インバウンド特集レポート

民泊新法に向けて、活発化する業界再編の動き(後編)

2017.08.08

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民泊がもたらすうねりが止まらない。来年1月にも施行される予定の民泊新法。これを機に、大手企業や不動産業界の参入が始まった。個人民泊ホスト(貸主)は、簡易宿泊所の登録を進める人、一方で新しいビジネスチャンスを見つけて走り出す人など、新しい動きにも目が離せない。

前編では、不動産業界の動き、大手企業の動きとして、楽天とLIFULLの提携について紹介。中編では、パソナとAirbnbによる提携や、民泊EXPOに出展した、業界に新たに参入した企業の取り組みを紹介。

後編では、Airbnbによって民泊業界をけん引してきた個人ホストの新たな展開をレポート、また民泊を活用した地方創生の取り組みを紹介する。

 

個人ホストが脱皮して花開く?

エアービーアンドビーによって民泊を牽引してきた個人ホスト。

ホスト業を通して宿泊施設の運営に自信を持った人は、簡易宿泊所としての登録を取得して、年間を通したサービスを目指す動きもある。京都では、民泊には厳しいが、簡易宿泊所の要件を緩和して、登録者を増やす意向を示している。

一方で、グレーゾーンとわかりながら、挑戦してきた個人ホストは、法整備をきっかけに民泊を撤退、違う分野で活躍しているケースもある。それらをここで、いくつか紹介する。

◆個人ホストから、ホテルの部屋のデザインを手掛けるプロデューサーに

アニメをテーマにした民泊部屋を秋葉原で運営していた女性は、新法の閣議決定を契機に撤退をした。かなり人気の物件となっていたのだが…。

しかし、そこに、目をつけたホテル関係者が、彼女をプロデューサーとして部屋のデザインをお願いした。テーマ性を持たせ、これまで同じデザインだったホテルが、バラエティー豊かになり、泊まることが体験に変わったと好評だ。

このような華麗なる転身の事例もある。

まさに民泊個人ビジネスで、新しい人材が登場したのも事実だ。

◆個人ホストでの経験を活かして、チェックアウト後の荷物運搬サービスを展開

そんな一人、個人ホストの泉谷邦雄さんは、かつて東京と千葉に3つの3LDKのファミリータイプを運営していた。売り上げとしては、1軒が月平均で約60万円はあがっていた。

今後も収益は見込めるものの、180日の規制等、これまでのようには活用することは難しく、撤退を決め物件を売却した。

当時、泉谷氏は、民泊運営をしながらいかにゲストに喜んでもらうかに気を配ってきたなかで、いろいろな課題を感じ、ビジネスチャンスを見出したのだ。

それは、外国人旅行者のための荷物運搬サービスだ。

最終日の遅いフライトの際に、大きなスーツケースを引っ張って観光やショッピングするのが不便だとゲストから聞いた。しかし、夕方まで部屋を使いたいと打診があっても、その日は他のゲストを迎えることになり対応ができない。いつも申し訳ない気分だったという。

であれば、部屋から直接同日に空港に送れるサービスがあれば喜んでもらえると考えた。

またレイトチェックアウトをスマートに断る対策にもなり、稼働率の向上につながった。

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試しに、実際に自分のゲストにすすめたところ、たいへん喜んでもらったという。それにより、満足度が向上し、民泊物件レビューへの評価も向上したそうだ。

そこで、Airporterというサービスを立ち上げた。今後、民泊物件数、およびホテルの数が増えれば荷物配送サービスの需要が伸びると踏んでいる

サービスの特徴は、同日配送が可能なこと、また、手続きの簡便さだ。伝票記入という面倒な作業をスマホで完結できる。

 

新法制定により、大きく様変わりする民泊市場

パソナの勝瀬博則地方創生特命担当は、宿泊施設の今後数年の供給が与えるインパクトによって、民泊市場も様変わりするのではないかと見ている。

勝瀬氏によると、昨年から2020年までの間に、600軒のホテルが、首都圏と関西圏で新たにできる予定だという。合計すると約10万室が増える計算だ。一方、すでにエアービーアンドビーに登録しいている民泊の件数は6万室、それよりも供給されるのだ。さらに大手デベロッパーはマンションを一棟まとめてコンドミニアムのような貸し方をするだろう。

世間を賑わせているような、個人が関わっていた大都市の家主不在型の民泊は、特徴のある一部は成功するだろうが、需給バランスによってその多くは淘汰されるとみている。それをサポートしている代行会社も同じく淘汰されるだろう。大手事業者と組んでいかなければ、民泊業界では残っていけないと考える。

家主滞在型の副業のような形なら、個人として残っていくだろう。初期投資もいらないし、掃除などの運営も自分でやればランニングコストもかからないからだ。

 

イベント民泊で、シェアリングパッケージを目指す!

一方で、パソナが関わろうとしている民泊は、「イベント民泊」だという。

第一弾は阿波踊り民泊を進めている。阿波踊りは毎年、市外から約130万人が訪れる国内屈指の動員力の高いお祭りだ。しかし、徳島市内には宿を合計すると1万7,000人しか泊まれず、約100人に一人しか宿がない計算、お祭りの時期に滞在するのは狭き門だ。さらに期間中は宿代が高騰し、混雑によるサービス低下もある。満足度が低く、結果リピート率が低いのだ。

一方、せっかく130万人を超える人が来ても、宿泊をしないとお金を使う機会が減る。先日、週刊誌で阿波踊りの開催危機という問題が出ていたが、観光協会は赤字になっている。これだけの人数が集まるのに赤字になるのは、儲ける仕組みが整っていないことが課題だろう。

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そこで、宿問題の解決のために民泊を推し進め、パソナが足を運び民泊可能な家主を開拓している。パソナが窓口となり、エアービーアンドビーへの掲載を代行し、予約受付代行をする。

現在、阿波踊り期間中に延べ500泊以上の民泊室数を準備した。これは徳島市に新規のホテルが1軒建つのと同じ経済インパクトがある。しかも、宿泊費として、お金は市民に落ちていくので、経済を潤していくだろう。

パソナとしては、シェアリングエコノミーを推し進めたいと考えており、その一つの手段として民泊をとらえている。他にも駐車場のシェアリング、車のシェアリング、空きスペースのシェアリングなどがあり、既存のプラットフォームへの窓口として地域へ働きかけをしている。地域へのシェアリングパッケージという考え方だ。

全国で1万人以上が集まるお祭りが800以上あり、ビジネスチャンスがある。

さらにお祭り以外にコンサート、スポーツ大会などの大型イベントにも対応できるようにしたいと考えているそうだ。

阿波踊りをしっかりと成功させて、他の自治体からも興味を持ってもらえるようにしたいと勝瀬氏は締めくくった。

来年から施行が始まる民泊新法。当分、民泊をめぐる大きなうねりは止まりそうにない。

 

Text:此松武彦

 

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