インバウンドコラム

旅ナカOTAが語る最新トレンド、訪日客に人気のラーメンツアーから紐解く 選ばれるツアー造成のポイント

2024.08.09

印刷用ページを表示する



インバウンドビジネスの実践者にその事例や事業推進のコツを聞くトークライブシリーズ、インバウンド最前線の舞台裏。今回は、訪日旅行者の滞在中の満足度向上と消費額増の核とも言える旅ナカトレンドの最新事情に迫った。

話を伺ったのは、旅ナカOTAゲットユアガイド・ジャパン株式会社日本オフィス代表の仁科貴生氏。そして、Tokyo Ramen Tours 創設者のフランク・ストリーグル氏のお二方。旅ナカのトレンドを知るにあたって、OTA運営者から見る俯瞰的な視点とツアー造成当事者としての視点、双方からアプローチすることでより解像度を高められるはずだ。

今回、GetYourGuideが旅行者に行ったアンケート結果から見えてきた潮流をはじめ、ラーメンツアーを軸に、ツアー造成する難しさ、売れるツアー作りに必要なことなど、トークライブで伺った内容の一部をお届けする。


▲通常の4分の1サイズのミニラーメンを味わう(提供:Tokyo Ramen Tours)

 

アンケートから見えてきた、旅行者がタビナカ体験に求めるもの

仁科氏が日本支社長を務める旅ナカに特化したオンラインサイト「GetYourGuide」では、世界150カ国以上の現地パートナーと連携し、これまでに1億3500万枚のチケットを販売してきた。直近では、2024年2月に、過去12ヵ月以内にレジャー旅行をした6地域(イギリス、フランス、イタリア、スペイン、ドイツ、アメリカ)の25~64歳6256人を対象にアンケート調査を行った。それによると、旅行者の98%が「旅における体験が重要だ」と考えており、体験やアクティビティに対して「予算を増やしたい」という回答も全体の44%、年4回以上の旅行者に至っては53%にのぼっているという。

調査結果を分析した仁科氏は、これまでは旅先を決めてから、そこで何をするか体験を決めるという流れが一般的だったが、今は、体験についてのリサーチをしたうえで旅先を決める時代になっているという。「体験はもはや旅先の候補を決める最重要とも言える要素になっています。特に欧米の旅行者は、訪問先でどんな体験ができるのかを重要視する傾向が強いです」

今やタビナカ体験はオンライン販売での即時予約が欠かせず、徹底的な顧客目線が必要だと語る。仁科氏は「団体旅行の発想のままでは、この流れと真逆となっており危険です。レビューが悪くなると取り返しがつきません」と話す。
また、十分な利益の設定も考えなければいけないという。
「価格の高い安いより価値のある体験なのかどうかが重要です。円安ですでに大半の商品は海外旅行者から格安だと思われています」。


▲世界1000都市以上の情報を掲載するGetYourGuide

旅ナカの売れ筋商品の3ジャンル「定番」「伝統・文化」「興味関心」

では、一体どんな旅ナカ商品が外国人旅行者から人気を集めているのか。大きく分けると定番、伝統・文化、興味関心の3つのキーワードが挙げられるという。「定番については、やはり他の皆がしていることを逃したくないという心理が働くようです。伝統・文化も定番の1つともいえますが、最近は映画やドラマなどの影響も大きいと感じます。例えば、Webドラマで注目の的となった相撲見学は近年かなり人気です。他にもたくさんの観光資源があります」。

さらに、最近は「パッション・エコノミー」という個人の情熱を軸としたサービスを展開し、収益化する経済圏がスタンダードになりつつある。そんな時代だからこそ、異国の地で、自らの興味関心に応じたジャンルを深掘りする旅行者も増えているという。ラーメンもその一つ。仁科氏は「定番や文化のジャンルと比べて、このジャンルは今後もさらに拡大する余地がある」と伸びしろの大きさを指摘する。


▲定番、伝統や文化、興味関心が売れ筋3ジャンル(提供:ゲットユアガイド・ジャパン株式会社)

GetYourGuideを通じたタビナカ体験の予約件数は訪日旅行を含めて、目覚ましい伸びを示している。掲載アクティビティの数もコロナ禍前とは比較にならないほど増えている。「何より訪日旅行者数が増えていますし、コロナ禍を通してオンライン予約がスタンダードになった面も大きいと感じます」ただ、アクティビティは、まだゴールデンルート沿いに偏っているという。

続いて、そんなGetYourGuideでも人気の「東京ラーメンツアーズ」を運営するフランク・ストリーグル氏に、ツアー主催者側の視点で話してもらった。

 

好きが高じて副業から開始した「ラーメンツアー」ビジネス(フランクさん)

現在、フランク氏が展開する東京ラーメンツアーズはミニラーメンツアー(ラーメンテイスティングツアー)を始め、ラーメン厨房体験、朝食ラーメンツアー、ビーガンテイスティングツアー、さらには京都でのラーメンツアーや朝食ラーメンツアーなど幅広い商品を用意している。中でも通常の4分の1サイズのラーメンを3時間で6杯味わえるミニラーメンツアーは一番人気だ。

幼少期からラーメンに魅了されてきたフランク氏は、今でも年間400杯を食べるほどのラーメンフリーク。起業のきっかけは、会社員だった時代を回想する。「インバウンド観光の急増を目の当たりにし、何か新しいことを始めたいと考えていました。そんなとき友人から、ラーメン好きなんだからラーメンツアーをやってみては?と言われたのが、きっかけでした」

