インバウンドコラム
マレーシアのLCCエアアジアの関連会社で、中・長距離路線を運航するエアアジアXは昨年11月末、福岡〜クアラルンプール便を3月1日から就航させることを発表、先日運航が開始した。福岡の訪日客は、韓国を中心に東アジアからの旅行者が多く、ムスリム対応はインド、ネパール料理店が中心で、和食の店は見当たらなかった。そこで、訪日ムスリムの受入れ環境整備やメディア運営などを手掛けるフードダイバーシティ株式会社のアドバイスのもと、福岡にある「極味や」西新店が、世界で初めてのハラール「もつ鍋」を開発した。
福岡といえばグルメの街としても知られ、ラーメンや新鮮な魚介類のほか、焼き鳥、水炊きなども有名だ。そのなかでも全国的に有名なのが「もつ鍋」だ。今回、「極味や 西新店」では、以下の3つのポイントを中心にハラールもつ鍋に取り組んだという。
1、ハラール屠畜した国産の牛の小腸(もつ)を熊本県のゼンカイミート*より仕入れて使用
2、スープは豚の代わりに牛や鶏を使用し、保存料として使われるアルコールにも注意。この店オリジナルの「あご」はそのまま使用
3、店内では豚肉を排除する
(*ゼンカイミートは、マレーシア政府やインドネシアの認証機関などからハラール処理施設として認証された食肉加工処理施設を持つ)
ハラールもつ鍋の発売開始1週間前に行われた試食会に参加した。
九州大学の留学生、OBインドネシア5人のムスリムは初めて食べるもつ鍋の味を絶賛。プリプリのもつとキャベツやニラの野菜を食べ、締めのちゃんぽん麺を味わっていた。福岡地元の筆者も通常のもつ鍋とハラールもつ鍋の両方試食させてもらったがハラールもつ鍋の方がシンプルにだしの味を感じ、自分好みである感じもした。言われてみないとわからないほど、どちらも美味しい。
国産牛のステーキの登場にも歓声があがった。やはり、若い人は「肉」が好きなのは、日本でも韓国でもインドネシアでも共通だということを実感。この牛肉もゼンカイミートのハラールミートで、ペレット(鉄板上の鉄の固まり)で好みの焼き加減でいただく。肉は柔らかくて、旨味もしっかり味わえる。
わずか2週間ほどの間に、相当な試行錯誤のなかで完成した「もつ鍋」。2月22日の発売開始以来、1日に30名のムスリムが訪れたこともあるほど、順調な滑り出しをみせている。
これはつまり、それだけ福岡にムスリム対応のローカルフードの飲食店がないことの裏返しともいえ、福岡・九州を訪日ムスリムに十分に楽しんでもらうためには、まだまだ大きな課題が残っていることもわかった。
「極味や」はステーキやハンバーグ、焼き肉の飲食店として有名で、特に韓国人にも人気がある。今回発売を開始した「ハラールもつ鍋」は福岡西新店のみでの販売だが、福岡にとどまらず九州全域やひいては全国的にも、この流れが広がることを期待したい。
(やまとごころ九州支部 帆足千恵 プロフィール及びコラム一覧はこちら)
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