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障がいを持つ人の訪日旅行に対する期待と現実の差が明らかに、正確な情報発信も課題に ーアクセシブルツーリズム調査

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アクセシブル・ツーリズムとは、障がい者や高齢者など、移動やコミュニケーションにおける困難さに直面する人々のニーズに応えながら、誰もが旅を楽しめることを目指す取り組みのことである。日本のバリアフリー観光情報を提供する英字情報サイトAccessible Japanと株式会社JTB総合研究所が、共同で「海外在住障害者の日本ユニバーサルツーリズム認識調査」を実施。海外の障がい者が訪日時に困ったことや良かったことなどの具体的な経験に焦点を当てることで、訪日旅行に対する期待と現実のギャップが明らかとなった。

調査は2024年9月19日〜10月15日の期間、Accessible Japanに会員登録している障がいのある外国人およびその家族221人を対象に、インターネットによるアンケート形式で行われた。
(図版出典:Accessible Japan・株式会社JTB総合研究所 共同調査「海外在住障害者の日本ユニバーサルツーリズム認識調査」)

 

回答者は英語圏が7割、訪日経験者が3割

回答者221人の居住地の内訳は、アメリカ(43.4%)、オーストラリア(13.1%)、イギリス(11.3%)、カナダ(4.1%)と、英語圏が全体の7割以上を占めた。これは、Accessible Japanが英語で情報を提供するサイトであり、特にアメリカを中心とした英語圏の利用者が多いことによるものと考えられる。     

障がいの種類・状態の内訳は、手動式車いす利用者(43.0%)、電動車いす利用者(42.1%)とほぼ同程度で、海外では電動車いすの利用が一般的であることがわかる。電動車いすはバッテリー容量の制約で行動範囲が限られるため、海外の電圧規格に対応した充電スポットの拡充が求められる。また、大型の電動車いすに対応できる環境整備も必要だ。

その他の障がいとして、難病(22.2%)、杖利用者(19.9%)、自閉症(14.9%)といった内訳が続いており、アクセシブル・ツーリズムが幅広い障がいや状況に対応する必要があることを示している。

なお、回答者の訪日経験に関する内訳は、訪日経験ありが74人(33.5%)、訪日経験なしが147人(66.5%)だった。

 

日本のイメージ、施設のバリアへの懸念大きく、正確な情報発信も課題

日本のアクセシブルに関するイメージについて尋ねたところ、「日本の寺や庭など、車いすで行けないところが多い(67.0%)」、「ホテル・レストラン・店など部屋や建物が狭い(55.2%)」など、日本の建築様式への懸念が上位を占めた。日本のアクセシブル・ツーリズムの遅れや、電車の混雑による車いす利用の困難さを指摘する声も47.1%に上った。

また、訪日経験の有無で見ると、訪日経験者の方が、「ホテル・レストラン・店などの部屋や建物が狭い(63.5%)」「日本はアクセシブル・ツーリズムが進んでいない(48.9%)」「大浴場や温泉は車いす利用者などが利用できない(41.9%)」「日本語以外の言葉を話せる人が少ない(37.8%)」「アレルギーやグルテンフリー対応の食事が提供されない(9.5%)」と答えた割合が高かった。訪日経験のない人が抱くイメージよりも実際の評価が低かったわけで、これら5つの項目では早急な改善が求められる。

一方、訪日経験者よりも未経験者の割合が高かった項目の一つ、「電車は混雑していて車いすでは乗れない」ではその差が10.8ポイントもあった。海外メディアなどで日本のラッシュアワーが紹介される影響で、そのようなイメージを持つ外国人が多いと考えられる。正しい情報発信を通じて、こうした誤解を解消する取り組みが必要だ。

 

訪日経験者の声、宿泊施設や温泉の利用、混雑や多言語での情報が障壁に

訪日経験者74人には、訪日旅行に関するアンケートも行った。訪日経験回数は1回が半数以上で、主な訪問先は東京、京都、大阪だった。特に関心を集めたのは日本の食文化や歴史的建造物であり、この傾向は健常者の訪日旅行ニーズとほぼ一致している。

アクセシブルな視点から訪日旅行で困ったことを聞いたところ、「宿泊施設にアクセシブル・ルームが少ない・ない(50.0%)」が1位となった。段差をなくし手すりを設置するなど、車いすで利用しやすいように設計された客室が求められている。さらに観光地の足場の悪さや、大浴場や温泉の利用が困難である点が主な課題として挙げられた。これらは、日本の観光施設やサービスが障がい者にとってまだ十分に利用しやすい状況にないことを示している。

「人が多過ぎて観光を楽しめなかった(36.5%)」「日本語の情報しかなく困ったことがあった(23.0%)」といった回答からは、言語的な壁や混雑によるストレスが観光の際の大きな負担となっていることがわかる。

一方、良かったこととしては、「親切にしてくれる人が多かった(81.1%)」「トイレが無料で使えるところが多く、きれいで使いやすかった(68.9%)」などが挙げられた。日本のおもてなし文化は障がいを持つ人々にも好印象を与えているようだ。電車に乗る際の駅員のサポートを評価する声も多かった。

 

欧米諸国で進む、アクセシブルに関する法整備

アクセシブル・ツーリズムが進んでいると感じた場所や国を自由記述で尋ねたところ、40名以上が「アメリカ」と回答した。これは、今回の回答者の4割がアメリカ在住であることが影響しているが、その理由として「ADA法による規定がある」という意見が多くみられた。ADA法は、1990年7月に制定された障がいによる差別を禁止する公民権法であり、国内外でその認知と理解が広がっていることがうかがえる。他にも、イギリス、スペイン、北欧などが挙がった。欧州では2019年に障がいを持つEU居住者が製品やサービスにアクセスしやすくする「欧州アクセシビリティ法」が成立している。

日本を挙げた回答もあったが、その多くは「東京」と都市名で回答していた。日本では2011年に「バリアフリー法」が制定され、1日3000人以上が利用する駅を対象に段差の解消を目指すなどの目標が設定された。その結果、東京の96%の駅でバリアフリールートが整備されている。特定の大都市ではアクセシブルな環境整備が進んでいるものの、国全体では法規制の遅れや不十分さが依然として課題となっている。

 

日常生活におけるアクセシブルのハード・ソフト両面の整備が欠かせない

旅行でなく日常的な外出において配慮が必要とされたものは「アクセシブルな乗り物(80.5%)」「アクセシブルな観光地や施設の情報(76.9%)」「バリアフリートイレ(73.3%)」だった。これにより、乗り物やトイレといったハード面の整備だけでなく、アクセシブルな情報に対するニーズも高いことが明らかになった。

また、感覚刺激を調整するためのセンサリーグッズや、特定の状況やルールをわかりやすく説明するソーシャルストーリーといった、目に見えにくい障がいへの配慮も欠かせない。これらは日常生活や旅行時に必要な基本的な配慮だ。

こうした障がい者のニーズを把握し、適切な情報発信を行うことで、訪日旅行の促進に大きく寄与する可能性がある。

 

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【対談】観光地のバリアフリー対応が経済的メリットを生み出す理由(前編) 

【対談】海外事例に学ぶ、観光地が今すぐできるアクセシビリティと情報発信のコツ(後編) 

 

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