インバウンドコラム

「サービス」を極める達人の神髄を探る「サービスの達人に会いにいく プロフェッショナルサービスパーソン」

2024.04.24

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『サービスの達人に会いにいく プロフェッショナルサービスパーソン』

著者:野地 秩嘉

出版社:プレジデント社

 

著者である野地秩嘉氏には、「サービス」にまつわる著書が数冊ある。2013年発行の『プロフェッショナルサービスマンー世界に通じる汗と涙のホスピタリティ』の中の「日本のサービスは諸外国に比べて突出している」との記述には、筆者も同感である。「工事現場の交通誘導係や、駅や商業施設の案内係がたくさんいますね」と、仕事でご案内する訪日外国人から、よく言われる。「日本人のサービス・親切心」を、最も印象的な日本の思い出として挙げる外国人も多い。インバウンドが賑わう今、あらためて「サービス」を極める「達人」についての考察を深めたい。

第1章は、タイフードを日本に根付かせた三林氏のストーリーだ。自らを「タイ馬鹿」と呼び、東奔西走した経緯が紹介されている。第2章は、広告代理店の社長である松田氏についてである。現在彼は、地元北海道のラジオのDJも務めるし、ウニ丼を売るし、ラーメンやうなぎも販売する。「七つの顔を持つ男」と称して、著者は松田氏の生き様を語っている。

第3章では「まあ、寿司屋はおいしい魚をとってくることはできませんから」と話す寿司職人泉氏の、第4章では、真夏でも長袖シャツしか着ない炭焼き焙煎士の川上氏の人生が描かれている。続く第5章で登場するのは、床屋のオーナーの小山氏だ。彼女は、お客に喜んでもらうためにユニフォームをミニスカートにしたことがある。髪を切るためだけでなく、時に話を聞いてもらったり世話を焼いてもらうために床屋に行くお客もいることを、小山氏はよく理解しているからだ。

著者が、第6章で「モジリアニの絵画」を引用しながら語るのは、アプリデザイナー池田氏についてである。「存在感を消しながら(スマホを使っている人に)視線を向ける」彼は、ユーザーへの興味が尽きないのである。筆者が特に魅かれたのは、第7章だ。文房具店の竹内氏が、神戸の色のインクを作り上げた様子が描かれている。震災後に、自分の店の運営を支えてくれた人々への感謝を表すために作ったという様々な色を見に、神戸に行ってみようと思った。

第8章では、料理研究会の工藤氏が、食べ物を通して津軽の土地や文化を伝えようとしているし、第9章では、病院院長の酒向氏が、患者を寝たきりにしない「攻めのリハビリ」を行っている。さらに、第10章では、サウナ&スパの総支配人津村氏が、ホテル仕込みの接客サービスを行う。結びの第11章では、にぎりめし店の店長本間氏が「うちのは家庭のおにぎりとは違います」と言う。どう違うのか。作り方が丁寧に書かれてあるので、実際に試してみると、達人の細やかさの一端に触れることもできるだろう。

ノンフィクション作家の著者が、タイトルに「会いにいく」を入れた意味に、読んだ後に気づいた。達人たちと著者との実際の会話がふんだんに盛り込まれており、現場の温度感がじんわりと伝わってくるのだ。読み応えがあり、温かな気分にもなる一冊である。

文:全国通訳案内士 鈴木桂子

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