インバウンドコラム

台北国際旅行博(ITF2023)、定番以外の新しい魅力を訴求した日本。ライバルのアジア諸国はどうアピールした?

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台湾の消費者に直接アプローチできるアジア最大級のBtoCの旅行博として知られる台湾国際旅行博(ITF2023)が、2023年11月3日~6日まで台北市で開催された。台湾市場からの誘致を狙う国・地域がブースを構えて魅力を訴求するほか、旅行会社やホテルなどの民間企業は、直接旅行者に商品を販売する場として活用されている。

今回は、ITFにおいて例年日本ゾーンの運営を行っている日本観光振興協会の大須賀信氏の寄稿による現地レポート紹介する。

世界的に海外旅行が完全再開したいま、日本全国をくまなく旅する台湾旅行者に向けて、日本の各地域はどのように訴求したのか。また日本と同様に台湾市場からの観光客誘致を狙う国・地域は、どのように訴求したのだろうか。日本のライバルともいえる韓国やタイ、香港などアジア諸国、地域の様子も詳細にわたってお届けする。

 

1.ITF2023の概要

コロナ禍前の水準の規模に回復したITF2023、来場者34万人超に

今年で31回目を迎えるITF台湾国際旅行博(ITF2023)は、財団法人台湾観光協会が主催する、アジアでも最大級、台湾最大規模の旅行博で、2023年は11月3日から6日までの4日間、台北市の南港展覧館で開催された。4日間で、入場者数は34万5千人余り、昨年比176%を記録し、大幅増となった。

日本観光振興協会が毎年取りまとめを行う日本ゾーンは、出展者が昨年の55団体95ブースから70団体151ブースに増え、もはやコロナ禍の影響はほとんどなくなったといえる。ITF全体でも、昨年は71カ国および地域、1200ブースだったが、今年は104カ国および地域、1300ブースに増加した。数字上はコロナ禍前の2019年比で90%の回復だが、2019年は会場が1階と4階(今年・昨年は同じ会場で1階のみ)だったことを考えると、実際はほぼコロナ禍前まで回復したといえるだろう。

 

▼2022年の様子はこちら
インバウンド再開後初の大規模イベント 台北国際旅行博(ITF2022)、各国・地域は台湾消費者にどうアピールしたのか?

 

2.ITF前の記者会見、事前準備

ゆるキャラチーバくん記者会見登場で、現地メディアにPR

毎年、ITF本番の3日ほど前に台北市内のホテルで、報道機関や台湾旅行業界向けの記者会見が行われる。2023年は10月31日に台北美福大飯店で開催され、日本観光振興協会は、ITFの日本側の代表として参加した。およそ1時間、来賓の挨拶の後、ITF始動を象徴するセレモニーと、記念撮影が行われた。来賓、台湾の航空会社3社(チャイナエアライン・EVA・スターラックス)のフライトアテンダント、台湾各地、諸外国のゆるキャラが集合し、非常に賑やかで、華のあるものだった。

なお、今回、主催者の台湾観光協会から日本観光振興協会に対して、日本のゆるキャラの手配と参加の要請があり、調整の結果、チーバくんが登場することになったが、記者会見場では大変な人気だった。2024年も台湾観光協会からの要請があれば、日本からの出展者の協力を得て、記者会見を盛り上げていきたい。


▲(左)来賓の挨拶に立った台湾観光協会葉会長と筆者(写真右)、報道陣のリクエストで。(右)記念撮影の様子、記者会見にチーバくんが登場

今回、記者会見からの参加で、かなり前に台湾入りしており、ITF本番前に会場のブース設営の施工段階を見ることができた。私自身こうした現場を見るのは初めてだったので、興味深く観察したのだが、展覧会場とはいえ、工事現場の状態なので、ヘルメット着用が義務付けられており、400元(およそ2,000円)のデポジットを払い、借りる仕組みになっている。

会場内にはトラックなどが無造作に停められ、半そでTシャツにハーフパンツなどの軽装で施工作業をしている人も多い。地面には端材や工具、飲み終わったペットボトルやカップが転がっており、日本だと「整理整頓」などと厳しく言われるだろうにと思うこともあった。


▲会場の施工の様子

 

