インバウンド特集レポート
すでに「やまとごころ.jp」でも触れたとおり、今年で6回目となる「2020 Sustainable Top 100 Destinations(世界の持続可能な観光地トップ100選)」が2020年10月に発表され、日本からは2018年から同選に選ばれ続けている岩手県の釜石市に加えて、京都市、ニセコ町(北海道)、三浦半島(神奈川県)、白川村(岐阜県)、沖縄県が選出されている。
「世界の持続可能な観光地トップ100選」とは、国際的に認証団体の1つであるオランダのグリーン・デスティネーションズが行っているもの。地域側でレポートを作成・提出し、そこで一定の評価を得られれば、トップ100に入ることが可能となる。
こうした世界的に認められている国際指標に準拠することは、欧米を中心に増え続けているサステナブルな思考をもつ旅行者への訴求力を高めることにつながる。
では、具体的にトップ100に入った海外の地域ではどんな取り組みが行われているのか。台湾・新北(しんほく)市ならびに宜蘭(ぎらん)市にある「東北角及び宜蘭海岸国家風景区」とスペイン・カタルーニャ州にある「バルゲダ(Berguedà)」の2つのエリアをとりあげたい。
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惜しくも釜石が後塵を拝した台湾随一のサステナブルな観光地とは?
「世界の持続可能な観光地トップ100選」にも選ばれている台湾の「東北角及び宜蘭海岸国家風景区」は、Sustainable Destinations Awards 2020のBest of Asia-Pacific部門で第1位に輝いているエリア。ちなみに、同部門で惜しくも第2位となったのは、拙著『観光再生』でも言及した釜石である。
東北角及び宜蘭海岸国家風景区におけるサステナブル・ツーリズムへの取り組みで、最も注目したいのは、日本統治時代である1920年代に作られた「舊草嶺自行車道」というトンネルの活用だ。
日本語で「旧草嶺(そうれい)トンネル」と呼ばれるこの全長約2キロのトンネルは、1985年に廃止となり、その出入り口も封鎖され、20年以上に渡って放置されてきたという。しかし、同エリアの持続可能な観光を促進する目的から、2007年に遊歩道として、さらに2008年にはサイクリングロードとして活用されることになった。
その後、2013年にはサイクリングロードとして整備された約20キロの「東北角地区自転車道」となり、玄関口である福隆駅を起点にした、漁村や海岸の景色を楽しむことができる人気の観光コースとして知られるようになった。
旧トンネルという文化的な遺産を再利用し、自転車に乗った観光客を周辺の漁村地域へ接続することで、同エリアに点在する小さな集落の文化や伝統を守ることにもつながる持続可能な観光開発を成功させたという点において、国内外から高い評価を浴びている。
地元住民の生活満足度の定点観測も行っている
もちろん東北角及び宜蘭海岸国家風景区が行っている取り組みは、それだけではない。日本でも注目度が高まっている脱炭素への取り組み、廃棄物の削減、エネルギー消費の節約といった点で、観光が及ぼす悪影響を最小限にとどめるためのガバナンスをきかせるシステムを2016年から構築している。2019年からは観光客だけでなく地元民の生活満足度を定期的に調べることで、この地を訪れる観光客の質の担保に努めているという。
加えて、同エリアの事業者に対しても、持続可能な行動を積極的に採用するよう促している。具体的にはGOOD TRAVEL SEALと呼ばれるエコラベルの取得を推奨している。GOOD TRAVEL SEALは中小企業や家族経営の宿泊施設などでも取り組むことができるエコラベルで、環境への配慮や観光客の満足度への貢献だけでなく、経済的にも優位性が得られるもので、Sustainable Travel Taiwanが同エリアでパイロット事業として運営しており、すでに複数の事業者が取得済みだという。
Best of Communities & Culture部門で入賞、スペイン内陸部バルゲダとは?
