インバウンドコラム

【現地レポ】2週間で1人150万円のツアーも!! 米国の新しい訪日旅行トレンド、地方がインバウンド誘致で成果を出す3つのポイント

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私は徳島県三好市大歩危・祖谷地区の宿泊施設など民間企業を中心に組織する(一社)大歩危・祖谷いってみる会の代表として、2007年から徳島県の大歩危・祖谷地区のインバウンド戦略構築やプロモーションなどを行っている。同地区は、四国の中央に位置する日本の三大秘境の一つ。そんな地方から米国を含む海外の旅行者に対して誘致を働きかけ、15年以上の月日が過ぎた。

今回、コロナ禍以降初めて渡米。ロサンゼルスで開催された旅行会社向けの商談会「Japan Showcase」へ参加したほか、個別に現地旅行会社へのセールスコールを行った。今回の渡航を通して改めて感じた米国での新しい訪日旅行トレンドや、地方が米国インバウンド誘致に取り組む意義、プロモーションで成果を上げるために必要なことを話していきたい。

 

日本の三大秘境の一つから米国誘致を目指し、コロナ禍初の渡米

JNTOが主催する「Japan Showcase」は、訪日旅行商品を取り扱う旅行会社を対象にした訪日旅行商談会だ。2023年度は11月から2024年1月までオンライン/オフラインで開催され、対面式はニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルスでそれぞれ行われた。

商談の形式は、1社ずつの個別商談ではない。米国のバイヤーがラウンドテーブルに別れて座り、日本側のサプライヤーが、1テーブル8分ずつプレゼンしてまわるというスタイルだ。米国のバイヤーは約130社、日本側からは17のサプライヤーが参加した。

今回の商談会には「大歩危・祖谷いってみる会」の代表の私と、徳島県西部総合県民局の担当者が現地に赴いた。

日本から参加したサプライヤーの顔ぶれは、航空会社や鉄道会社、大手ホテル、大都市圏のDMOなどが中心で、大歩危・祖谷のような地方からの参加は他にいなかった。バイヤーの目からは新鮮かつ目立つため、話を聞いてくれやすかったように思う。

 

米国旅行会社へ地域の魅力をより良く伝えるためにとった新しい試み

今回の商談会で新たに試みてよかった点がある。日系人であるサンディエゴの旅行会社3Dトラベルのダグラス社長に、プレゼンテーションを任せ、プロモーションの窓口になってもらったことだ。四国への送客実績があり、我々との付き合いも長く四国や祖谷のことをよく知るダグラス氏によるプレゼンは、同業である旅行会社の視点も加わり、説得力が増した。
「ゴールデンルートは人が多く混み合っていたので、最後に連れていった四国で喜ばれた」というお客様の反応はもちろん、四国、および徳島への交通手段や、東京ー四国などインバウンド向けの国内航空運賃が安いことなど、旅行会社が求める具体的な情報も盛り込んでくれたことで、好印象を得たようだ。


▲四国、祖谷の魅力をプレゼンする3Dトラベルのダグラス氏

 

大歩危・祖谷エリアのインバウンドの状況

ここで我々、大歩危・祖谷いってみる会のインバウンド誘致に向けたこれまでの取り組みを説明したい。

ホテルを運営する正会員5社と、小規模ゲストハウスや交通事業者など30社の観光関連事業者からなる(一社)大歩危・祖谷いってみる会は、2007年ごろからインバウンド誘致に取り組み始めた。

現在は、徳島県や三好市などの行政機関、大歩危、祖谷地区を含むにし阿波エリアの地域連携DMO(一社)そらの郷と「官・民・DMO」が連携して役割分担の上、インバウンドプロモーションに取り組んでいる。行政担当者は入れ替わりもあるので、民間組織が中心の(一社)大歩危・祖谷いってみる会が、基本の戦略を考え、イニシアチブをとっている。

ターゲット市場は、アジアは香港と台湾。東南アジアはシンガポールとマレーシア、欧米豪は、北米、オーストラリア、フランス、イギリスを設定している。インバウンド戦略については、正会員ホテル5社の外国人延べ宿泊者数を元にエリアの実績を集計しており、過去最高を記録した2019年は、1位の香港が約半分を占め、2位台湾、3位中国、4位がアメリカ、5位フランス、6位オーストラリアだった。