3.ITFの運営

ITFの運営面での工夫、SNSを使って効率良く対応

台湾では日本と同じく、LINEが主流のチャットアプリとして使われており、ITF運営側からのお知らせも10月中旬に開設されるLINEのオープンチャットアカウントで共有される。参加注意事項から始まり、前日の入場者数が朝に共有され、適宜参加者からの告知もされる。

加えて「○○番のブースの音響が大きくて商談できない!」「通路をカートがふさいで邪魔だからなんとかしてくれ!」「柱の横でクレジットカード勧誘員がお客さんに資料見せて説明しているけど、あれは許されるんですか?」など出展者からのクレームも立て続けに運営側に届き、運営側も「わかりました!すぐ注意します!」「すでに対応しました。知らせてくれてありがとう!」など、さながら高校の文化祭のようだった。

運営、参加者双方に若い人が多く、SNSを使いこなして密なコミュニケーションをしているのが印象的で、効率の良さが感じられる。何かと生産性が低いといわれる日本だが、こういう点も台湾などに差をつけられている一因ではないかと、大げさかもしれないが感じる。係員を探したり、事務局まで出向いて行って、正式にしかるべき職位の人に申し入れて改善を要求する、そこから指示が出て、ようやく対応に向かう、などというよりはるかに効率的だろう。


▲運営にかかわるあらゆる情報がLINEのグループ上で瞬時に共有される

 

4.諸外国のブース

コロナ禍が収束し、世界の観光が動き出している中、日本国内でもインバウンドの急回復が報道されているが、他国の台湾市場へのアプローチ、特に台湾人観光客誘致にあたって競合関係にあるアジア主要国の戦略も大いに気になるところである。今回、アジアにおいて、日本と競合するであろう国・地域のブースをベンチマークしたので、ご紹介する。

 

ポップカルチャーから一転、全世代に向けバランスよく訴求する韓国

昨年はK-POPアイドルを中心としたポップカルチャー中心の構成だったが、2023年は一転して、かなりオーソドックスな展開をしているように見えた。もちろん、舞台の演目ではK-POPや現代的な若者向けのコミカルなものも多いが、美食コーナーや各地域の案内などもあり、基本的なコンテンツの紹介もバランスよくしていた。


▲K-POPを推しつつも全体のバランスをとっている韓国ブース

韓国政府は韓国観光の再起動を目指し、「2023-2024韓国訪問の年」としているので、若者だけでなくあらゆる世代へのPRが戦略として必要になったのではないだろうか。台湾人にとって日本は「よく知っている国」であり、韓国に比べ国土も広く、観光資源もはるかに多いので、「日本」という国よりも「各地域」を前面に出した展開がふさわしいと思うが、韓国は一丸となって国のイメージを前面に出す戦略だと感じる。


▲2023~2024年は韓国訪問の年、美食も推している。

ただ、そんな中でも、知名度が抜群の首都ソウルは、韓国ブースの中でもひときわ大きくスペースをとっており、ソウルというブランド力・吸引力が韓国内でも際立っていると見受けられた。韓国が押し出したい先進性・クールでポップなイメージの中心はやはりソウルなのだと思った。

日本や台湾と比較して、大きく違うのが、交通事業者のブース展示の割合である。航空会社は大韓航空からLCCまですべてが小さく1つのブースにまとまり、鉄道もインチョン空港連絡鉄道AREXのPRが見られたくらいで、日本や台湾のように、航空会社・鉄道会社ごとにブースを持つような感じではなかった。


▲ソウルをPRするブース「ポップでクール」なイメージを前面に

 

ブース規模は小さくも人気は健在、旅行会社が半分以上のタイ

タイは、言わずと知れたアジアきっての観光立国で、外国人観光客数も日本の上をいっているが、そのタイのブース構成は、他国に比べて非常に特徴的だった。規模としてはそこまで大きくなく、昨年度の半分以下、韓国の4分の1程度だったが、その半分以上が旅行会社のブースだった。これは他国にないブース構成で、タイが台湾の人にとっても人気の目的地で、日本と同じように「気軽にすぐ訪れたい、訪れることのできる国」であることがうかがえるものだった。


▲舞台と旅行会社ゾーンで半々のタイブース

 