次に、スペインのカタルーニャ州の内陸部に位置するバルゲダの取り組みを見ていきたい。2018年に生物圏に配慮した責任ある観光の認証機関であるBiosphere Responsible Tourismによって持続可能な目的地であるとされ、2019年からは「世界の持続可能な観光地トップ100選」にも選ばれている。先の台湾・東北角及び宜蘭海岸国家風景区や釜石と同様、Sustainable Destinations Awards 2020において、Best of Communities & Culture部門で入賞している。
いわばスペインを代表するサステナブル・ツーリズムの先進地域といえるバルゲダは、車でバルセロナから1時間、フランスの国境からも30分に位置し、人口は約4万人。農業や放牧、林業が盛んであるが、これらは観光業と組み合わされていることが多い。
バルゲダは観光業に限らずあらゆる分野で持続可能な地域になることを目指している。たとえばカタルーニャ州で初めて固形廃棄物の戸別収集を実施した(2018年より)ことで知られている。徳島・HOTEL WHYの記事でも触れているとおり、ゼロ・ウェイストを目指している徳島の上勝町がゴミのリサイクル率80%であるが、バルゲダにおいても地元住民と観光客の両方からの協力のもと、リサイクル率が80%に達しているという。
また、観光にも密接に関わる交通分野では、スロー・モビリティ・ネットワークの構築に取り組んできたという。散策ならびにサイクリングのための道は、すでに2000キロも整備されており、環境に優しい交通手段の利用を観光客と地元民の両方に推奨している。
さらに、ほぼすべての地域で、公共バスが手頃な料金で運行されていることに加え、定期バスの運行が難しい小さな集落では、「トランスポート・オンデマンド」と呼ばれるサービスが広まっているという。同サービスは、集落から主要な町のバスターミナルまで、タクシーを低価格で活用できるというものである。
バルゲダ観光局が訪問者に対して投げかけている5つのこと
バルゲダ観光局は、ホームページなどを通して、当地を訪れようと考える観光客への呼びかけも行っている。「バルゲダの暮らしに敬意をもちながら滞在するための方法」を以下のように紹介している。
・責任をもって移動する
自家用車をあまり使わず、旅の最後にはあなたの足跡を埋め合わせましょう。できれば公共交通機関を利用して来られることをお勧めします。それが不可能な場合には、バルゲダに入ったら徒歩、自転車、馬、あるいは公共交通機関を優先してください。
・小さな努力が大きな変化を生む
バルゲダの滞在時には、環境への取り組みが認証されている企業や地元の施設を利用しましょう。
消費者であるあなたは、自分の意思決定に大きな力を持っています。可能な限り、環境認証(Biosphereなど)を持っているサステナビリティにコミットしている観光会社や宿泊施設を選ぶようにするということです。
・資源の消費を最小限に抑え、環境をそのままに
バルゲダは2018年から選択的廃棄物収集(戸別)に取り組んでいます。あなたはこの土地の訪問者として、リサイクルのための適切なゴミの分別に協力する責任があります。
・農場から食卓まで、よく食べる楽しみ
独自の調理法を維持してきた地域の伝統的な特産品を買い、消費しましょう。 私たち(バルゲダ観光局)は、オーガニックな肉、穀物、豆類、ジャガイモ、野菜といった環境に配慮した旬の食材を生産する地域にいることを幸運に思っています。私たちは、静けさ、シンプルさ、真の健康的なライフスタイルを担う有機栽培の生産者を紹介しています。あなたは、この地域の美食体験を楽しんだり、地元の生産者と共に施設を訪問したりもできるのです。
・バルゲダがもたらす幸せへのリターン
バルゲダでの滞在があなたに幸せの瞬間を与えてくれたなら、ガイド、宿泊施設、ショップ、観光局などに、自然・文化遺産の保護・修復に取り組んでいる地域団体や取組みについて尋ねてみましょう。あなたの気持ちをわずかでもいいので寄付に変えることで、地域を良くすることに協力できます。
観光疲弊国にならないための「量から質への発想の転換」に向けて
世界的な枠組みに参画することに対して、「日本では、欧米とは異なったロジックで持続可能性に取り組んでいる」という具合に、疑義を呈する声も少なくない。そうしたなかで、グリーン・デスティネーションズの「2020 Sustainable Top 100 Destinations(世界の持続可能な観光地トップ100選)」において、従前の釜石に加えて、京都市、ニセコ町、三浦半島、白川村、沖縄県が加わったのには、大きな意義がある。
『観光再生』でも言及したが、元フィンランド政府観光局日本局長で、現在は株式会社フォーサイト・マーケティングのCEOである能登重好氏は、「ヨーロッパの旅行業界ではサステナブルな取り組みをしていないベンダーとは取引しないという姿勢が顕著で、ビジネスの土俵に立つために欠かせなくなっています」と指摘している。つまり、経済的な持続性を担保するためにも総合的なサステナブルな取り組みが不可欠であるということだ。
日本が“観光疲弊国”にならないためには、従来の観光客数という“量”を追う方向から、“質”を追い求める発想の転換が欠かせないだろう。これはコロナ禍の発生によってより顕著になってきているともいえる。
もちろん必ずしも欧米における枠組みを活用する必要はないが、「日本は欧米の事情とは異なる」ということで、一切の検討の余地を無くしてしまうのもいけない。先行する6つの日本の地域の取り組み、あるいは本稿で紹介したような世界の動きにも注視しながら、広い視野で何をすべきか検討していく必要があるだろう。
(執筆:村山慶輔)
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