めに東京~大阪間の1路線からスタート。PCやケータイ予約やチケットレスを導入して”簡単便利”にし、乗りにくいイメージやサービス環境を改善。新たなバスの価値を提供し、それまでのバスへの思い込みを変えることを目指してきました。その甲斐あってか、目標としていた5年間で、20万人以上の日本の都市の全てを網羅。ハブ&スポークスの体制ができあがり、続いて、現段階では地方の路線バスとの連携を進めている段階です。
ウィラーが中心になって推進するアジアの交通インフラ・ネットワーク
村山
御社では多言語サイトを運用されていますが、海外観光客の利用状況はいかがなものでしょうか。
村瀬
私どもの理念である「世界中の人の移動にバリュー・イノベーションを起こす」ために必要な取り組みの一環として、2009年にインバウンドを視野に入れた多言語サイトの運用を開始。昨年度の実績では、約3万件弱の予約を受けました。延べで138カ国から、インターネットを介し自分で予約して乗車をする、個人の旅行者の方にご利用をいただいているのです。
これまで、彼らにとってネックだったのが、日本の交通手段の料金の問題。そして、”わかりにくい”という点もあげられます。
価格の安いバスという交通手段があることをアナウンスし、フリーパスなど外国人向け商品のリリース。そしてバス停や車内の案内表示も多言語化し、個人旅行者であっても安価で安心して利用できる体制を整えてきたのです。
村山
それは素晴らしい取り組みですね。確かに、一般的にいえば、海外旅行でバスに乗るのはとても不安ですからね。そして、乗り継ぎなどあったら、本当にわかりづらい(笑)。
村瀬
問題はそこなんですよ。航空機とかバスとか電車とか、乗り換えや乗り継ぎが難しく複雑となっている目的地までの交通手段を、ワンストップで購入できたら便利ですよね。
私たちは、それを日本国内のみならず、アジア単位で考えたいと思っています。
例えば、ヨーロッパに旅行に行くと、皆さんは1カ国では終わらないですよね。2週間くらい休みが取れたら、1カ国の旅行では物足りなくなりますから。だから陸続きのヨーロッパではインバウンドが活発なんです。
ですから、日本も、移動インフラの面でアジア・ネットワークを構築すれば、海外からの旅行者は、日本を含め、2週間掛けてたっぷりアジアを回るようになるはずです。
村山
なるほど、環アジアでインバウンド、という感覚ですね。素晴らしい構想ですね。
村瀬
現在、韓国のLCC数社やアジア圏の高速バス会社と連携しアジアを安心して横断できるような仕組みを作っているところです。
ウィラーが構築したシステムを活用して一括予約ができて、多言語化はもちろん、標記などの統一を図り、とにかくわかりやすくする。実は日本の飛行機、鉄道、船、バス各社も参画予定で、今年の12月には一部運用が開始されます。
私たちは、長年やっている交通インフラ会社ではなく、元々は旅行会社だったので、あるものとあるものをくっつけて、より便利にすることに対し抵抗がないどころか、新しい価値を生み出すという意味で、むしろ積極的に推進するというスタンス。
アジアの交通インフラのネットワーク化が確立すれば、旅行者はもちろん、それぞれの交通事業者にもメリットが生じるのは間違いありません。
新しい属性に合わせたサービスを作り、そしてアナウンスをしていく
村山
先ほど村瀬さんがお話された、従来のバスのイメージを覆すようなサービスや設備を次から次へと導入され、我々を驚かせてくれるウィラーさんですが、その発想はどこから生まれるのでしょう。
村瀬
まず私たちは、価値を創造し続ける会社でありたいと思っています。
価値を創造していかなければ市場の発展はないと。要するに既存のバスの利用者を同業で取り合うのではなく、今までバスの利用がなかった層を獲得すれば良いということです。
新しいセグメントを作って、その属性が求めるサービスを用意する。ビジネスマン向けのシート、または女性向けといった具合に……。
属性を増やしていかなければ発展はありえませんから、そのために新しいアイデアを次から次へと考えて、どんどん投入していったのです。
そのような経験から、今後は”インバウンド専門”というセグメントをニーズに合わせて用意する可能性もあります。
例えば、既に導入が決定しているのですが、海外客から要望が多いWi-Fiの完備とか。新しい属性に合わせたサービスを作り、そしてアナウンスしていくことが重要ですね。
村山
すでに、インバウンド発展においては、交通インフラの活性化こそが重要なファクターであると、先見の明を持って事業活動をされてきた村瀬さんですが、現在の日本におけるインバウンドの課題は何だと思われますか。
村瀬
一般的にいわれていますが、やはり受け入れ態勢ができていないのだと思います。
日本人も外国人慣れしていないから、話しかけられないように避けてしまう。本当は簡単な英語でもコミュニケーションがとれるというのに(笑)。
やはり案内が不十分ですと、外国人観光客も不安になりますから。そういった意味では、あまり来やすい国とはいえません。
先ほども申し上げたように、交通インフラがわかりづらく値段が高いという問題も大きな要因だったと思いますが、その部分に関していえば、私たちの取り組みによって解消していく所存です。移動を束ねる部分は我々の役目であると自覚しているので、しっかりしたプラットフォーム作りを進めていくつもりです。
あらゆる事業者が自分の持ち味を活かしながら協働し、諸外国に日本の良さを伝え、そしてオールジャパンで受け入れていく体制を作っていくべきだと思います。
冒頭で述べたように、移動で人間は元気になるのですから、移動の活性化が進めば、日本を、そして世界を元気にできるはず。そんな思いを持ちながら、頑張っていきたいです。
村山
オールジャパン!とても素敵な言葉ですね。村瀬さんのお話をお聞きしていると誰もが元気をもらえそうです。また、交通インフラという生命線を活性化することは、インバウンドにとっても、大変重要な取り組みである感じました。僭越ながら、今後の更なるご活躍を祈念いたします。今日はお忙しい中、ありがとうございました。
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