大規模ブースを構え、「古き良き香港」を大々的に訴求

2022年は出展のなかった香港が、今回は会場のいい位置にかなり大きなブースを構えていたのが印象的だった。タイの3倍ほどの規模で、昨年の不在もあって非常に目についた。台湾からは飛行機で1時間ほどで到着する同じ中華圏の香港が、ここまでの規模の展示を設けるのが意外だった。もしかすると、近時の中国の政治的影響力の増大に伴うデモ・報道の規制などのニュースでマイナスイメージが大きくなった香港を、改めて観光を前面に出して誘客を図ろうとする意図なのではないかと感じた。展示内容も、「古き良き香港」を前面に出していて、二階建てのトラムの模型、香港らしい街並みのパネルの展示で、ノスタルジーを感じられるものだった。


▲香港の街をかたどるパネル、路面電車のオブジェ

 

4.日本ゾーンの紹介

多摩、所沢、大洲、など定番以外の新しいデスティネーションを訴求

日本ゾーンは、昨年比で1.5倍のブース数の出展となり、非常に多くの参加があった。昨年にはなかったミニステージを設置、参加者の工夫を凝らしたパフォーマンスで、大変な盛り上がりを見せた。展示もどれも素晴らしく、会場内での日本ゾーンの存在感は卓越したものがあったと思う。

今回、注目したいのが、旅慣れた台湾人の日本旅行好きにとって、今まで定番ではなかった新しいデスティネーションや、定番だったがその新しい魅力をアピールするブースが増え、日本ゾーンの展示内容に他国にはない深みを加えていたことだ。


▲中華圏で大人気のYouTuber RyuuuTV・台湾で抜群の知名度ラーチーゴー吉田社長もミニステージに登場。吉田社長はライブ配信も。

例えば、世界的知名度の首都東京は、23区ではなく、大きく多摩地区をアピールしていた。また、東京にも近い近郊都市の埼玉県所沢市が出展していて、ミニステージでも大変好評を博していた。


▲多摩地区をPRする東京と、所沢市

さらに、四国各県とは別に、日本国内でも非常に先進的な取り組みで知られるDMOキタ・マネジメントが愛媛県大洲市をPRしていた。地域DMOの出展も観光地域づくりの観点から非常に意義深いと感じた。

 

1カ月前からSNSと動画で戦略的に告知に取り組んだ屋久島ブース

今年の日本ブースで、ひときわ存在感を出していたのが、2023年に世界自然遺産登録30周年を迎えた屋久島だった。伺うと、「今回のITFにあわせて、繁体字版の30周年記念映像とWebサイトを制作し、台湾で最も使われているSNSと聞いていたFacebook上で、10月中旬から広告配信を行いました」とのことだ。台湾人の知り合いが「最近、屋久島の映像をかなり目にしたので、台湾人の間でも認知度が高まったと思う」と話していた。

「海外旅行博に向けて事前にSNS広告を打ち、開催国での認知度を高めたうえで、旅行博開催日に足を運んでもらい、リアルでPRをする」という戦略がきちんと効果を出している成功事例だといえる。屋久島ブースは徹底したイメージの統一感も図られていて、会場では屋久島の深い緑の森のデザインが遠目からも視認性に優れていた。


▲大洲をPRしたキタ・マネジメントと、美しい装飾の屋久島ブース

 

5.ITF2023を終えて

ITF2023で見られた、新しい観光需要を取り込む工夫

今年の会場は、数字が示すようにどこも大変な盛況だった。昨年もお伝えしたように、日本の同種の旅行博よりかなりBtoC的な要素が強いので、活気があり、台湾人の反応が直に感じられるものだった。おかげさまで、日本ブースは、主催者側から最も人気のあったブースに贈られる「Best Popularity Award」(最佳人氣奨)を受賞した。日本ゾーンをとりまとめる側としても、大変光栄であるし、様々な工夫をして、大変な労力を割いて出展していただいた皆様のおがげであると思っている。この場をお借りして関係者の皆様に感謝を申し上げたい。

世界の観光産業はいよいよ以前の活気を取り戻しはじめたようだ。その中でも、各国・各地域が従来型のものに加え、新しい観光需要を取り込むための工夫をしていることが印象に残った。日本ゾーンとしても、来年度はより一層、台湾の成熟したマーケットに対して他国に負けない訴求力を備えてアピールしていければと思う。


▲授賞式といただいた盾

 

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