インタビュー

「地方がインバウンドで開国を進めると化学反応が起こる」日本の民泊を牽引する百戦錬磨・上山氏インタビュー

2018.06.12

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6月15日の住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行も目前。海外の大手民泊会社Airbnbなどに対して、日本国内最大の民泊予約サイト「STAY JAPAN(ステイジャパン)」を運営する株式会社百戦錬磨の動きが活発だ。JAL、JTB、京王電鉄、ANAセールスなど大手企業や、徳島県などとの行政との業務提携を進め、民泊を通じたインバウンド事業と地域活性化の動きが加速させている。民泊新法の制定にも尽力してきた、株式会社百戦錬磨の代表取締役・上山康博氏に話を伺った。

 

観光旅行業としての民泊の可能性を実証するために

ーー楽天トラベルから独立し2012年起業。民泊のどんな部分に可能性を持たれ起業したのでしょうか。

民泊だけというよりは、観光旅行分野でICTなどテクノロジーを活用した新たなビジネスの仮設を立証したくて企業しました。その一つが、シェアリングエコノミーの民泊です。

独立した当時、民泊事業を日本国内でやっている人はいませんでした。民泊のスタートは、いわゆるグリーンツーリズムとも言われる農家民泊で、第一次産業従事者の民家に宿泊するというところから始まっています。

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そこにAirbnbが上陸し、ルールを守らないヤミ民泊が主に都心部で激増したため、いわゆる民泊というのが、合法民泊とヤミ民泊が混在する市場になってしまいました。当社は健全な市場形成のためのルールづくりを国に働きかけ進めてきました。それが特区民泊、そして民泊新法のルールにつながったと思っています。

その道のりは険しかったですが、事業として成立するには、同じことを強烈に圧倒的な力でやりきるか、または、まだ誰もやっていないことを単独でやりきるか、のどちらかです。もちろん何をやるにも最初は大変。でも自分たちは大変なのが好きだからやっている。ドMなんですね(笑)。僕はどういう会社になりたいか?とか、どういう会社でありたいか?と聞かれたら、世の中のために尽くしきるソーシャルドMな会社、と答えています。

観光業とは、まだ顕在化していない需要をいかに顕在化させるか

ーー田舎体験民泊というテーマで、2013年より「とまりーな」をスタートさせています。民泊の中でも農泊(農村民泊)から始めた理由は。

今は農泊の価値を、皆様からも感じてもらえていますが、スタートさせた当時はとにかく一番儲からなさそうでした。修学旅行とか、教育分野での農家体験というのはありましたが、旅行商品には結びついていなかった。業界では儲からないと思われていたからです。しかし、明らかに社会にとっては必要だという確信がありました。社会がこれからもっと求めるだろうという潜在需要です。旅行業、観光業とは顕在化したものに対して利便性をあげることで収益があります。世の中には必要なのにまだ顕在化していないものを、どう顕在化させて、収益にして、それが持続可能で、形を変えながら発展していくか、ということをしたかったんですね。


https://stayjapan.com

 

百戦錬磨という社名は、一つ二つ失敗しようがめげませんよ、ちょっと成功したからって、そこに固執しませんよ、ずっと新しいことにチャレンジしますよ、という決意表明。百戦錬磨の人がいるわけではないんです。例え、自分たちはしんどくて何故こんな大変なことを、と思いながらも世の中が喜んでくれたら嬉しい。最初に言ったソーシャルドMにも繋がりますが、社会のために仕事をして、社会の人たちが喜んでいることが自分たちの快感なんです。きっとそれをずっと続けていれば、世の中は生かしてくれる。世の中の人に必要だと思ってもらえれば、応援してもらえるし、必ず継続できるんです。

地方のインバウンドは、テクノロジーの台頭で推進

ーー地方のインバウンドに不可欠なもの。そして農泊を変えていくものとは。

今現在、交付金や補助金を抜いてしまうと、農村には実際のところ、経済がしっかり作動していない。世界に打って出られるような農業のクオリティはあるけれど、それをちゃんと流通させたり、付加価値を持ってそれに見合ったお金をいただけていない。すごくもったいないことです。

そういう意味でいうと、地方に本来の価値に見合った経済を作りたい、と考えています。子供も孫も外へ出てしまうのは仕事がないからで、地方に戻ってこれるには魅力的な仕事を作らないといけない。そこで農泊なんですが、田舎の個人宅に宿泊するファームステイもあってもいいし、例えば古民家の空き家や文化財建築など、カントリーサイドステイ(農村滞在)という意味での農泊をやれば、管理する人や料理人も必要になるし、地元の食材も購入する。いろんな経済が生まれてきます。

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これらを実現するためのポイントがICT 、IOT等々テクノロジーの活用、そしてインバウンドじゃないかと思っています。都会にはもうすでに外国人があふれていますが、これからは地方の時代です。地方がインバウンドで開国を進めると新しい化学反応が起こり、それが仕事を増やし、経済を作ることになると確信しています。この仮説を立証するために、誇りを持って事業を進めていきたいと思っています。

 

日本の農村体験は、外国人にとって未知の体験・宝の山

ーー海外からも民泊産業が続々参入してきますが、日本の民泊の特徴・強みは?