なお、2023年は、2019年比で9割近くまで回復している。トップ6の顔ぶれは1位香港、以下台湾、アメリカ、オーストラリア、シンガポール、フランスで、トップ2は2019年と変わらない。ただ、1位の香港市場は、コロナ禍でストップした直行便が再開しておらず、回復が後れたことで全体の3割となった。一方で、旅行需要が旺盛な市場からの伸びが著しい。重点市場のうち2019年比の伸び率トップはシンガポールで同143.6%、2位はアメリカで同138.5%、3位がオーストラリアで同137.2%となっている。

 

アレックス・カー氏の存在が、欧米豪市場への誘致に取り組む契機に

インバウンド戦略を立てるにあたっては、アメリカ人で東洋文化学者であるアレックス・カー氏の存在が大きい。カー氏は、1970年代はじめに祖谷地区に購入した古民家「篪庵(ちいおり)」に住んでいた。現在はゲストハウスとして運営し、大歩危・祖谷いってみる会の賛助会員でもある。地元の歴史・文化・暮らしを見せていくことや、景観論者として電線の地中化などが望ましいことなど、中でも欧米豪圏からの誘致のために必要なことを分かりやすく指南してくれた。

欧米豪からインバウンド誘致をスタートしたが、一生に一度という日本旅行でゴールデンルートから外れているうえに、知名度もない四国まで誘致するのは大変だった。リピーターが多く地方への関心が高い香港や台湾などアジアにもターゲットを広げながら、欧米豪市場にも継続的にアプローチを続けた。


▲祖谷地区名物のかずら橋

アメリカ含む欧米豪市場からの誘致の転換点となったのは、2012年に雑誌「ナショナルジオグラフィック」に取り上げられたことだ。ライターであるサンフランシスコ在住ドン・ジョージ氏の奥様が愛媛の出身だったことから四国に興味を持ち、企画を持ち込んだのがきっかけだったという。

全10ページほどの特集のうち、大歩危・祖谷地区を含む記事は2~3ページに亘った。それ以降、アメリカでの認知も少しずつ広まった。これがきっかけで、アメリカ市場向けのプロモーションにも本格的に着手し、2014年に初めて渡米して商談会に参加。これを契機に、2019年までは毎年のように渡米して商談会へ参加しプロモーションを継続してきた。

特に、現地旅行会社やメディアにアポを取る際に「ナショナルジオグラフィックに掲載された場所」というのは殺し文句になり、話を聞いてもらえるようになった。


▲2012年にナショナルジオグラフィックに掲載された

 

渡米を通じて気づいた現地旅行会社の新しい動き

さて、今回の渡米に話を戻そう。商談会や現地訪問を通じて印象的だったのは、コロナ禍を経て、株価も上昇して景気のいいアメリカは旅行意欲が非常に旺盛ということだ。日本向けには高額商品の設定も多く、あるアメリカの旅行会社は2週間で1人当たり1万ドル(約150万円)の商品を売っている。

また、日本人と大きく違うのは、多国籍のアメリカは、ロシアやパレスチナなど他民族の紛争などに対して敏感で、「将来は何が起こるかわからない。行ける時に旅行しよう」という気持ちが強い点だ。安全で治安がよく、おもてなしレベルの高い日本は、旅先として高く評価されている。

今回、商談会とは別に、個別で事前にアポを取ってロサンゼルスに拠点を持つ5つの旅行会社を訪問した。

訪問先は、JNTOやダグラス氏のアドバイスのもと、地方に対して興味を持ってくれそうな旅行会社を中心に組んだ。うち1社は2014年から付き合いのある旅行会社だったが、会ってみて、日本通の人を中心にゴールデンルート以外にも客を連れていきたいという人が増えたことが実感できた。


