インバウンドコラム

万博見据え4年ぶりに大阪で開催、ツーリズムEXPO2023が提示した「未来の観光」のカタチとは

2023.11.08

帆足 千恵

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2023年10月26日、「ツーリズムEXPOジャパン(TEJ)大阪・関西」が「未来に出会える旅の祭典」をメインテーマに開幕。日本観光振興協会(日観振)、日本旅行業協会(JATA)、日本政府観光局(JNTO)が主催で、26日、27日が業界日、28日、29日が一般日と4日間で開催された。展示商談会には、出展小間数は1442小間(国内635、海外490、その他317)、事前マッチングによる商談は5768件、世界70カ国・地域からセラー1037名、バイヤー529名が参加。コロナ前と同規模に回復し、会期中148,050人が来場した。

大阪での開催は2019年以来の4年ぶり。「2025大阪・関西万博」を契機とする旅の未来像を提示できたのか、シンポジウムやパビリオン展示、商談会などの様子をレポートする。

 

2025年大阪・関西万博につなぐ観光の力

開会式の岸田首相のビデオメッセージにはじまり、オープニングセレモニー、基調講演、TEJ観光大臣会合、テーマ別シンポジウム、ウェルカムレセプションなどを通して提示されたのは、訪日旅行、観光需要がコロナ前を上回る勢いで回復するなか、改めて観光が国の成長戦略の柱となり、コロナ禍の間に磨き上げた魅力を今こそ発信する機会であること。そして、今回のツーリズム・エキスポから2025年大阪・関西万博につなげ、関西地域の活性化、ひいては地方への旅行客の誘客を促進することなど、国を挙げて観光に取り組むことが感じられるメッセージであった。

コロナ以前の状況からさらにステージアップして、多様で新しい観光産業の未来像を示す意気込みが感じられた。


▲ウェルカムレセプションで来賓の挨拶をした菅義偉前首相

また、今回は大阪開催ということで、2025年大阪・関西万博、ワールドマスターズゲームズ2027関西、IR(統合リゾート)開業までの道筋が多く語られた。


▲万博に向けて連携する齋藤元彦兵庫県知事と吉村洋文大阪府知事、右は2025年大阪・関西万博キャラクター

26日に開催された「万博x観光シンポジウム」では、基調講演にたった一般財団法人関西観光本部 専務理事・東井芳隆氏は「関西国際空港イン・アウトの増加を目指して、関西観光圏、二府八県で8つのルートを造成。さらにテーマツーリズムをかけあわせて、広域連携を行っていたドバイ万博での現地調査を鑑みて、万博プラス半日、一日観光、一週間くらいまでの旅行商品のラインナップを造成する必要がある」と述べた。

また、万博のテーマと連動しながら関西全体のパビリオン化にも取り組むという。万博を契機とした宿泊や地域の経済効果として5000億円を創出するという白書についても触れた。「万博はスタート地点、2025年大阪・関西万博をスプリングボードとして、前進していきたい」という。

  
▲(左)Discover Westのゾーン(右)関西の鉄道7社によって開発された「KANSAI MaaSアプリ」

 

消費者へいかにして「サステナブル・ツーリズム」を訴求していたのか

旅行業界内では欠くことのできない「サステナブル・ツーリズム」。シンポジウムや基調講演では、急速な回復に伴うオーバーツーリズムを克服するため、必ずと言っていいほど「地域への誘客」「持続可能な観光」が提唱されていた。そのメッセージが、一般の来場者にはどのように伝えられていたのか。

今回は、旅先の暮らしや伝統文化に根ざした体験やミニワークショップの実施が目立っていた。

沖縄県・(一財)沖縄観光コンベンションビューローのブースでは、新しい沖縄観光のかたちとして「エシカルトラベルオキナワ」を提案。沖縄来訪者のうち9割以上がリピーターであるというデータをふまえ、沖縄の自然環境、伝統、産業に触れながら“地域と過ごす旅”を通して、暮らしや自然環境に配慮した旅を促進するという。「与那国島の民具づくりワークショップ」では、神聖な植物として知られるクバの葉を使った水くみ道具「ウブル」作りなどの手仕事を体験できた。

  

タイ国政府観光庁のブースでは、タイ最南端のパッタニー県にある「タレー・ジョン」という企業による、海や砂浜で集めた“壊れたビーチサンダル”を細かく刻んだ素材を使うビーチサンダル作りと、海洋ゴミとして集められたガラス片や板をパウダー状に粉砕した粉で作るオリジナルの「サンドボトル」、という2つのワークショップを行っていた。

28日、29日の一般デーでは、昨年も行われた観光SDGsデジタルスタンプラリーが実施されていた。観光SDGsの取り組みを行っている国内外の企業や団体のブースにあるパネルからQRコードを読み取ると取り組みが紹介される。スタンプを取得し、10個以上集めると特典と引換できるというシステムだ。周遊しながら、サステナブルな取り組みを知るきっかけ作りになっていたと思う。

 

