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Z世代は「アラカルト型贅沢」志向、旅で重視する5つの要素とは?

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アジア太平洋地域(APAC)のZ世代(16〜30歳)を対象に、Kadence InternationalとVeroが2025年3〜4月に実施した調査によると、若年層の旅行スタイルが従来型の贅沢から大きく転換しつつあることが明らかになった。調査対象はシンガポール、マレーシア、タイ、香港、インドネシア、ベトナム、インドの7カ国・地域のZ世代2465名。

 

Z世代の旅行習慣、年2〜3回の旅で贅沢は柔軟に選択

Z世代は、従来のオールインクルーシブ型の豪華旅行にとらわれず、自らの価値観や興味、支出能力に応じて旅の内容を選ぶ「アラカルト・ラグジュアリー」を重視している。このスタイルは、画一的な贅沢よりも、意味があり、記憶に残る体験に重点を置くことが特徴だ。
旅行頻度では、APAC全体で約半数が年2〜3回の旅行をしており、1回あたりの支出は2500〜5000ドルが中心。23〜30歳のZ世代後半層は、16〜22歳の若年層に比べて旅行回数も支出額も多い傾向にある。

Z世代の旅行習慣(旅行頻度と平均支出)
上が旅行頻度、下が平均支出のグラフ

Z世代の旅行習慣(旅行頻度と平均支出)

宿泊施設の好みは、全体の約半数が「目的地や目的によってブティックと高級ホテルを使い分ける」と回答。27%がブティック/独立系ホテル、24%が高級ホテルチェーンを選んでいる。

ロイヤルティ特典については「限定割引」がわずかに優勢だが、Z世代後半層は「VIPアクセス」や「ラウンジ利用」などの特典をより重視する傾向が見られた。

 

意味ある“体験”にこそ価値、Z世代が最も投資するのはエンタメ

本調査では、APACのZ世代が旅先で重視する体験として、エンターテインメント、ウェルネス(心身のケア)、食の体験、景観と美的魅力、そしてサステナビリティの5つの要素が浮かび上がっている。

中でも最も多くの支出を割いているのがエンターテインメント体験。64%が優先項目に挙げ、特に文化フェスティバル(61%)、音楽フェス(43%)、映画・テレビのロケ地巡り(41%)が人気だ。

エンターテインメントへの出費
上より、文化フェスティバル、コンサート・音楽フェスティバル、映画・テレビのロケ地巡り、スポーツイベント、その他(ゲーム、ショッピング、eスポーツ、遊園地、アーケード)

エンターテインメントへの出費

旅行先選びにおいても79%がエンタメ要素を重視しており、主な動機として「一生に一度の体験」(50%)、「個人的な興味」(46%)、「現地文化体験への関心」(40%)が挙げられた。FOMO(流行や体験から取り残されることへの不安)を理由にする割合は17%と低く、他人の視線より自分自身の価値観を重視していることがわかる。

エンターテインメントにお金をかける理由(支出の動機)
上より、「一生に一度の体験をしたいから」、「自分の趣味や関心に合っているから」、「その土地ならではの文化に深く触れたいから」、「SNSに投稿したくなるような体験ができるから」、「FOMO(見逃したくない・取り残されたくないという気持ち)から」

エンターテインメントにお金をかける理由(支出の動機)

 

パーソナライズと自然の癒しを求める ウェルネス体験も重視

Z世代にとって旅行は、心身をリフレッシュし、自分と向き合う時間でもある。調査では85%が「ウェルネスの充実が旅行先選びに影響する」と回答しており、リラクゼーションや精神的な回復を求める傾向が強い。旅行予算の使い道としても、61%がウェルネスと自己ケアを優先しており、エンターテインメントに次ぐ高い割合となっている。

Z世代が「贅沢」と考えるウェルネス体験には、パーソナライズされたプログラム(45%)やプライベートリトリート(43%)、ウェルネス専門家へのアクセス(42%)などが挙げられる。

Z世代にとってのラグジュアリー・ウェルネスの定義(上位5項目)
上より、「自分のニーズに合わせたパーソナライズされたウェルネスプログラム」、「排他的でプライベートなウェルネスリトリート」、「ウェルネスの専門家にアクセスできること」、「高級スパのトリートメントや施設」、「デジタルデトックス体験」

Z世代にとってのラグジュアリー・ウェルネスの定義(上位5項目)

