データインバウンド
2025年アドベンチャートラベルの顧客像に変化、価格上昇や成熟層シフト進む
2025.07.14
やまとごころ編集部ATTA(Adventure Travel Trade Association)が「2025年版アドベンチャー・トラベル・トレンド&インサイト(旧称「スナップショット」)」を発表した。今年で18年目を迎えるこのレポートは、旅行者の行動、ビジネスパフォーマンス、サステナビリティへの取り組み、そして世界のアドベンチャー・トラベル業界における市場動向をより深く理解する上で役立つもので、ここでは5つのトレンドについて解説する。
1.収益拡大と市場の正常化:旅行者数と利益の新たな関係
ATTAによる調査は2025年2月19日~4月16日に世界各地のツアーオペレーター259社を対象に実施された。それによると、2024年には平均4141名の旅行者に対応した。その数は、2023年(6553名)から37%減、2022年(4243名)から2%減だったが、コロナ前の2019年(3974名)をわずかに上回る水準にある。つまり、旅行者数は一時的に減少しているものの、業界が正常化したことを示唆している。
一方で、収益拡大の勢いは依然として強い。回答者の73%が前年より収益増を報告し、66%が2025年にさらに純利益が増加すると予想している。これは、旅行単価や顧客層の質が向上し、業績が支えられていることを示している。収益別に見ると、大多数の回答者は収益が小幅(25%未満)の増収で、回答者の4分の1は26%以上の増収だった。なお、変化なし、あるいは減少したと回答した人の割合も、約4分の1いた。
2.単価上昇と地域還元:成熟層が牽引する市場拡大
レポートでは、収益増大の要因として、新規顧客獲得や市場の地理的拡大、新商品の開発が影響したと分析している。旅行価格の中央値は8泊の旅程で、2023年の2813ドルから2024年には3000ドルへとわずかながら上昇しており、価格アップも収益押し上げに寄与した。また、旅行価格の76%にあたる約2280ドルが地元のサプライヤーに支払われており、地域に根ざした経済効果への業界の長年の取り組みを裏付けている。
旅行出発地の市場としては主に、アメリカ、ブラジル、西ヨーロッパからが多く、目的地としては、アメリカ、ブラジル、イタリア、日本の人気が高い。また、これらの旅行の参加者は主に45歳から64歳で、没入型でアクティブな旅行体験を求める資金と意欲の両方を備えた成熟した層であることが示唆されている。
3.食文化体験が牽引:多様化するアドベンチャーの形
旅行者の目的については、この5年間で料理体験・ガストロノミー関連ツアーといった食文化体験への関心が着実に増加し、それまで人気の高かったサファリ・野生動物観察やハイキング・トレッキング・ウォーキングを上回って2024年は一番人気となった。また、E-バイクサイクリング、文化体験も引き続き人気だ。
アドベンチャートラベルで人気の高まりを見せているカテゴリーとして、「ランニング活動」がランク外(20位)から2024年には8位へ飛躍。運動体験志向、いわゆる“アスリート型アドベンチャー”の人気が急速に高まっていることが見て取れる。また、女性向け旅行(6位)や一人旅(10位)が初めてトップ10入りしたことは、旅のスタイルの多様化を示している。
4.気候変動が促すラストチャンス旅行:新たな旅の動機
旅行の動機としては、「新しい体験」「穴場を訪問」「地元の人のように旅する」「文化との触れ合い」などが上位に位置しているが、環境悪化や気候変動により、今しか行けない可能性のある地域へ行こうとする「ラストチャンス旅行」も重要な原動力になっている。
特に旅行者は“消失しつつある場所を体験したい”という意識を強めており、自然環境の保全や持続可能性への関心などの社会的意識の高まりと深く連動している。
また、暑さからの解放を求める旅行者からは、北東アジア、スカンジナビア、地中海、南極などの涼しい気候の目的地の人気が高まっている。
5.持続可能性へのコミットメント:認証と実践のバランス
アドベンチャートラベルのツアーオペレーターに、観光および環境保全に関する課題として最も注目に値するものを答えてもらったところ、野生生物の保護、地域住民の生活、気候変動などが挙げられた。
持続可能性は依然としてツアーオペレーターにとって重要な価値だが、認証取得の動きは停滞している。レポートによると、現在、約49%が認証を取得済みまたは取得を目指しているが、これはコロナ以前より低い水準で横ばいにとどまる。主な障壁はコストと人的リソースであり、実施への意欲はあるものの、拡大は進んでいないのが現状だ。
その他の持続可能性への取り組みには、責任ある旅行に関する顧客教育(50%)、より持続可能なサプライヤーへの移行(49%)、節水(47%)、化石燃料の使用を削減するための旅程の再構築(40%)が含まれる。
【編集部コメント】
「量から質」へ、多様化する旅の動機にどう応えるか
旅行者数の回復は鈍化しつつも、収益増という結果は「量から質」への転換を物語ります。価格上昇、地域経済への還元、45歳以上の成熟層の台頭など、単なる回復ではない変化の兆しが随所に見られます。中でも注目すべきは、料理体験の人気急上昇やランニング、一人旅の台頭。アドベンチャーの定義が広がり、旅行の動機やスタイルが多様化している点です。商品造成や販路設計の再検討にあたり、自社の強みがこの変化とどう接続できるかを見直してみると、新たな展開が見えてくるかもしれません。
(出典:ATTA 2025 Annual Adventure Travel Trends & Insights Report)
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