インバウンド特集レポート
2年半以上にわたる厳しい入国規制を経て、ビザなし渡航、個人旅行が解禁、2022年はようやく本格的なインバウンド再開の年となったが、2023年はどのような1年になるのか。各市場の専門家による市場予測と観光・インバウンドに携わる事業者に向けてのメッセージを紹介する。
2023年のインバウンドを予測する記事はこちらも
台湾市場
所得が高い若年層の個人旅行から再開。デジタル対応がカギに

誠亞國際有限公司 代表 矢崎 誠
台湾では、2022年10月13日の水際対策緩和により海外旅行が事実上再開した。ここ数カ月の訪日旅行客層を見ていると、健康状態の不安が比較的少ない若年層・中年層から訪日旅行が戻ってきている。但し、航空料金の高騰や同時期に日本国内ではじまった全国旅行支援による宿泊費高騰が円安によるメリットを相殺してしまっていることから、ある程度経済的に余裕のある層が中心となっている。さらに台湾旅行会社の話によると、価格の問題と共に日本国内の宿泊施設予約が困難な状況であることから、特に一般募集型団体ツアー客の戻りが芳しくないという。
また、全国的に空港における人員不足の問題が深刻なことから、現在の日台間の主要路線の便数はコロナ前の水準には遠く及んでいないほか、地方空港においては運航再開の目処すら立っていないところが数多くみられる。
これらの要件から鑑みるに、2023年の台湾発訪日市場においては「若年層・中年層」「中・高所得者層」「FIT・ミニグループ」「主要都市拠点」が重要なキーワードになってくるが、下半期になれば地方への航空路線や団体ツアーも緩やかに回復していくだろう。また、市場がコロナ禍前の規模に戻るのは2024年以降ではないかと予想している。
台湾では、コロナ禍で社会のデジタル化が今まで以上に加速し、市民のデジタルデバイスへの依存度が高まっている。日本の各観光事業者にとって、施設ガイドやメニューなどのデジタル化を進めるなど、効率化と外国人旅客へのサービスアップの両立を図るような施策を優先して進めていくことが肝要だと考える。
| 著者プロフィール 2004年に前職のJR北海道にて初代インバウンド営業担当として任命され、以来18年間訪日旅行プロモーション業務に従事。2014年に「誠亜国際有限公司」を創業し独立。香川県観光協会、高知県観光コンベンション協会、三重県観光局、神戸観光局の現地レップなど、主に自治体関連のインバウンドプロモーション事業サポートを中心とした事業を展開する。台湾在住歴15年。著書に『はじめての台湾マーケティング』(Kindle版)。 |
コロナ禍でブームとなった台湾域内旅行、訪日旅行の競合に

WEBマガジン「初耳 / hatsumimi」代表 小路 輔
2023年の台湾のインバウンドのキーワード。それは「円安」と「台湾の域内旅行」だ。
まずは「円安」。コロナ直前は1台湾ドルが約3.5円だったが、現在は約4.5円。円安はインバウンドにとって追い風ではあるが、現地でのプロモーションには向かい風である。コロナ前に350万円で実施していた台湾でのプロモーションは450万円の予算が必要となる。コロナ前よりも効率的なプロモーションを計画していかないと台湾のターゲットには届かない。
もうひとつが「台湾の域内旅行」。2022年初めまでコロナの抑え込みに成功してきた台湾では、域内旅行が人気になっている。コロナで海外旅行に行けなくなったのはもちろんだが、台湾の「地方創生」の影響もある。台湾では2019年を「地方創生元年」として、地方の観光コンテンツ(地域に根ざしたイベントやプロダクトなど)の開発に力を入れてきた。台湾の地方の観光コンテンツが充実してきたタイミングとコロナで台湾人が海外旅行に行けなくなったタイミングが重なり、国内旅行のムーブメントが起きたと考えられる。今後は訪日旅行の競合相手のひとつとして「台湾の域内旅行」の動向を注視するべきだろう。
2023年の台湾のインバウンドは、円安により訪日旅行の回数や滞在日数、消費金額は増えると想定される。ただ、旅行に対する「目利き」が増えた台湾には、これまでのような紋切り型の観光コンテンツではなく、彼らを満足させるようなコンテンツを提供することが必要不可欠となってくる。
| 著者プロフィール 1979年埼玉県生まれ。2002年よりJTBグループでインバウンドやビジットジャパン関連の業務に従事する。2012年よりスタートトゥデイ(現ZOZO)にてZOZOTOWNの海外事業を手掛ける。2014年に台湾と日本で起業して、台湾最大級の台日カルチャーイベントのオーガナイザー、日本国内で20万人以上を集客する台湾カルチャーイベント『TAIWAN PLUS』のプロデューサーを務めるなど、日本と台湾のカルチャーの交流をテーマに活動中。 |
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