実際に費用をかけたい体験としては、自然療法(59%)やスパトリートメント(53%)が人気。ヨガや瞑想、サウンドヒーリングなどの静的な体験も注目されている。なかでもZ世代後半層は、自然や静けさを重視したウェルネス体験により高い関心を持ち、個別対応や専門性を重視する傾向が強い。

お金をかける価値があると感じているウェルネス体験
上より、自然療法(森林浴やガイド付きハイキングなど)、スパトリートメント(マッサージ、フェイシャルなど)、サウンドヒーリングや呼吸法セッション、ヨガや瞑想リトリート

お金をかける価値があると感じているウェルネス体験

 

食は旅行動機の中核に。ローカルから高級レストランまで幅広く支持

Z世代にとって「食」は、旅行先を選ぶ最重要要素の一つであり、APAC全体で92%がその価値に影響を受けると回答した。特にベトナムでは食が最優先され、インドネシアやインド、マレーシアでも関心が高い。
旅行予算においても61%が食を優先的に支出したいと考えており、ウェルネスや景観と並んで高い位置づけにある。重視されるのは、雰囲気や空間を含むダイニング体験(58%)、ユニークな料理イベント(50%)、有名シェフによる料理(31%)など、非日常性や特別感のある体験だ。

ダイニングの選択に影響する要素
上より、雰囲気や全体的な食事体験、ユニークな食イベント(シェフズテーブルやテイスティングメニューなど)、ミシュラン星付きレストランや有名シェフの料理、SNSインフルエンサーからの推薦、サステナビリティや倫理的な食材調達への配慮

ダイニングの選択に影響する要素

人気の食体験は、地元の屋台市場探索(35%)や有名シェフのレストラン(29%)、体験型料理教室への参加(13%)など。Z世代後半層(23〜30歳)はこうした体験により高い支出意欲を示し、若年層は今後の実現に強い関心を持っている。

旅行体験を豊かにする人気の食アクティビティ
上より、地元の屋台市場の探索、有名シェフが手がける/または雑誌で紹介されたレストランでの食事、体験型料理教室への参加、伝統と革新を融合させた味わいの体験、インスタ映えするシチュエーションでの食事

旅行体験を豊かにする人気の食アクティビティ

 

旅行は自己表現の場、景観の美しさと“映える”体験に支出意欲

Z世代にとって旅行は、単なる移動や観光ではなく、自己表現と創造的なアウトプットの場となっている。その中でも「景観と美的魅力」は重要視されており、77%が旅行先選びにおいて影響を受けると回答。61%が支出においても優先項目とし、特にタイやインドネシアではエンターテインメントよりも高く位置付けられている。

最も重視されているのは「自然の美しさ」(58%)であり、次いで「手頃な価格と高い価値」(46%)「ソーシャルメディアでのトレンド」(44%)「特別なイベントやフェスティバル」(42%)などが続く。有名人やインフルエンサーの推薦(27%)よりも、Z世代自身の審美眼や価値観に合った体験が重視されている点が特徴的だ。

「ここは行ってみたい」と思わせる旅行先の魅力とは?
上より、自然の美しさや絶景、手頃な価格とコストパフォーマンスの良さ、SNSで話題のスポット(バズった場所、ハッシュタグなど)、特別なイベントやフェスティバル、特別感や格式の高さ(プライベートリゾート、招待制イベントなど)、有名人やインフルエンサーの推薦

「ここは行ってみたい」と思わせる旅行先の魅力とは?

また、79%が「共有できるコンテンツが旅行先選びに影響する」と回答しており、旅行は自分の世界観を発信する機会と捉えられている。特にZ世代後半層は、自然や映え、コスパ、話題性を重視する姿勢が見られる。

旅行コンテンツの発信先としては、YouTube(70%)、Instagram(67%)、TikTok(60%)が主要なプラットフォームとなっている。

 

贅沢でも“エシカル”に。持続可能性への関心が上昇

Z世代の旅行者にとって、「持続可能性と倫理的選択」は、旅先を決めるうえで無視できない要素となりつつある。調査では71%が、これらの観点が目的地選びに影響すると回答。支出の優先度としては5つの柱の中で最も低いものの、52%が旅行予算を割くことを前向きに捉えており、今後の可能性は大きい。

