インバウンドコラム
著者:中貝 宗治
出版社:集英社新書
本書は、兵庫県議会議員として10年、豊岡市長として20年、計30年間豊岡市のまちづくりに携わった元豊岡市長 中貝宗治氏による、豊岡市再生への道のりをまとめた書籍である。
人口約7万7千人の豊岡市が掲げるのは「小さな世界都市=Local & Global City」。
大都市と地方の資本力は歴然で、大きさ、高さ、速さを競っていては、勝ち目はない。大都市との格差に汲々とするのではなく、「人口規模は小さくても、世界の人々に尊敬され、尊重されるまち」として、世界を絶えず意識して、世界に通用する「ローカル」を磨き上げて輝くことを目指すとしている。
この実現に向け、中貝氏は「コウノトリも住めるまちを創る」「受け継いできた大切なものを守り、育て、引き継ぐというまちづくりを進める」「深さを持った演劇のまちを創る」「ジェンダーギャップを解消する」の4つを掲げて取り組んできた。
今でこそ「コウノトリの野生復帰」「Best Onsen Town」「演劇のまち」など、多くのキーワードと共に語られる豊岡市だが、その背景に地域の未来を本気で考え、長きにわたって取り組みを続けてきた熱い想いを持つ人々がいたからこそ成し遂げられたことだと、本書を読むとよくわかる。
実際に、コウノトリの野生復帰に向けた取り組みは、1955年の保護団体の立ち上げからスタートしたものであるし、人工飼育が成果を出さなくとも、24年間にわたって尽力してきた人の存在が、現在の「野生のコウノトリ復帰」に繋がっている。
また、訪日客に人気の城崎温泉は、かつて大震災によって焼失した町並みの再建にあたり、コンクリート建造物が中心の再建計画もあったという。その際に、住民主体の復興の在り方を議論する「町民大会」が数十回にわたって開催され、現在の景観を維持し、外湯を中心としたまちづくりを進めることが全会一致で可決されたという。「受け継いできた大切なものを守り、引き継いでいく」という考え方が、地域住民全体に浸透していたからこそ今の町並みが存在すると言える。
なお、中貝氏は、2021年4月に行われた市長選で出馬した元市議の関貫氏と争い、落選する。ただし、中貝氏が20年にわたり掲げてきたビジョンや取り組みに価値を感じ、豊岡へ移住を考えている人たちもいることを知り、2021年6月に(一社)豊岡アートアクションを設立。市長選で掲げた二大公約「ジェンダーギャップの解消」と「まちに深みを与える演劇のまちづくり」の実現に向けて民間の立場から取り組んでいる。
人口減少、高齢化により衰退の一途をたどる地方都市が「小さな世界都市=Local & Global City」を掲げてこれまで取り組んできた軌跡を知ることで、中長期を見据えて地域の未来を描き、その実現に向けて行動することの大切さと難しさを実感する。
豊岡市のこれまでの取り組みを知りたい人はもちろんだが、地域活性化、地域再生に興味のある方は手に取って読んでいただきたい。
文:株式会社やまとごころ 堀内 祐香
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