1週間滞在で1人100万円超、サステナブルな観光を推進メキシコのリゾート地

世界の人気リゾートでは、長期的にサステナブルな取り組みを地道に続けているからこそ観光開発投資や魅力を保持できていると実感したこともあった。それが、カンクンに代表されるメキシコ・カリブ海のビーチリゾート、マヤ文明の遺跡や世界自然遺産「シアン・カアン生物圏保護区」があるマヤ・カアンなど12の観光エリアがあるメキシコ・キンタナロー州だ。観光振興局のエクゼクティブ・ディレクターのハビエル・アランダ・ペドレロ氏に話をきく機会があった。

ペドレロ氏によると、日本人にはまだ馴染みのないプエルト・モレロスなどを中心に今後5年間で8000室の高級リゾートの建設が予定されており、投資がすすんでいるという。コロナ禍でも独自の防疫策を持ち、2020年6月から旅行者を受け入れていたため、ダメージも比較的少なかった。

現在の旅行者の1日の平均消費額(宿泊含む)は900USドル(約13万5000円)で、日本人も2023年1月〜9月で1万1000人が訪れており、1週間以上は滞在するとのことだ。この州では、2019年の訪日外国人旅行者の1回あたりの消費額15万円に近い額をほぼ1日で得ていることになる。1週間滞在する日本人は、1回の旅行で100万円を使うことになるわけで、それも驚きだった。

今回のエキスポ参加は日本、韓国、中国などアジア圏へのプロモーションが目的とのことだが、今までのマーケティングが着実に積み重なっているように感じられた。また、サステナブルな取り組みを長年かけて行っていることも興味深かった。海沿いのリゾートでのウミガメの保護、「シアン・カアン生物圏保護区」で生態系を守る活動、マヤ文化のコミュニティの多様性を守り、文化を体験できるツアーなどを10数年以上前から行っているという。まさに成熟した(mature)な観光地だと痛感した。


▲メキシコ・キンタナロー州観光振興局エクゼクティブ・ディレクターのハビエル・アランダ・ペドレロ氏

 

完全対面のインバウンド商談会・VISIT JAPAN トラベル&MICEマート

10月26日(木)〜28日(土)には、「ツーリズムEXPOジャパン」の会場内で、日本政府観光局主催のインバウンド商談会「VISIT JAPAN トラベル&MICEマート(VJTM&VJMM)」が行われた。今年は、海外33カ国・地域からバイヤー258社、国内からのセラー300団体・社が参加、6000以上の商談が実施された。

4年ぶりのリアル対談のみの商談会で、中央にあるバイヤーブースに、事前にマッチングしたセラーが訪問する形式だった。20分の時間を目いっぱい使って商談が盛り上がっている様子が見えた。28日には、高付加価値商品を海外事業者に売り込むため、VJTM初の「サステナブルツーリズム」「アドベンチャートラベル」「アート・カルチャー」の3つのテーマ別の商談分科会を実施。各セラーがバイヤー向けにプレゼンを行い、その後に商談する形式だ。

26日の午後、バイヤーに商談の感想をきいてみたところ、デンマークからのバイヤーは、「今回は日本の新しいルート、新しいパートナーを見つけるために参加した。バラエティにとんだエリアの情報が得られて充実している」と満足気だった。

韓国の大手旅行代理店・ハナツアーの団体旅行担当者は「団体客を送客したくても、バスの運転手や宿の人材不足などで大変なことも多いが、さまざまな地域とコネクションを作っていくことは今後有効だと思う」と答えた。

セラーは商談に忙しい様子だった。今回初めて参加したという、古民家再生を主軸に観光地域づくりを行う「つぎと九州」のスタッフは、「欧米豪のバイヤーには、『関東、関西のゴールデンルートがメインだから』と言われるなど盛り上がらなかった商談もあるが、おおかた熱心にきいてくれた。我々が行っている古民家再生にも興味を持ってくれるところが多く、地域の伝統文化や暮らしぶりに関心が高いと感じる」と話した。

また、10月28日(土)〜30日(2泊3日コース)、31日(3泊4日コース)に開催されたファムトリップには、31の国と地域から200名以上が参加。2025年開催の「大阪・関西万博」と「瀬戸内国際芸術祭」をテーマとするコースをはじめ、西日本以西の全11コースを設定。近年関心が高まっている「アドベンチャーツーリズム」「ガストロノミー」「ウェルネスツーリズム」「アート」などのテーマ型のツアーが造成されていた。

 

成長の余地がある観光業、知恵を出し合いより良い方向へ

ツーリズムEXPO会場内にて、同日に行われた「トラベルソリューション展2023」では、旅行者をサポートする翻訳AIや旅ナカサポートも多く見られたが、業界内の人手不足やマーケティングをサポートするDXやソリューションも目についた。業界自体が持続可能で、地域活性化にも寄与する観光業は、業界全体でコネクションを作って、知恵を出し合い、よりよい方向へ全体で向かっていくしかない。

日本はまだ観光業においては発展途上であり、大阪・関西万博を契機にどうステップアップしていくか、その道筋が少し見えた気がした。


▲28日の一般デーの様子

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