インバウンドコラム
インバウンド向けビジネスを展開する事業者の方に、現場で経験したリアルを紹介してもらうシリーズ。第5回目は、京都市にある「バイクとヨガ」がコンセプトの宿FUJITAYA BnBを運営する藤田勝光氏に話を伺った。
FUJITAYA BnBは京都駅からバスで10分。京都観光の拠点として恵まれた立地にあり、「交流」を軸に展開する全24室、最大60名を収容できる宿泊施設だ。宿泊客は95%が外国人で、ヨーロッパ諸国が7割、残りをアジア、米国が占める。トリップアドバイザー「京都市のB&B / 民宿」部門では6年連続1位と、インバウンド客からの評価が極めて高い。最近は、場所に縛られず旅をしながら仕事をする「デジタルノマド」のお客も増えているという。藤田氏はデジタルノマドとどう交流し、彼らにどんな可能性を感じているのか。トークライブでお話しいただいた内容の一部をお届けする。
▲宿は「バイクとヨガ」をコンセプトに打ち出している
世界一周中の現地発着ツアーの経験をきっかけに宿を開業
FUJITAYA BnBはロードバイクを乗り入れることができたり、自転車ツアーやヨガなどが体験できたりするなど、個性的なゲストハウスです。全24室が和の個室でお手洗いや洗面所、シャワーは他のお客様との共用で、キッチンが自由に使えるため料理もできます。共用のリビングでは頻繁にイベントを開催しており、旅好き同士での国際交流も楽しめます。
ちなみに先日は、ハンガリーから22名の団体のお客さんが4泊してくれ賑やかでした。
▲FUJITAYA BnBのリビングルーム
私はもともと旅行好きで、世界一周の旅もしてきました。特に現地発着ツアーが好きで、様々なツアーに参加しました。1998年のカナダを皮切りに世界で計23回、36カ国、371日間参加しているので、おそらく日本人で最も多いのではないかと思います。
そんないわゆる世界中のアドベンチャートラベルを経験したことがモチベーションとなって、2014年から京都で宿を始めました。今でこそゲストハウスはたくさんありますが、私が旅をしていた当時はまだ少なくて、当初は日本にももっとリーズナブルに泊まれる宿があったらいいのに、という思いが強くありました。
「日本を世界に発信する」をコンセプトに、交流イベントを頻繁に開催
世界中を旅してきた経験から、宿では「日本を世界に発信する」ということを大事にしています。なかでもたこ焼きパーティーは1年目は毎週、今も月に2、3回やっています。今月も開催して大好評でした。あとは書道を体験してもらったり、地域の方を招いて三味線を披露してもらったり、春はお花見、夏は流しそうめん……というように交流を軸に据えたアットホームな宿です。私は世界の方と日本を繋ぎ、日本の魅力を感じてもらいたいと考えています。
▲近所のお姉様による三味線と踊り
様々なお客さんがいらっしゃいますが、先日は1週間の出張で来日した方が、その後の1週間休暇を取得し、自転車を担いで宿にやって来ました。
お客さんは2人組やファミリーが多いです。年齢も様々で、偏りがあまりないため、どんな人が来てもこの場になじむことができ、雰囲気もとても良いです。平均滞在日数は3~4泊ですが、ヨーロッパの方は4~5泊、アジアは1~2泊が多いです。
39連泊をしたコスタリカからのデジタルノマド男性の生活スタイル
最近は、いわゆるデジタルノマドと言われる方が増えている傾向があります。コスタリカの男性のケースをお話します。彼は2023年4月の桜の時期に来て、お花見を一緒にしたりしたことで気に入ってくれました。滞在中に彼が誕生日を迎えたのでバースデーパーティーもしました。春の26泊に続き、今秋も39泊で泊まってくれました。2024年の春も1カ月来てくれる予定と話しています。
アットホームな雰囲気が彼にとって心地よかったのでしょう。また彼は香港の会社がベースで、時差が1時間しかなかったのも大きかったと思います。彼はボードゲームが大好きなのですが、これはもしかしたら長期滞在の方にはキーポイントかもしれません。ボードゲームのおかげで日常のちょっとした時間に誰かと遊べたり、会話できたりします。空き時間によくリビングでゲームをしていました。
私の家族と一緒に、京都の美山へ、日帰り旅行に行ったこともありました。2~3泊の方は滞在中のスケジュールが決まっていて余白がないことが多いですが、長期滞在の方は予定をあわせて一緒に行動することもできます。私の2歳と4歳の子どもともよく遊んでくれました。ちなみに、我が家はコロナ禍に家族で宿に引っ越し、今は宿泊客と共に生活しています。
▲中央がコスタリカからのお客。日本の桜を楽しんでいた
予約はOTAがメイン、デジタルノマドはAirbnb経由
FUJITAYA BnBの宿泊予約は、ほぼOTA経由です。様々なOTAに掲載しており、通常はBooking.comやエクスペディアでの予約が多いですが、デジタルノマドのような長期滞在者はAirbnb経由での予約がほとんどです。30連泊の方には割引をしているのですが、Airbnbではこうした設定が細かくできるため便利です。