ファームステイの市場を世界的にみた時、利用している約半数はヨーロッパの人々です。イタリア郊外でファームステイしたり、彼らは当たり前のように利用しています。ただ、ヨーロッパのファームステイと日本の農村滞在は明らかに違います。風景も建物も、料理も文化も全て違う。このギャップだけでも日本の民泊は魅力は十分です。あとは、実際にヨーロッパの人々にどんどん体験してもらい、問題点を一つ一つ改善していけば、農村での民泊は洗練されていくと思います。

地方の人は、ここには何にもないと自信を持てないことが多いんですが、外国人にとってはすべてが非日常であり未知の体験です。外からの目で地域の魅力を訴えてもらうことは説得力があり、モチベーションアップにもつながります。言葉が通じないことも、今の時代ならどうにでもなる。アプリだってあるし、身振り手振りでなんとか対応することで、一層濃いコミュニケーションが生まれますから、それは逆に強みかもしれません。
そういったことにプラスして、収益の出るビジネスモデルをちゃんと考えていきたいと思います。


バリエーションが増えてくる民泊

ーー6月15日より施行される民泊新法について、どうお考えでしょうか。

まずヤミ民泊が一掃されます。その上で民泊のスタイルのバリエーションが増えると考えています。宿泊客にとって、より魅力的なところに泊まれる、という選択肢が増えるのは喜ばしいことです。また今後期待されるのは、地域の文化が感じられる体験コンテンツや、その土地の人々との交流。そこに踏み込んでいくことが一つの付加価値ではないかと考えています。

民泊をやりたい人にとって民泊新法の良さは、届出を出せば比較的難易度少なく活用できること。もしいきなりやることに躊躇があるのなら、イベント民泊という方法もあります。地域の市町村の合意は必要ですが、花火やお祭り、スポーツイベントなど、通常より人が多く集まる時は、街も宿泊場所が足りない。そういう時にお試しでやってみるのはいいと思います。

イベント民泊については、私たちも各官公庁や厚生労働省に働きかけて、ガイドライン作りのお手伝いをさせて頂きました。ここ近年での究極のイベント民泊といえば東京オリンピック。私たちもプラットフォーマーとして、できることをしていきたいと思います。

「観光業界で世界一になる」

ーー百戦錬磨さんは、観光業界で世界一になると宣言しています。目指しているものを教えてください。

冒頭でもお話ししましたが、自分たちが民泊・農泊を始めた当時はAirbnbもなかったし、日本国内では誰も民泊に注目していませんでした。最初から獣道を行くことでスタートしました。

そういう体質もあって、自分たちはトラベルエージェント的な機能は持っているけれど、ただ代行するのではなく、能動的に場所を作って行くクリエイティブなトラベルカンパニーでありたい、という思いがあります。

なぜそこへ行くのか、なぜ滞在するのか、本当にそこへ行く理由目的をちゃんと作ってあげれば、人は移動します。例えばそこにいる人との出会い、交流、関係人口を作ることも価値になる。普通の企業だったら時間もかかるし効率が悪過ぎてやらないようなことを、自分たちは積極的にやりたいと思っています。その結果、取り扱い金額、売り上げ、利益、時価総額で世界一になろうという目標。まだ全貌は出せないですが、ぜひ引き続きご注目ください。

 

■農村漁村の所得向上、地方活性化へ向けて

ーー最後に、会員募集が始まった一般社団法人「日本ファームステイ」について教えてください。

2018年2月7日に「ファームステイ協会」が設立。平井伸治鳥取県知事が会長理事に就任し、百戦錬磨と時事通信社などが設立発起人として関わらせて頂いています。農泊をもっと地域に作っていこうと応援する団体で、2020年までに全国に500の農泊地域創出を目指し、農山漁村の所得向上や地域活性化へ向けて活動していきます。すでに会員募集が始まっており、入会金無料ですので、農泊をやっている、またはこれからやろうとしている個人・団体の方はぜひ入会し、活用してください。地方に新しい経済を作り、地方を活性化しようと本気で思っている人とは、これからもぜひ繋がりを持っていきたいと思っています。

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https://jpcsa.org

プロフィール:上山康博氏
KLab株式会社・取締役事業本部長を経て、2007年9月に楽天トラベル株式会社・執行役員(新規事業担当)就任。2012年同社を退職後、2012年6月、株式会社百戦錬磨を設立、同社代表取締役社長に就任。首都大学東京非常勤講師、内閣官房「歴史的資源を活用した専門家会議」構成員、一般社団法人日本ファームステイ協会代表理事

(text:江澤香織)

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