インタビュー

元JNTO理事 安田彰氏③

2008.02.13

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Q11.最近、若い方もインバウンドで起業する方が増えています。そういった方々にメッセージをお願いいたします。

インバウンドに関心を持つ方が増えていることは非常にいいことだと思います。また、海外にでて初めて、いかに自分が日本のことを知らなかったかということがわかり、日本に興味を持つ、という経験がとても大事だと思います。つまり日本にいるだけでは日本のことは分からず、むしろ外国人の目、あるいは海外からの視点で日本を見ることにより、初めて日本を知ることができるのです。インバウンドとは日本を知ること、さらには自分を知ることだと思います。これは非常に貴重なことで、その意味では仕事としてインバウンドをやることは大いに意義のあることです。ただ、大手旅行会社50社のインバウンド取扱高の割合は総取扱高の1%未満に過ぎません。 現在日本に来ている835万人の外国人旅行者に対しては、大手ではなく小規模の旅行会社が頑張ってオペレーションをしています。しかしややもすると価格競争に陥りがちで、日本の印象も「安かろう悪かろう」になりかねません。ですからそういった会社の人とうまく連携しながら、そして外国人の声を聞いて知恵を出し合い、日本ならではの質の高いサービスを提供していってほしいと思います。

Q12.通訳案内士が今年は大幅に増えましたが、新たな「民間外交官」の方々にメッセージをお願いいたします。

JNTOは通訳案内士の試験業務を国土交通省より受託しているわけですが、我々ができることは語学能力や日本に対する一定の知識を問うだけにすぎません。しかし通訳案内士とはまさに本来「民間外交官」であって、日本を代表して旅行者とお付き合いをし、満足していただくという役割を果たしています。良くも悪しくも、通訳案内士の対応によって、旅行者の日本に対する印象が変わってきてしまうのです。つまりおもてなしの心、ホスピタリティというのが、本来通訳案内士に求められるものだと思います。ぜひこうした原点に思いをいたし、「民間外交官」として日本を代表しているということを意識し、頑張っていただきたいと思います。

Q13.もし、ご自身がインバウンドで起業するとしたら、どういったことをなさりたいですか?

インバウンドは大いに意味があるし、やりがいもあると思いますが、ビジネスとしてやっていくには非常に難しいと思いますので、あくまで理想としてやってみたいことを話します。 私が今までやってきて一番うれしく、ありがたく、かつ誇りに思うことは「人脈」だと思っています。その人脈を生かしたビジネスとは何だろうと考えたときに、それぞれの友人が持っている得意なジャンルを束ねれば、何かできるのではないかと思いました。例えばですが、日本というテーマで考えるならば、何か外国人が困ったとき、あるいは何か知りたいことがあるなど、そんなときにどんなことでも対応できるポータルサイトができたらいいと思います。あくまでも個人ベースで、そのサイトに相談に来れば各ジャンルのエキスパートである私の友人・知人たちが、たとえば旅行・ガイドから教師、弁護士、不動産、金融、商事、医師、僧侶まで待機していて、あらゆる要求にも応えられるようにできたらおもしろいのではないかと思います。それは私の人脈を生かした、個人と個人の付き合いで実現できるものであり、単純にリンクを貼って紹介するだけのものとは違った、キメの細かい、行き届いたそして信頼できるサービスが提供できると思います。こういったものはもちろん夢ですが、私のネットワークを最大に生かしてできることではないでしょうか。

Q14.安田氏が考える「観光立国」とは何でしょうか?

