インバウンド事例
【体験ツアー:ノットワールド】外国人客に人気の体験コンテンツ、集客実施の際の考え方
2018.11.30
事例のポイント
- インバウンド客は“観光地”だけでなく、“非観光地”をも求めている
- 料金は「何を経験できるか」という付加価値で決まる!?
- ツアーの質を高めるために不可欠な2つのこと
- 「採用」と「教育」でガイドのレベルを担保する
インバウンド客に人気の体験コンテンツ、Japan Wonder Travelで「食べ歩きツアー」などを提供しているノットワールド。彼らが運営するツアーは、トリップアドバイザーのエクセレンス認証を3年連続獲得、viatorやGet Your Guideでもアワードを受賞するなど、インバウンド客からの好評価を受けている。
今回の事例紹介のテーマは、「いかにしてノットワールドが自社ツアーを外国人に選ばれるコンテンツへと育て上げていったのか」。前編では、どのようにして商品造成を実施したかを伺った。後編は、集客に関してどのような考えのもと行っているかをお伝えする。
料金は「何を経験できるか」という付加価値で決まる!?
「我々の通常のツアーは、ほとんどが半日で1万円前後。結果的に、4つ星や5つ星のホテルに泊まっているようなゲストに多く参加いただいています。ですから、そういったホテルとのコミュニケーションも大切にしながら、ホテルの方に実際に参加いただく機会を設けることもあります」
実際に参加してもらうことで、「自分たちの大切なお客様に紹介する価値のあるものかどうか」をコンシェルジュに判断してもらえるというわけだ。とはいえ、やはり最大の集客チャンネルになっているのは、冒頭でもあげたようなオンライン予約サイトだ。このチャンネルを利用する際に気をつけていることはあるのだろうか。
「特にトリップ・アドバイザーにいえることなのですが、そういったサイトは常にアルゴリズムが変化します。UIをいろいろ試してみたり、A/Bテストをしてみたりしています。ですので、あまり小手先のテクニックは重要でなくて、やはり良いコンテンツ、質の良いアクティビティをゲストに提供し続けることに尽きると思っています。そうした前提のもと、サイトに合わせて、打ち出し方を変えるということは多少しています」
さらに佐々木氏は、ツアー料金設定の考え方について、次のように述べている。
「我々が食べ歩きツアーを始めた頃に比べて、ライバル(同業者)が増えていますが、だからといってツアーの料金を下げるということはしていなくて、為替や競合の状況をみながら微調整をしている程度です。というのも、料金というのは何が経験できるのかという付加価値こそが決めるものだと考えているからです。そして付加価値があれば満足度は高まるし、満足度が高ければゲストは来る、というように考えています」
そうした前提はあるが、一方で新たに参入する事業者の場合には、「ある程度のクチコミが溜まるまで、特別料金で集客するのも一つの考え方ではあります」とも話す。
ツアーの質を高めるために不可欠な2つのこと
では、先に書いたように、高価格帯のツアーでもゲストの満足を担保するためには、どのようなことに気をつけたらいいのだろうか。
「ガイドのスキルで変わってくる面もありますが、基本的にはツアーの規模と品質は相関すると考えています。つまり、ガイドが1人で40人を引率するバスツアーと、5人を引率する少人数ツアーでは、お客さんの満足度はまったく違うということ。ですから我々は質を担保するために、少人数でツアーを行っています。これまでの我々の経験上、“ツアー中に全員の名前をパッと言えるかどうか”が、満足度を高められるかどうかの一つの指針となっているので、ガイドがゲストに対して、“Hey,David”って言える関係性を築くことが大事だと考えています」
また、ガイドのスキルによって生まれがちなツアーの質のばらつきを抑えるために、工夫していることもあるという。
「いきなり“東京を案内して”って言われても、質の高いガイドはできません。ですから、あなたは何時に〇〇に行って、何時にここに着いたら〇〇という話をして、このお店でこのフードを食べながら薀蓄を言って……というマニュアルをつくっています。我々の築地のツアーだと、だいたい20ページほどになりますが、そこでは笑いが取れる場所と方法まで載せています」
このようにコンテンツを作り込むことで、ツアーの質を確保することができると佐々木氏は考えているが、そこにはさらに別の意義もある。
「通訳案内士という国家資格がありますが、『資格は取ってみたけど、やっぱりちょっとガイドは無理そうだ』と、実際に活動をしている人は多くないんですね。マニュアルを用意することは、ツアーの質を担保するだけでなく、ガイドの方々がデビューしやすくなる、という意義もあると考えています」