当初は副業として、仕事をしながら少しずつツアー事業を構築。ウェブサイトを制作し、2018年1月からAirbnb上で、ラーメン食べ歩きツアーの募集を開始した。最初は全く予約が入らず、苦労の連続だったという。コロナ禍前は1人で運営していたが、コロナ禍後はスタッフを雇用し、事業を急速に拡大させている。

ツアーの参加人数は最小1名から10名程度で、時には15名程度の団体になることも。「その場合は私だけでは対応できないので、ガイド2名態勢にしています。お客様で最も多いのはアメリカですが、イギリス、オーストラリア、フィリピン、シンガポールなど、様々な国から参加しています」


▲最近はラーメンだけではないツアー商品も展開中(Tokyo Ramen Tours)

 

ツアーに付加価値を出すための工夫

渋谷を拠点とするツアーでは北海道ラーメン、とんこつラーメン、そして変わり種のカレーラーメンという構成で、バラエティ豊かな体験を提供。店舗選定の最優先条件は美味しさで、その上でラーメンの多様性を楽しめるよう工夫しているという。ツアーは一般募集型のグループツアーとプライベートツアーがあるが、グループツアーの方が主流だという。

集客方法についてフランク氏はこう話す。「SEO対策は大事です。東京ラーメンツアーズと検索されて上位に表示されるよう努力し、定期的にブログ記事も投稿も行っています。あとはSNS活用。InstagramとYouTubeが特に重要な役割を果たしています。GetYourGuideにもお世話になっています」

料金は約1万7000円と一見すると高めの金額に設定されているが、ラーメンの歴史や地域ごとに異なるラーメンの特徴、ラーメンの作り方やなど、ガイドからラーメンに関するさまざまな情報や豆知識が語られるのも、大きな魅力となっている。また、3店舗で計12種類のラーメンから1人6杯を選べるシステムのため、2人で参加してシェアすれば12種全てを味わえる。これはツアーに参加することでしか得られない大きな付加価値となっている。


▲ミニサイズのラーメンが沢山楽しめるのもツアーに参加するからこそ得られる価値だ(提供:Tokyo Ramen Tours)

フランク氏に今後を聞くと、「すでに始まっている京都ラーメンツアーの拡大や、他の地域でのツアーも考えています。また、ラーメン以外のグルメツアーも始めており、例えば東京で一番長い商店街とされる戸越銀座でのフードツアーが人気です。旅行会社の設立も予定しています」と積極的な展開を予定している。

 

売れて長く続くツアーを造成するために必要なこと

フランク氏は売れて長く続くツアーを造成するため、まずは協力してくれるラーメン店とのコミュニケーションを大事にしていると話す。「ラーメン店とはwin-winの関係を築くことを重視しています。1人のお客さんに対して、2杯のラーメンを提供することで店舗にとっても利益があります。ただ、例えば10人で訪問すると、一度に20杯のオーダーになるので、店舗にとって負担が大きいため、混雑時間をなるべく避けています。また、店舗の方とのLINEグループを作成して、事前にお店に予約人数を伝えたり、リアルタイムの状況を伝えたりなど、スムーズな連携を心がけています」


▲ツアーは世界中のラーメンへ興味関心のある人から絶大な人気を誇る(提供:Tokyo Ramen Tours)

日頃の食事も貴重なリサーチの時間だ。ラーメン店を新規開拓し、接客の様子や広さ、盛り付けなど詳細をメモに取って仕事に繋げているという。また、現在8人ほどいるというガイドにも多くのことを求めている。ラーメンの知識はトレーニングで伝えるが、ネイティブレベルの英語力と高いコミュニケーション能力、そしてラーメン愛が必須条件となっている。

最後に、フランク氏は事業をスタートするタイミングとブラッシュアップの重要性を説く。「ニーズと機会があって、自分のタイミングが合ったらすぐにアクションを起こすべきです。ラーメンツアーは現在、競争がまだ激しくない状況です。今後、追随されると思いますが、お客さんの声を聞いてイノベーションを興していく必要を感じます。そのための投資も積極的に行っていくつもりです」

 

プロフィール:

ゲットユアガイド・ジャパン株式会社 日本オフィス代表 仁科 貴生

米国カリフォルニア州立大学経営学部を卒業。国内外のホテルOTAや旅行比較サイトにてインバウンド集客支援に携わった後、2018年より旅ナカOTAのゲットユアガイドにて日本オフィス代表として日本事業の立ち上げに従事。日本全国の観光施設やインバウンド事業者パートナーと商品のOTAでの販促や高付加価値化の取り組みを進めるほか、コラムやウェビナー等で世界の旅行業界の動向や旅ナカ体験の高付加価値化の事例の発信を行っている。

 

Tokyo Ramen Tours 創設者/ガイド フランク・ストリーグル

東京都杉並区生まれ、世田谷区育ち。世田谷区の幼稚園、小中学校、高校(インターナショナルスクール)を卒業後、アメリカのマカレスター大学に進学し、卒業。2006年に日本に帰国後、東京の金融企業に就職。その後、IT企業へ転職し、外国人観光客向けの大手宿泊予約サービスAgodaにて管理職に就任。都内のラーメン店を周遊する訪日外国人向けラーメンツアー TOKYO RAMEN TOURSを2018年から副業としてスタート。多彩なラーメンを楽しめることから外国人に人気を博し、現在までに多数のツアーを催行している。フィリピン系アメリカ人。

最新記事