現在フランスが外国人訪問者数で7500万人と世界1位ですが、果たしてフランスは自分の国を観光立国だと思っているでしょうか? 恐らくはそのように自覚的には思っていないと思いますが、それでも多くの外国人観光客が訪れています。それはそこにある永い永い地理歴史的なもの、文化などの蓄積が、いつしか類を見ない深みに達しており、それをフランス人自身も誇りに思っていますし、その誇りに思っていることを世界に発信したり、あるいは誰かが伝えることで、その魅力が雪だるま式に増えているのだと思います。 それを日本に置き換えてみると、実は日本もそういった要素を持っているのではないかと考えています。考えてみると、日本の生活の中にはまだ「江戸の生活」というものが残っていて、例えば寄席や銭湯、布団や炬燵、花見や祭り、屋台や寿司・そばの出前だとか、少なくはなりましたが女性の着物だと浴衣とか、風呂敷、手ぬぐい、千代紙など、探してみれば江戸の生活・文化を受け継いできている部分はたくさんある。「観光立国」というと漠然としたイメージですが、もう一度「江戸」と現在とを結びつけて、こうした下町文化を東京のテーマのひとつにしたらいいのではないかと思います。東京の中に存在する江戸らしさというものは外国人旅行者にとっても大変興味深いものです。 このように各地域がそれぞれテーマを持ち、それを情報発信していく、同時に訪れた人も口コミ等で印象・感想を広げていく、それによって日本もしだいに「観光立国」になっていくのではないでしょうか。自分たちがもっと意識して、自覚的に発信していくことが必要だと思います。 「観光立国」を目指すにはいろいろな取り組みと視点の持ち方が必要で、これを突き詰めると最終的には背景に「日本ブランド」が地紋のように浮かびあがってくると思っています。

Q15.最後に安田氏の今後の抱負をお聞かせください。

私は実はもともと絵描きになるのが夢でした。父親に反対されて断念せざるを得ず、大学も美術大学ではなく外語大へと進みました。ただその夢をこれまでずっと持ち続け、時間を見つけては絵の勉強をしたり、美術スクールに通ったりしていました。退職後はぜひ絵描きになりたいと思っています。 ではこの夢といままでの仕事がまったく関連していないかというと決してそうではなく、海外の仕事の時には、時間をぬって有名な美術館へ行き、多くの芸術作品を見ることができました。このように、どんなに夢と現実の仕事が違うと思っていても、まったく結びつかないわけではないと思っています。夢と現実が違うからといって対立的に捉えてしまうよりも、現実とうまく結び付けられる部分がどんな仕事にもあると思います。「今の仕事は仮の姿」と決め付けず、また決して自分の今の状況を卑下せず、その仕事から身につくことを学んで夢の実現に一歩ずつ近づける努力をしてほしいと思います。

Q16.安田氏が毎年新入社員に教えているJNTO職員像

1)大前研一のいう「国際人」10の条件(参考資料「遊び心」学研’88年)

1.新しいことを学ぶこころ
2.人のこころが分かること
3.人の上に立てるリーダーシップ
4.自分の考えをまとめて発表できる能力
5.多様な価値観を受け入れる力
6.一般教養(主要地理、歴史、文化、宗教)
7.自然科学的なものの考え方
8.若干の法知識
9.しっかりとした確かな母国語能力
10.コミュニケーションのできる英語力

ポイントはいつでもこれを引き出せるよう終生身にしみこませること。

2)これからのリーダーの条件
①意欲、責任感、使命感に溢れた人、取り分け使命感
②意欲は自分のため、責任感は組織のため、使命感はもっと崇高
③強い使命感を持てば、全景が見え、置かれた位置が見える。
④ワイキューブ代表・安田佳生
・できる人は「人生の目標のバー」を高く掲げている。
・年収の差は論理的思考力の差だ
・「焼肉の焼き方ひとつでさまざまなことがわかる」

3)一所懸命 おもしろきこともなき世をおもしろく
住みなすものは心なりけり
高杉晋作

インタビューへのご協力誠にありがとうございました。

シェスタク氏が中心となって立ち上げられたJNTOロシア語サイトです。今後、地方の祭りやイベントに関するコンテンツを追加するほか、鉄道や航空会社等の交通機関や地方自治体が運営するロシア語版ホームページへのリンク機能を充実させるなど、ユーザーと外部サイトとの橋渡しを行うポータル機能を強化しながら、ロシア語圏(ロシア及びCIS独立国家共同体)の訪日旅行需要の喚起に努めていく予定です。

 

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