インバウンドコラム
第21回JNTOインバウンド振興フォーラムが2月18、19日に東京で開催された。今回のフォーラムは『リピーターに届くプロモーション』をテーマに、20市場22拠点の海外事務所所長が各市場の特徴やトレンド、その市場における訪日客誘致のためのプロモーション手法について講演。その他にも開幕を目前に控えたラグビーワールドカップ2019と東京2020オリンピック・パラリンピック、中東(富裕層)市場やデジタルマーケティング、JNTOの重点事業に関するセミナーなどの講演が2日間にわたって行われた。
訪日客増加が見込まれる東南アジアや欧州市場の海外事務所所長による、主な講演内容は以下の通り。
【タイ】
2018年、東南アジアでははじめて訪日タイ人が100万人を突破。今や割合としては10人に1人は日本旅行経験者となるタイは訪日観光への関心も高く、日本全国7カ所の空港に週234便の直行便が行き来している。リピーターも増加しており、2回目以降のリピーターは神社仏閣などの伝統建築物や古い町並みに興味をもつ傾向があるという。そんなリピーターへのプロモーションには、毎年2月と8月に開催されるタイ国際旅行フェアを活用することが有効であるという。
【フィリピン】
2018年の訪日フィリピン人は50万人を突破。国別訪日客数の順位も年々上昇し昨年は全体で8位、東南アジアでは2位と存在感を高めている。その割には、フィリピン市場をターゲットとした取り組み事例の数は多くないが、現地の旅行博に参加するなどで現地との取り組みを強めているエリアは成果が出ている。「ビザ緩和から4年。訪日需要が拡大途上のフィリピンは、早く取り組めば先行者利益を得られる」とのこと。フィリピンの特徴として、リピーターほど旅行会社に頼る傾向もあるという。
【マレーシア】
昨年5月に親日家で知られるマハティール首相が15年ぶりに政権トップに復帰。2018年1月〜11月の累計で40万超えのマレーシア人が日本へ。新千歳、成田、羽田、関西へ直行便が週62便。2/28からは福岡へも週4便就航する。日本に対する関心は1位美しい景色・自然。2位食事。安全で高品質な訪日旅行へは定評があるが、日本への旅行ツアーの平均は16.7万円で、韓国(平均10.9万円)や台湾(平均7.7万円)と比べて高いイメージがある。インフルエンサー招聘や、オンライン上でのプロモーション、旅行会社との連携による旅行フェアなどでのプロモーションがキーとなる。
【ベトナム】
経済発展が進む中、日系企業によるベトナム進出も拡大するなど、日本との関係が深まっているベトナム。コンビニ店舗数も2000軒と5年間で4倍の数に増え、ゴルフ人口が増加するなど、急速に社会状況も変化しているという。2018年1月-10月の累計で33万人を突破し、訪日旅行者も確実に増加している。現在は旅行社経由の訪日が大半だが、企業の販売促進のための懸賞旅行や、社員旅行などのインセンティブツアーが多いのも特徴。特徴あるツアー商品造成のために、ランドオペレーターとの面会や交渉を現地側は求めているという。
【インド】
MICE旅行=日本のイメージがついており、Travel+Leisure India’s Best Awardにおいて、日本が2年連続ベストMICEデスティネーションを受賞。インドでは企業によるインセンティブツアーが盛んで、大手企業がやると他も追随する。製薬会社、自動車、金融、家電、塗料、セメント会社からの問合せが来たら成約率が高い。家族旅行は個人旅行といえども、メイドやお抱えのシェフなども連れ20人以上でやってくる。インドの新しい旅行形態としては「ブレジャー(ビジネス+レジャー)」、女性の活躍の場が広がっていることにより「ソロトラベル・ウーマントラベル」「海外ウェディング」がある。海外ウェディングは3泊4日150人で3500万円ほど。すべての費用を両親が払うため、招待された人は旅先でお金を使う傾向が強い。
【ロシア】
ロシアにおいて日本は一生に一度は行きたい国。これまでは“自分には手が届かない国”だったが、「日本行き」「日本、ビザ」「日本ツアー」などで検索している人が増えている。冬場日が当たらないこともあり、ビーチリゾートが好き。広大なロシアは大きく分けて3つのエリア。2、3時間のフライトのため訪日も多い「極東ロシア」、中規模人口都市が多く初訪日層が多い「シベリア地域」、ヨーロッパが近く富裕層も多く初訪日層がまだまだ多い「ヨーロッパロシア」。プロモーションはエリアの特性に合わせて実施する必要がある。「日本のホテル、旅館と直接話したい」「ラグジュアリーのバイヤーも、もっとモスクワに来てほしい」「ロシア人誘致に力を入れている韓国とくらべてスキーリゾートやホテルのロシア語のページがほぼ皆無」。このような声が現地旅行会社からは上がっている。
【スペイン】
日本食レストランの相次ぐ開業や、マンガ・アニメ・文学人気で日本への関心が高まっている。2018年は11万8,900人のスペイン人が日本へ。とはいえ渡航先ランキングでは日本は32位。スペインからの訪日旅行者はマドリードまたはバルセロナ空港利用者が8割を占める。訪日スペイン人の7割以上が初めて訪日初心者マーケットで、個人旅行、長期滞在が中心となっている。旅行会社利用率23%と比較的高い。主な訪問先はゴールデンルートだが、和歌山、北海道、長野、四国、岩手などはプロモーションやプレスリリースの効果でメディア露出が増えている。日本はスペインで人気のハネムーンデスティネーション1位。
【イタリア】
失業率は10%超ではあるが旅行意欲は旺盛で、日本への旅行の関心も高い。2018年は約15万のイタリア人が日本へ、3年前に比べると約1.5倍の勢い。春のイースター休暇と、8月15日を中心とした3週間ほどの夏のバカンスシーズンが旅行シーズン。プロモーションには①美しい画像・映像、②イタリア語での情報発信が有効。一度しか行けないかもしれないデスティネーションであることから「日本らしい」自然景観、文化体験を旅に求める。ハネムーナーの割合が主要市場で最も高いが、ハネムーナーに「海の絶景」は大切なポイント。イタリア人は宿にお金をかける傾向がある。日本食はブームだが、Sushi以外はまだあまり浸透していない。和食と洋食のバランスを考慮することも必要。
【中東】
1年の準備期間を経て、来年度より中東の富裕層へJNTOとして本格的に取り組んでいく。中東地域の定義として外務省がとらえている15カ国や、イスラム教&アラビア語圏の9カ国とする考えもあるが、中東を牽引しているGCC加盟の6カ国(アラブ首長国連邦、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア)をターゲットとしてプロモーションに当たっていく。GCC6カ国の総人口は5,500万人と規模は小さいが、経済力は非常に高い。新卒の給料1,000万円、40歳、50歳で定年になり、潤沢な年金と時間もあるため、海外旅行へもよく行く。これまで中東よりの訪日旅行者の消費額平均は70万8,082円と全体の平均の4.6倍。中東市場は圧倒的に富裕層マーケット。訪日客数はまだ少ないが興味は持っている。中東へのキーワード「自然景観」「都市と伝統の対比」「文化体験」「日本食」。
いずれのマーケットにおいても、ターゲットを見据えたプロモーションの重要さが紹介された。
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