インバウンドコラム
著者:藻谷 ゆかり
出版社:新潮社
本書は、「かつて銀山や炭鉱、林業等で栄えていた地域」を「山奥」と定義し、そこでのビジネス成功事例や提言、未来予想などについて触れた書籍である。
著者は、経営エッセイストの藻谷ゆかり氏で、国際エコノミストの夫・藻谷俊介氏と家族5人で長野県の山奥に移住し、20年以上「山奥ビジネス」を実践する1人だ。
著者は、現代において「山奥ビジネス」がしやすい環境にある3つの理由を述べている。アクセス面の向上(高速道路やトンネルの普及)、インターネットの本格普及による情報と物流の都市部との格差が縮まったこと、そして何より、コロナ禍でオンラインが普及し、都会からでも仕事ができるようになったことが大きいという。
そして「山奥ビジネス」で成功する地域には共通するキーコンセプトがあると述べている。
1つは高付加価値で環境負荷が低いことを意味する「ハイバリュー・ローインパクト」という考え方に基づいていること。
2つ目に、「Small, Local, Open, Connected」の頭文字をとった「SLOCシナリオ」という、持続可能な社会にするための社会変革が起こる条件を指摘した行動ビジョンだ。
SLOCシナリオの一例として、1980年代にイタリア・ローマのスペイン広場で、マクドナルド開店への反対運動(=小さく、ローカルなプロジェクト)を発端に、ローマ以外の地域の人々にもオープンになっていったことで地域同士の関係性が深まり、反対運動が波及していった結果、世界的に「スローフード運動」が広まったことを挙げている。
3つ目は「越境学習」である。「山奥ビジネス」の展開を考える人が「武者修行」のように都会と地方を行き来しながら新たな技能を学び、新しい価値観を得ることがビジネスの発展に繋がる。
本書では、熊本県山都町、石川県能登町、北海道岩見沢市美流渡地区、島根県大田市大森町、新潟県十日町、北海道東川町、山梨県小菅村の「山奥ビジネス」実践事例を紹介している。ここに登場するキープレイヤーがどのような「越境学習」を経て「山奥ビジネス」を持続可能にしようとしているのかに着目して読むのも面白い。
また、地方経済立て直しに関する提言や、「山奥ビジネス」がどうインバウンド観光に繋がっていくのかという観点での未来予想、そして、人口減少地域に共通する価値観「家父長制・男児だけを可愛がる家庭・男女差別」についての主張も展開されている。そのため、これから地方に移住し「山奥」でビジネスをはじめてみたい若者や、そういった方々を受け入れる立場にある方、両者に一読いただきたい。
文:株式会社やまとごころ 竹花 駿平
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