現在、ノットワールドでは80人ほどのアクティブなガイドを抱えているが、ほぼ全員がこの国家資格・通訳案内士の保持者であるという。実は、通訳案内士法が改正され、2018年1月からは資格を有していなくても有償での通訳ガイドが可能となったのだが、そのあたりの影響は出ていないのだろうか。
「現状ではあまり規制緩和の大きな変化は感じていません。というのも、もともと資格を持っていなくても、いくつかのサイトでは活動が出来ていたからです。つまり資格の提出を義務付けていなかったので、2018年1月以前も、ガイド活動をしたい人はしていたということです。ですから規制が緩和されても、大きな変化にはつながらなかったのだと思います。その影響よりは、Airbnb experienceなどのプラットフォームの普及による影響のほうが大きいと思います」
「採用」と「教育」でガイドのレベルを担保する
「ノットワールドでは、ガイドによってばらつきが出ないよう、ガッチリと作り込んだマニュアルを用意している」と書いたが、“Hey,David”の件にも象徴されるように、やはり外国人観光客と直に接するガイドの役割は小さくない。それは、佐々木氏が「マニュアルはガイドさんが自分で考える余裕を作ることが最大の目的であって、守るべきものではありません」と語っている通りである。では、そんなガイドのレベルを一定以上に保つために必要なことはどんなことなのだろうか。佐々木氏によれば、それは「採用」と「教育」に大別できると説明する。どういうことか。
「採用については、事業を立ち上げてからはありがたいことに、友人の紹介などで連絡をいただくことが多く、非常に助かりました。という意味では、人のつながりが大事であるといえるかもしれません。やはり、素敵な人から紹介いただいた人は、やっぱり素敵であることが多いので、縁というものを大切にすることで、良い人を集められるのだと思います」
この“集める”以上に重要だと佐々木氏が考えているのが、選考も兼ねた“教育”である。
「正直、教育にいちばん力を入れています。いくつかのステップに分かれているのですが、基本的には実地と座学の両方の研修を受けることを必須としています。そして重要なポイントが、研修を受ければ採用というわけではないところです。端的にいえば、ゲストとして我々のツアーに参加してもらい、そこで研修の内容を確認するとともに、英語力やコミュニケーション力のチェックをしています」
なぜなら、ガイドにとって重要なのは、勉強的な意味での英語力ではなく、人と人の関係の中でうまくコミュニケーションできるのかどうかだからだ。そのうえで、さらに現場で実際にガイド役をしてもらい、その様子もチェックする。
「社内のスタッフの誰かがついていって、実際のガイドをチェックします。“立ち止まって話さないと聞こえない”とか、“ツアー参加者のチームビルディング”といったガイドの基礎ができているのかを、厳し目にチェックをして、フィードバックします。それをだいたい2回くらい繰り返し、それで“大丈夫そうだ”と判断した人だけ独り立ちする。つまり、我々が受けた予約をまわしていきます」
ただ、このようにして教育したら後は手放しで任せる、というわけでもない。育成・再教育というところにも力を注いでいると、佐々木氏は続ける。
「ガイドさんには、毎回、レポートの提出をお願いしています。このレポートは、どこで何を食べたのか、良かった点と困った点、ゲストの満足度などについて書いてもらっています。さらにゲストからの反響やツアーを行っている地元の方々からの声も拾っています。これらを参考にして、ツアーの内容を少しずつ改善するとともに、ガイドへのフィードバックも行い、必要に応じて再度研修を受けていただくこともあります」
というのもガイドによっては、一生懸命になりすぎるあまり、採用のときに教えた基本を忘れてしまうことがあるからだ。
「“立ち止まって話す”や“チームビルディング”といったガイドに関することもそうですが、それに加えて“地元の事業者を大切にする、迷惑をかけない”ということも忘れがちです。再度研修を実施する意義は、そういった地域とのつながりを大切にする、というところにもあります」
大手口コミサイト・トリップアドバイザーを見てみると、2018年11月20日現在、Japan Wonder Travelは817件(英語は786件)の口コミが掲載されているが、そのうち95%が「とても良い」という評価である。外国人観光客からこうした高い評価を受けているノットワールドの「着地型ツアー」への考え方は、都心部のみならず地方の事業者にとっても参考になる部分は多いのではないだろうか。
(取材協力:株式会社ノットワールド)
ノットワールドの取り組みについては、
『インバウンドビジネス入門講座 第3版』でも紹介しています。
ぜひそちらもご覧ください。
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