▲LA拠点の旅行会社訪問時の様子、個別訪問を通じて旅行業界のトレンドの変化も感じることができた

また、今回の渡米を通じて、変化を感じたことがある。まず、全体的なアメリカの旅行会社の傾向として、従来から存在する小規模家族経営で常顧客を持つところは、会社もお客様も高齢化しており、日本の地方を含む新しいもの、未知のものを取り入れようという心意気が薄れてきていることだ。

一方で、テクノロジーの進化、デジタル化により、ミレニアル世代やZ世代など若い旅行者を対象とした新しいスタイルの旅行会社も出てきている。今回の訪問先の1つは、デジタルの力を活かして、世界中の旅行者を対象に集客する日本人経営の旅行会社だった。訪日旅行を専門に扱う同社の取扱1位は、オーストラリアだという。

同様の会社はいくつか存在するとのことで、なかには、オフィスを持たずにオンラインだけでやりとりして、ドバイからの集客で平均4万ドル(約600万円)といった高額商品を扱うケースもあるそうだ。

さらに以前から言われていることだが、OTAを利用する個人旅行者が、アクセスの悪い地方にまで足を伸ばすというケースも増えてきている。個別アポイントで、こうした新しいスタイルや、FITの傾向も掴むことができた。

 

まだ知られていない地域が旅行会社の心をつかむために必要な3つの要素

今回、商談会のプレゼント窓口を依頼したダグラス氏から、ゴールデンルートから外れており、四国のようなまだ広く一般的に知られていない地域が商談をスムーズに進めるために必要な3つのポイントを聞いたので、紹介する。


▲ロサンゼルスの様子

1. モデルルートを作っておくこと:
アメリカから日本への旅行は2週間という人が多い。10日前後はゴールデンルートを観光するので、2~4日どこでどう過ごせるのか、提案してほしいというオーダーが多かった。
このニーズに応えられる周辺エリアも含めたプランを複数持っておくと、検討されやすいだろう。

2. デスティネーションまでのアクセスを提示:
たとえば大歩危、祖谷エリアの場合「新幹線で岡山まで行き、そこから特急に乗れば、約1時間30分。ここまでは、JRパスが利用できる。最寄駅からは、ホテルの送迎バスや、タクシーで約20分」など、具体的なアクセス示す。交通手段が脆弱だとデメリットになるので、選択肢を用意しておき、きちんとフォローすることが大切だ。

3. 窓口、問い合わせ先の設定:
行政の方が訪問して、名刺交換をするケースもあるが、行政担当者は定期的に異動があるため、引き継ぎもなされず、連絡が途絶えるケースも多い。
現地に信頼できるパートナーを見つけ、問い合わせを受けてもらう。異動が発生しないDMOやDMCなどの担当者を立てて窓口とするなど、長期的な関係を構築するための工夫が必要だ。

 

継続して商談会に参加することの意義

2014年から諸外国で開催される商談会に参加しはじめて、10年経過した。継続的に商談会に参加していると、顔なじみも増え、相性の良い旅行会社も分かってくる。

また、アメリカに限った話ではないが、商談目的であったとしても、いきなりビジネスの話からはじまることは少なく、まずはお互いのことを知ることから始まる。何度も顔を合わせたり長い付き合いになると、共通の話題や、前回顔を合わせたときからのアップデートなど、話題に事足らず、スムーズに商談に入っていけるのも利点だ。


▲商談会に参加した現地旅行会社の方と、JNTOロサンゼルス事務所長と撮影

今回、久しぶりに海外渡航をして、対面で会って話すことの意義は非常に大きかったが、一方で円安の影響もあり日本からの海外出張は経費が高くつく。オンラインでのミーティングと現地訪問をうまく組み合わせながら、関係性を構築していくことが大切だと、改めて感じた。

写真/データ提供:(一社)大歩危・祖谷いってみる会

 

一般社団法人大歩危・祖谷いってみる会 会長 植田 佳宏 氏

香川県高松市出身。航空会社勤務を経て、家業である和の宿ホテル祖谷温泉を継ぐ。以降、大歩危・祖谷地域全体を盛り上げようと2000年「大歩危・祖谷いってみる会」を立ち上げ。2019年に一般社団法人化。

 

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