インバウンドコラム
インバウンドを語るとき、相互交流の視点を抜きに発展も成長もあり得ない。
それを電波放送で体現する多言語放送局がある。ラブエフエム国際放送(以下ラブFM)だ。韓国語サイトもあり、日常の福岡・九州の姿を伝え、ユニークな取り組みを行っている。個人旅行全盛期における情報発信のモデルケースとして紹介したい。
目次
1.10ヵ国語による放送と中国、韓国、タイとの提携
2.福岡・九州の日常を韓国に伝えるサイト「Kyushu Style」
1.10ヵ国語による放送と中国、韓国、タイとの提携
ラブFMの放送開始は平成9年。
広域放送局として、福岡県全域をはじめ北部九州(熊本・長崎・佐賀・大分)と山口県の一部をカバー。日本語と英語を中心に中国語、韓国語、タガログ語、スペイン語、ポルトガル語、インドネシア語、タイ語、フランス語の10ヵ国語で放送をしている。
これらの放送の主なリスナーは、在住外国人および外国語や国際交流に関心のある日本人となる。
しかし、ラブFMのユニークな点は、3つの国と恒常的にお互いの街の情報を流していること。韓国とは週に1回。
今年6月25日に提携したタイの放送局2局とは、週1回の頻度で互いの文化、観光情報を放送。
中国とは、上海と大連の放送局と提携していたが、最近の国際情勢により一時的に放送局との提携は終了。しかし大連とは、現地の大学教授が週1回電話で番組出演することで情報がつながっている。
これら提携している放送局を通じて、福岡・九州はどのように伝えられているのか、現地のリスナーはどんな風に聴いているのだろう。
ラブFMがそうであるように、現地の音楽とともに流れているのかもしれない。想像するだけでも楽しくなってくるのは、人の言葉と体温を持って「つながる」感覚がするからだろうか。
ラブエフエム九州国際放送(http://lovefm.co.jp/)
2.福岡・九州の日常を韓国に伝えるサイト「Kyushu Style」
このような多言語放送局は各地にある。
東京は「インターFM」、大阪は「FM Cocolo」があり、ラブFMとこの2局で協定を締結し、MegaNetを形成している。
しかし、ラブFMの独自性は、韓国語で発信する「Kyushu Style」に象徴される。
2011年12月から開始したこの韓国語ウェブサイトは、福岡在住の韓国人が発信および韓国人パワーブロガーに福岡、九州に来てもらって、グルメ、ファッション&雑貨、旅行などの情報を発信している。
当初は月間7万PVを目指していたが、スタートして約1年、一時50万PVまでになる予想以上の反響を集めた。現在では月平均30万PVとなっている。
人気があるのはやはりグルメだ。ランキングは下記のようになっている。
2位 ラーメン
3位 パン
4位 定食
5位 コーヒー・喫茶
すごく納得がいく結果だ。サイトの構成的にもやはり女性が好んでみていると思われる。
そこで、繊細で見た目も美しい日本のスイーツや多様な味わいがあるパン、ブームのコーヒーなどを知りたがっている。
観光案内所にカフェの問い合わせが多いのも韓国人FITの特徴で、上記のメニューのほかホッと和む場、雑貨なども提供するオシャレな空間を求めていることがわかる。
2位のラーメンに関しては、韓国人に大変人気があることに身をもって感じたのは、観光庁の事業で「福岡の食ガイド」を作った際のヒアリング。
「一風堂」「一蘭」ではない新たなラーメンを探求している。
(第9回「舌で味わう幸せ−『食』のはずせないポイント」参照)
4位の定食は、ボリュームがあって料金が明確でコストパフォーマンスが高いところが人気。特に若年層は値ごろ感を追求するので、それに合致したメニューだといえよう。
そのほかに韓国人ブロガーが書いた旅行先の自然豊かなスポット(例えば、福岡の相島、ねこの島として有名)や、在住韓国人ライターによる福岡の日常(天神でのベビーカーが借りられるところや利用しやすさなど)が読まれているという。
「このブログをプリントアウトした写真をそのままレストランに持っていって『このメニューをください』という韓国人旅行者もいます。お店側もそのときにないメニューでも柔軟に対応してくださったり。外国人旅行者に街全体が馴れてきているなあと感じますね」とKyushu Styleを担当している編成部 コンテンツ事業グループの山口麻衣さん。人が来れば交流が生まれることを如実に示している。
もともとラブFMは、福岡の繁華街・天神エリアの最新情報を発信する「天神サイト」を運営している。グルメ、ファッション、イベントなど天神エリアのことなら何でもわかる地域情報サイトである。
この日本語サイトから期間限定のイベントや街ネタ、文化的行事などを切り取り、韓国人が福岡の“現在(いま)”をリアルタイムに知って、参加できる流れも作られている。
韓国人旅行者は日本人と同様に、“穴場”の情報や、日常のまちの風景も知りたがっている。それは、飛行機で1時間、高速船で3時間弱という地理的な近さもあるが、九州と韓国が日常圏の交流時代にどっぷりと入っていることを意味している。
だから、交流人口が多い都市が韓国へ情報発信する際には、日本人も知りたいおすすめの食(具体的な飲食店)とその期間でしか楽しめないイベント、祭り情報が注目を浴びると思われる。その点に留意して、継続的な情報発信を心がけたい。
「もちろん、将来的には広告や収益性のあるイベントなどができるといいですよね。それをにらみながら、Kyushu Styleは韓国人旅行者が多い福岡・九州の情報を発信し続けますよ」と山口さん。
福岡市を中心に九州全体に高速バスなどのネットワークを広げ、日本で最大のバス保有台数を誇る西日本鉄道株式会社が関連会社ゆえ、韓国人旅行者を支援するというのは理解できる。
しかし、韓国人に支持されるこのサイトの存在が早期に収益性を帯びることで、日本でのインバウンド情報発信の成功例になるよう、地域で協力して伸ばしていきたい。
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