インタビュー

【トップ対談】Ctrip Group 日本代表・蘇俊達氏✕やまとごころ村山慶輔 今や約7割がFITの訪日中国人の傾向と対策

2018.08.02

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いま、日本を訪れるインバウンド客は「7〜8割が個人客(FIT)」と言われる。それはビザ(査証)というハードルが下がった中国人にとっても例外ではなく、2017年の訪日中国人は69.1%がFITであった。

こうしたFITの多くは予約手配にOTA(ネット予約サイト)を使っている。特に、ネット社会へ急速に変貌を遂げた中国では、2016年の時点で91%がOTAを利用している(米・調査会社「フォーカスライト」)。これはつまり中国人FITの集客にはOTAの存在が欠かせないことを意味する。

そこで今回、約3億人の会員を持ち、中国最大のオンライン予約サイト(時価総額世界第2位)であるCtrip Group 日本代表取締役社長・蘇俊達氏と、やまとごころ代表取締役代表でありCtripの特別顧問も務める村山慶輔の対談をお届けする。

 

【蘇俊達氏プロフィール】
中国上海生まれ育ち。大学、大学院の計6年間、日本で留学生活を送る。
前職のNTTコミニュケーションズを経て、Ctripグループに入社。
上海本社でキャリアを積み、日本現地の立ち上げメンバーとして再度来日。2017年1月にCtrip International Travel Japanを設立、同代表取締役に就任後、同年10月より日本のグループ代表に就任。
現在Ctripグループ日本の拠点は6ヶ所があり、新たな海外ブランド「Trip.com」も急速拡大中。ホテルを始め、航空券、パッケージや団体商品、ショッピング、レストランの紹介など様々な事業を日本で展開。

 

中国でも人気の『深夜食堂』に集客のヒントがあった!?

村山慶輔(以下、村山):いきなりですが、『深夜食堂』が中国で人気だそうですね。2006年に始まった漫画で、ドラマや映画になるなど日本でも人気ですが、どこが中国の方々の琴線に触れているのでしょうか?

蘇俊達(以下、蘇):中国では昨年放送されたテレビドラマが話題となり、今でも高い人気があります。なぜ人気なのかというと、一つの独特な雰囲気と文化を持っているからです。中国には、カウンター越しに店長とコミュニケーションを取るお店はないですし、隣りに座った知らない人と対話することもありません。だから中国人は、『深夜食堂』にすごくオリジナルなものを感じるんです。

村山:蘇さんは日本に住んでいるので分かると思いますが、深夜食堂のようなお店は日本に珍しくありません。特に地方に行けば、ああいった温かい雰囲気のお店はたくさんあります。

:はい。そのとおりですね。でも、実際には、中国人はまだそういったお店に行くことができていません。今、中国で急激に増えているのはFITで、『深夜食堂』にあるような日本のローカルな体験を求めている。でも、どこにあるのかわからない。特に地方の情報は不足しているので、非常にもったいない状況にあると感じています。

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村山:地方では、人口減少などが起きていて、苦戦するお店がたくさんある。一方で、中国のFITはそういったお店に行きたいと思っている。そこをうまくマッチングさせられたら、ウィンウィンというか、双方が幸せになれるような気がします。そのマッチングのキープレーヤーとなるのが、蘇さんが日本法人の代表を務めているCtripであると私は踏んでいるのですが。

:ありがとうございます。我々は、自治体などと連携して、中国のFITと日本の地方とを結びつける架け橋になりたいと思っています。

 

Ctripが3億人以上の会員に対して行っていること

村山:実際、既にいくつか成功事例も出てきていると聞いていますので、後でまた紹介してください。まずはCtripのことについて、簡単に教えていただけますか?

:Ctripは、1999年に上海で設立したOTAで、現在中国ではトップになりました。我々はグローバル化も目指しており、海外16ヵ国にオフィスを構えており、中国国内のスタッフが約3万人に対して、海外スタッフは約600人です。その中で日本市場にも力を入れようと、2014年に日本法人も立ち上げ、今ここで座っている東京オフィスを含め北海道、名古屋、大阪、福岡、那覇の6ヶ所、スタッフが85名という体制で動いています。日本に来る中国人のFITについていえば、だいたい半分くらいはCtripを使っています。

村山:中国のFITはCtripを使ってどんなことを手配しているのでしょうか。

:ホテルや旅館などの宿泊はもちろん、航空券を予約するのにも使っていただいております。さらにレストラン、ワンデイツアー、体験型コンテンツの予約などもできます。また、予約手配ではありませんが、ショッピングなどに使える割引クーポンも発行しており、たとえばホテルの予約があったときには、近隣にある人気デパートの割引券や免税店のクーポンを送っています。

村山:それは確認メールみたいなものでしょうか?

:会員のみなさんに直接メールが届きます。そこにリンクがあって、接続すると割引券がQRコードで出てくるので、店で提示すれば使えるようになっています。実は、買い物も人気なのですが、今は美食も人気です。そこで、我々はレストランの紹介&予約の仲介も行っており、これも非常に好評です。

村山:つまり、地方で中国人FITを呼びたいと思ったときには、Ctripを使えばワンストップで、いろいろな業種にチャンスが生まれるということですね。私はインバウンドに特化した事業を始めて10年以上が経ちますが、ことあるごとに「インバウンドは点(個別の施設)ではなく面(エリア全体)での取り組みが大事だ」と言ってきました。Ctripと手を組めば、そうした立体的な取り組みができそうです。