本来は自社予約に注力できればよかったのですが、圧倒的にBooking.comが強いのです。また、エクスペディアでポイントを貯めているなど、お客さんごとにこだわりも異なるので、そこは尊重したいところです。
今現在、お客さんの95%はインバウンドです。週末は日本人のお客さんが入ることもありますが、平日はほぼ外国人です。ですので、下手な英会話教室よりも、FUJITAYA BnBのリビングの方が英語力が付くんじゃないかとよく話しています(笑)。子どもたちも簡単な英語でコミュニケーションが取れていて、子どもの教育にもいいと感じています。
見込み客へのプロモーションはできていないのが実情です。が、こちらからお願いしなくても満足してくれた利用者の方々が、自発的に純粋な気持ちで書いてくれる口コミにこそ本音が反映され、その言葉がまた別のお客さんを呼んでくれています。回り回って、自然発生的な口コミが全てかもしれないと最近は考えています。
特にデジタルノマド向けに何かをした、というわけではありません。たまたまいらした方が、「長期滞在にぴったりな宿でした」といった内容を口コミで書いてくれて、広がったように思います。コロナ前は長期滞在者を増やしたいと思っていませんでしたが、コロナ禍以降は意識するようになりました。
▲滞在中に誕生日を迎えるお客さんを皆でお祝い
働き方や時差など、デジタルノマドの生活スタイルは多様
デジタルノマドと一括りにできないほど、彼らの過ごし方は多様です。会社勤めの方は決まった時間に仕事をしていますし、フリーランスの方は本当に自由に時間を使っています。リビングで仕事をする方もいれば、部屋にずっと籠る方もいます。働く時間も時差によります。ドイツからいらした女性は、毎日16時になると部屋で仕事をしていました。ニュージーランドから1カ月滞在でやって来たデジタルノマドの方が、「仕事の都合上、アメリカ時間に合わせないといけないから大変」とぼやいていたこともありました。
東京や京都だけではなく、日本の他の地域に関心を持つ方も多かったです。東北に興味があって「青森には行きたい」と言っていた方もいました。「日本に住んで会社を作りたい!」という方もいて、本気だったので行政書士を紹介したこともあります。彼らは日本のどこに拠点を置いてもいいはずなのですが、長期滞在しようとAirbnbを見ると、どうしても東京や京都の情報量が多いので、他の地域はあまり選んでいないような印象です。
▲宿泊者皆でカードゲームをして時間を過ごす
交流で旅の満足度は高まる。日本人はもっと旅行者に声掛けを
コロナ前までは、FUJITAYA BnBともう1軒、計2軒の宿を運営しており、正社員が4人いましたが、今は夫婦とアルバイトの方だけ。ですので、今後は海外の方にお手伝いに来ていただきたいと思っています。日本語学校をやっている友人が、インターンシップを仲介しているので、インターンで一年働いてもらって、条件があえば社員になってもらう予定です。日本は慢性的に人手不足なので、外国人に頼らざるを得ないと考えており、私たちも今回挑戦することにしました。
最近、よく思うことがあります。「英語で会話できたのはあなたが初めて」と泊まりに来たゲストに言われることがあります。長期滞在中の方でそう言われるということは、誰からも話しかけられなかったということ。もう少し交流が生まれたらいいのに、と残念に感じることもあります。
デジタルノマドに限った話ではありませんが、リアルな交流ができると旅の満足度は高くなります。他愛ない話でもいいので、皆が積極的に彼らに声掛けできるようになれば良いと思います。
▲大人気のたこ焼きパーティー
最近、京都は外資系の大規模なホテルの建設が相次いでいますが、小さな単位の宿だからこそできる場づくりもあると思いますので、そういった宿が増えて交流が活発になることも大事だと感じています。
プロフィール:
株式会社 Feel Japan 代表取締役CEO 藤田 勝光
1977年、大阪府生まれ。神戸大学出身。上場企業を経験後、2014年8月、自らデザインした宿「FUJITAYA Kyoto」をオープン。開業半年で口コミサイト、TripAdvisorにて1位(その他宿泊施設部門)を獲得。2017年にBike&Yogaをコンセプトとした「FUJITAYA BnB Bike&Yoga」をオープン。開業3か月後にTripAdvisorにて1位(B&B部門)を獲得。「FUJITAYA Kyoto」ははコロナ禍を経て、幼児教室に事業転換。世界一周の旅や起業に至るプロセスを大学にて講義、サイクルツーリズムの推進など、多方面で活動中。
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