インタビュー
観光庁との役割分担の変化により、大きな責務を負ったJNTOの今後
村山
そして、JNTOさんの尽力の甲斐あって、ついに昨年、訪日外国人旅行者が1000万人を突破。さらに、東京オリンピック開催が決定して、国内におけるインバウンドへの関心、期待感はどのように変わったと感じられていますか。

松山
村山さんも実感されているかと思いますが、目に見えて大きく変わりましたね。以前は、観光が大事だと頭では理解していても、観光地は各地に点在し、すそ野が広すぎて、大きな力として集結できていませんでした。
ところが、今ではTV、新聞などマスコミでも報道が過熱し、ようやく観光が大事だという意識が国民の間に、単なるお題目としてではなく、しっかり根付いたように感じます。せっかく追い風になっているのですから、これからはさらに一歩踏み込んで、「観光は大事な日本の基幹産業である」という意識を浸透させていくことが必要です。
そうなれば、オリンピックが開催される2020年に、2000万人の高みを目指すことができると信じています。
村山
力強いお言葉ですね。今年は消費税増税や、10月には免税品目が拡大するなど、税制においても、インパクトのある改革が実施されていきますが。インバウンドへの影響はどのように捉えられているのでしょうか。
松山
今さら言うまでもありませんが、ショッピングと食は外国観光客にとっての大きな関心事。タックスフリーになる品目が増えることもまた、追い風になるのは間違いありません。これを商機と捉え、百貨店協会と共にしっかり海外へアピールできるよう準備を進めているところです。
村山
海外では消費税が上がることは話題になっていても、免税品目が増えることについては知れ渡っていないようですからね。
松山
私たちJNTOは、きめ細やかに、現状に即した活動を進めていくべきだと考えます。そういった状況を踏まえ、昨年12月に観光庁との役割分担を明確にしました。
これまでは、観光庁が企画立案した訪日プロモートを自ら実行まで行いJNTOは管理監督という立場。今後はJNTOが実行部隊としての機能を担うことになっています。
村山
その狙いはどのようなものなのでしょう。

松山
例えば、民間の旅行代理店やエアラインがキャンペーンを提案してきても、従来のシステムでは観光庁が国の機関である以上、どうしても入札、検討、落札というプロセスを踏まなくてはならず、実現までに時間がかかってしまいます。
さらに、現地側に実行部隊がいなければ、どうしてもプロモートなどが丸投げになってしまい、真意が通じなかったり、コントロールがしづらくなります。
どこの国でも、観光庁はあくまで観光行政全般を司るブレインで、実行部隊は別にあるというのが一種の国際常識となっていましたから、ようやく本来のあるべき姿となったのです。
村山
さらにJNTOさんの役割が重要になってくるということですね。最後に、今後の方策についてお聞かせいただけますでしょうか。
松山
ただ闇雲に、2020年に2000万人達成と数字を追うだけでなく、観光の質をあげることが大切です。質を上げることで、来ていただいた方々が満足して、もう一度来たいと思っていただける。それには、人と人との交流から生まれる相互理解が必要だと考えます。
また、受け入れ態勢の整備、例えば観光案内所やWiFi環境をはじめ、宿泊施設や交通機関などインフラ整備も重要。
観光だけではなく、MICEの拡充強化も含め、オールジャパンが一丸となって日本ブランドを確立しプロモートする必要があるということです。
そして、もっとも大切なのは、国民の皆さんひとりひとりが、外国人に対する抵抗を無くすこと。「心のバリアフリー」を浸透させることが大切です。観光は人を動かす大きな力になります。我々が大きく変わっていける、飛躍できるチャンスなのです。

村山
本日はありがとうございました。
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