インバウンド事例
【函館朝市】市場の売り上げもアップさせた、ニーズに合わせた柔軟な受け入れ体制
事例のポイント
- アンケート調査を実施し、外国人観光客のニーズを把握
- インバウンド専用の総合インフォメーションカウンターを設置
- 「タビ前」に着目したプロモーションを実施
- その時々のニーズに合わせた柔軟な戦略が実を結ぶ
- 「外国語の通訳サポート」を起点に新たなビジネスを展開
現在、およそ250もの店舗が軒を連ねる商店街「函館朝市」の歴史は、昭和20年代に近隣農家の人々が函館駅前で野菜を立ち売りしたことに始まる。昭和31年には、JR函館駅に隣接する現在の場所へ移転し、「市民の台所」として長年親しまれてきた。近年は、北海道新幹線の開業やLCCの就航が追い風となり、日本人観光客だけではなくアジア圏を中心とした多くの外国人観光客も訪れるようになった。また、函館朝市の裏手にある若松ふ頭には、今年4月から複数のクルーズ客船の入港が決定し、欧米からの観光客の増加も期待されている。
今回は、こうした背景からインバウンド誘致に取り組む、函館朝市協同組合連合会(以下、函館朝市)の事例を紹介する。
アンケート調査を実施し、外国人観光客のニーズを把握
函館朝市に外国人観光客が増え始めた2016年当初、海鮮丼を提供する飲食店を中心に売り上げが増加していたものの、受け入れ体制は十分に整備されていなかった。そのため、北海道運輸局と連携し、外国人観光客の中でも増加の著しいアジア圏からの観光客を対象としたアンケートを実施。調査結果からは、「多言語での案内サービス」「免税対応」「クレジットカード等の対応」「検疫情報の提供」「海外宅配サービス」というさまざまなニーズが浮かび上がった。函館朝市は、日本人観光客だけではなく、外国人観光客も積極的に取り込むことで相乗効果が生まれると考え、インバウンド対策を本格始動させることとなる。
インバウンドを受け入れるために、まず取り組んだこと
函館朝市はまず、経済産業省の補助金を活用し、2016年9月に外国人観光客専用の総合インフォメーションカウンターを開設(※1)。カウンターには、英語や中国語が話せるスタッフを常駐させ、買い物案内や免税手続きをワンストップで行なったほか、日本郵便のカウンターを併設し、免税手続きを終えた商品を国際スピード便(EMS)で発送できるようにした。
また、特に来街の多い台湾と香港を中心に、各国・地域の検疫を通過できる海産物の情報を記したチラシを制作し、各店に配布したほか、自国への持ち帰りの可否を示したシールを対象商品に貼った。
各店には、利用可能なクレジットカードのステッカーを店舗の前面に貼るように呼びかけた。外国人になじみの薄い商品や調理方法に関しては、店頭のPOPで周知し、販売員向けにも海外の食習慣や消費行動、外国語の接客フレーズを紹介するマニュアルを作成。このように、細かい施策を重ねてインバウンドの受け入れ体制を整え、各店の接客スキルの向上にも取り組んだ。
「タビ前」に着目したプロモーションを展開
函館朝市のインバウンド施策は、現場だけにとどまらない。外国人観光客は、訪日前にガイドブックやインターネットで情報収集をした上で訪問先を決めることが多いため、来街の多い香港や台湾、マカオ、シンガポールの訪日ガイドブックに、総合インフォメーションカウンターの広告を掲載した。また、多言語対応のスマートフォンサイト(※2)を立ち上げ、カウンターの場所や免税手続き、免税店、持ち帰りが可能な商品、配送手続きなど、朝市での買い物に役立つ情報を詳しく紹介。サイト内では、キャンペーン情報も随時更新している。「タビ前」のフェーズを意識した情報発信で、函館朝市や朝市の名物である海産物についての周知を図り、販路拡大への布石を打った。
その時々のニーズに合わせた柔軟な戦略が実を結ぶ
中華圏からの観光客が多く訪れる春節や国慶節の時期には、中国語で対応できるスタッフを増員し、買い物や免税手続きのサポートを強化した。その結果、春節と国慶節期間中に実施した独自の調査では、「現地スタッフによる外国語の通訳サポート」が各店の売り上げに最も貢献していたことがわかった。
現在では、外国語スタッフをカウンターから各店舗周辺に巡回させる体制に切り替え、外国人観光客の動きを見ながら適宜通訳していくことで、購入の橋渡しをしている。また、春節・国慶節期間中は函館朝市が差額を負担してEMSの特別料金を設定し、利便性向上と消費拡大につなげた。さらに2017年からは、インバウンドのニーズを受け、12カ国語に対応した外貨両替機を設置。このように、さまざまな施策を進めながらも、その時々の需要に合わせた柔軟な対応で進化を続けている。
「外国語の通訳サポート」を起点に、新たなビジネスを展開
これまでの施策で店舗に最も好評だった「現地スタッフによる外国語の通訳サポート」は今年、「タビヤク‐TABIYAKU」という独自のサービスに生まれ変わった。現在、東京のIT企業2社と共同でシステム開発を進めているこのサービスは、スマホやパソコンを使って、通訳者と通訳を依頼したい商業施設を仲介するシェアリングエコノミービジネスとして展開する予定だ。
具体的には、語学力のある主婦や学生、高齢者、旅行者に通訳者として登録してもらい、商業施設側は通訳に入ってもらいたい日程を入力し、通訳者とのマッチングを行う仕組みとなっている。このサービスにより、「言葉が通じないから購入を諦める」「商品の品質がわからずに、ただただ値切られる」といった双方の問題を解決し、外国人観光客が安心して買い物ができる環境づくりや、店舗側の新たな客層の掘り起こしにつなげていく考えだ。函館朝市内では、登録希望者を対象とした説明会を開催したほか、朝市外でも、青森県や鳥取県などで実証実験を実施する予定となっており、今後は全国の観光地への普及拡大を目指している。
IT技術を駆使した施策はこれだけではない。昨年12月には、北海道で初めて「IoT忘れ物自動通知サービス」を開始した。MAMORIO社との連携により実現したこのサービスは、まず観光客が所持品に小型タグを取り付けてアプリに登録。万一、所持品を紛失した際には函館朝市に設置された専用アンテナが位置情報を検知し、所有者のスマホに通知するという便利な仕組みとなっている。
函館朝市では、国の補助事業や市の交付金をうまく活用しながらも、基本的な運営資金は協同組合連合会の予算でまかなっているという。大規模な予算をかけずとも、柔軟なアイデア次第で実現可能な施策の数々は、インバウンド誘致を目指す他の観光地でも参考にできる点が多いのではないだろうか。
(※1)現在はインフォメーションのみの無人カウンター
(※2)多言語対応のスマートフォンサイトは現在リニューアル中
取材協力:函館朝市協同組合連合会
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