特にインドネシアやベトナムでは、持続可能性への関心が他地域より高く、明確な差が見られた。Z世代の多くは、環境負荷の低い旅行体験に対し、追加費用をいとわない傾向がある。環境に優しい宿泊施設(59%)、サステナブルな食事(52%)、動物福祉に配慮した体験(43%)が主な支出対象だ。

「追加料金を払ってもいい」と思うポイント
上より、環境に配慮した宿泊施設、サステナブルな食の選択肢、動物福祉に配慮した体験、カーボン・オフセット(CO₂排出の相殺)プログラム

「追加料金を払ってもいい」と思うポイント

魅力を感じる取り組みとしては、環境配慮型の建築や運営(45%)、地元食材やオーガニックアメニティの提供(43%)、地域社会への貢献(42%)、環境に配慮した移動手段(39%)などが挙げられる。

旅行において「エシカルであること」が、新しいラグジュアリーとして認識されつつある。

「魅力的」と感じるサステナビリティの取り組み
上より、環境に配慮した建築や運営、地元産・オーガニックのアメニティ提供、地域社会への貢献、環境にやさしい移動手段の提供、認証制度や環境配慮への取り組みが明示されていること

魅力的」と感じるサステナビリティの取り組み

 

Z世代の旅の優先軸に地域差 5つの要素を国別に読み解く

Z世代の旅行を形づくる5つの柱(エンターテインメント、サステナビリティ、景観と美的魅力、ウェルネス、食の体験)は、国や地域ごとに重視される度合いが異なる。以下に各市場の顕著な傾向を示す。

Z世代の支出の優先順位

Z世代の旅行先選定に影響を与える要素

シンガポール

支出優先順位はエンターテインメント(74%)が最も高く、次いで食(69%)。
・持続可能性の優先度は比較的低く(40%)、目的地選択への影響力も53%とAPACで最も低い。
・ローカル屋台での食体験が人気。若年層はSNSで話題のスポットへの関心が強い。

マレーシア

・エンターテインメント(70%)が支出の最優先事項。持続可能性への関心はやや低め。
・地域社会への支援を魅力的なサステナビリティ施策と感じている。
・ネイチャーセラピーへの関心も高く(61%)、自然との接触を重視する傾向がある。

タイ

・景観と美的魅力(71%)が最も重視され、食(62%)が続く。
・Z世代後半層は文化的な祭やロケ地巡り、ネイチャーセラピーに積極的に支出をする傾向。
・オンライントレンドの目的地選びに強く影響され、92%がSNS経由で「映えスポット」を探す。

香港

・エンターテインメント(74%)と食(63%)が支出の上位に位置する。
・若い層はエンタメへの予算配分が多く、後半層はよりバランスを取った支出傾向。
・持続可能性は支出優先度(42%)、旅行先選定への影響力ともに低めだが、地域社会支援への関心はある。

インドネシア

・景観と美的魅力(75%)が最重要視される一方、持続可能性への関心も高い(62%)。
・環境配慮型の宿泊やサステナブルダイニング(69%)に積極的。
・「自然の美しさ(76%)」が旅行先を選ぶ最大の決め手であり、ネイチャーセラピー(77%)にも強い関心を示す。

ベトナム

・ウェルネス(70%)と持続可能性(63%)が支出における最優先項目。
・サステナブルダイニング(57%)やエコ設計の宿泊施設に高い支出意欲。
・食の魅力が特に重視されており、目的地選択においても最優先事項とされる。有名シェフの店や地元屋台、ユニークな料理イベントが人気。

インド

・エンターテインメント(72%)が最も重視され、次いでウェルネス(68%)。
・食の優先順位は低めだが、後半層Z世代は食や持続可能性に関心が高い。

 

【編集部コメント】

贅沢=豪華の時代は終わり?Z世代が旅に求める“私らしさ”

“アラカルト・ラグジュアリー”という言葉が表すように、アジアZ世代の旅はもはや画一的な贅沢ではなく、自分の価値観で自由に選ぶ「意味ある体験」へと進化している。特にエンタメやウェルネス、食、景観といった5つの柱に支出が集中しており、なかでも「一生に一度」「文化への没入」「自己表現」といった動機が目立つ。国ごとの関心の差異も顕著で、観光商品やプロモーションはよりパーソナルで文化的背景に即した設計が重要になるだろう。

(出典:Kadence International/Vero,À La Carte Luxury:Gen Z’s Selective Indulgence Approach to Travel

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