実際、栃木県でも東京海上さんも含め、Ctrip、やまとごころで栃木県のキャンペーンを実施しました。

:栃木県でのキャンペーンは、やまとごころさんが繋いでくれたお陰で地元にネットワークのある東京海上さんと連携、栃木県でのエリアプロモーションや地域ブランディングに貢献することができました。村山さんには弊社の特別顧問になっていただいています。今後もやまとごころさんと連携して、自治体やDMOとの連携を深めていきたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いします。

村山:ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。その他の成功例も増えていると聞いています。特に地方での取り組みについて、具体的なお話を教えてください。

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「旅前」と「旅中」、それぞれのフェースで適切なPRが可能

:まず大前提として知っておいていただきたいことは、我々はコンテンツを求めているということ。先ほども申しましたように、日本にはオフィスを6ヶ所設けていますが、やはりそれだけでは全国に点在するすべてのコンテンツを網羅することはできません。

特に地方は、チェーン店なら情報がありますが、地元の方にしかわからないようなお店は情報がありません。今、成熟してきた中国のFITが求めているのは誰でも行けるようなチェーン店ではなく、地元の方が行くような個人のお店ですから、ぜひ情報提供をしてほしいのです。

村山:では、Ctripに情報提供をしたら、具体的にどんなことが起きるのでしょうか?

:先ほどもお伝えしたように、地域の情報を複合的に会員の方々に送ることができます。宿泊施設だけ、レストランだけではなく、さまざまなコンテンツを最適なタイミングで情報やクーポンを届けることができます。なぜならFITのみなさんは、ほぼ間違いなくスマホを持って旅をするからです。そのスマホでCtripのアプリを使ってくれているので、そうしたことが可能となるということです。

村山:確かに、日本人以上に中国の方々は「スマホがないと生きていけない」といえるほど、スマホが生活の一部になっていますよね。そこを活用できると、かなりインセンティブが働きそうです。旅中だけではなく、旅の前にもできることがあるのでしょうか?

:旅前でいえば、地域のプロモーションのために、PR動画を配信するという方法があります。たとえば今年は、九州の由布院のために、約1分50秒の動画を中国で有名な俳優と一緒に撮影して、中国の空港や地下鉄などで映像を流しました。すごく反響があり、実際に九州旅行の予約がグンと伸びました。

また、1回の配信で20万人以上は見てもらえるライブ動画配信もあります。このライブ動画配信は、単純に生配信するだけではなくて、ウィーチャットなどで質問を受け付けて、それに随時答えていくんです。その中で、「実は期間限定で割引券もあります」と挟み込んだり。ただこうした旅前のPRは、中国本社にある専門の攻略チームが実際に稼働することになるので、ある程度のコストはかかります。

村山:予算としていくらくらいあればいけますか?(笑)

:もちろん一概には言えないですけど、たとえば100万円あればライブ動画配信とウィーチャット、小さなバナー広告はできます。これが500万円になれば、一番大きなバナー広告ができますし、旅中の会員に対して直接的に割引クーポンを送るということもできます。ただ100万円がないといけないというわけではありません。まずはお声掛けいただいて、情報を提供していただければ、その中で一緒にどんなことが可能か相談することができます。

たとえば我々は昨年から大阪観光局と連携させてもらっていますが、そこでは年に4回、それぞれテーマを設けてイベントを行うという取り組みを行っています。第1回目はグルメタウンである大阪にふさわしく「大食い」で、大変好評でしたよ。

 

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▲Ctrip東京オフィス

 

訪日中国人FITの属性と傾向

村山:まだまだお聞きしたいことがあるのですが、あと2つ教えてください。1つは、今増えているというFITにおけるトレンドです。彼らはどういった方々で、どういうことを求めているのか。その話とつながると思うのですが、もう1つは残念ながら日本の一部で見られる中国人に対する偏見について。

:私たちCtripの利用者は、つまりFITが多くを占めますが、男性が55%、女性が45%です。そのうち80年代生まれが50%強、90年代生まれが20%弱です。つまり7割以上が20代と30代だということです。旅行形態の内訳は、時季によっても異なるのですが、たとえば7〜8月の海外旅行がピークをむかえる時期は、家族旅行が40%、カップルが34%で、あとは友人同士や1人旅になります。

今年の夏に、中国人に人気の都市トップ10を発表したのですが、日本は4都市がランクインして、東京、大阪、京都、札幌が入りました。こうしたメジャーな都市はやはり数が大きいので上位に入りますが、地方も人気が高まっていて、たとえば青森や九州・福岡、飛騨高山のある岐阜県なども伸びてきています。

村山:旅行期間はどのくらいですか? どんなテーマが人気ですか?

:だいたい1週間前後が多いですね。先ほども言ったように20代、30代が多いので、普段は仕事をバリバリしていることもあって、癒やしを求めているように感じます。だから、「ゆっくり過ごせる地方に行きたい」という声が増えているとも言えると思います。あとは子どもがいる家族旅行であれば、テーマパークやリゾートなども人気があります。

それから、個人的に注目しているのは週末旅行です。たとえば上海から福岡は、飛行機で1時間15分くらいでつく。上海から関空(大阪)だと1時間50分くらい。つまり目的地に近い空港まで直行便が飛んでいれば、国内旅行の感覚で週末に来るようになるということで、実際にそういった方はリピーターを中心に増えています。

 

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▲福岡を浴衣姿で楽しむ中国よりの観光客


村山
:週末旅行だと、たとえば2泊3日とか、3泊4日とかですね。そうなると、足回りというか、空港から観光地へのアクセシビリティ(交通インフラの整備)も大事になってきますね。週末旅行で2時間もバス待ちを強いられたら、余計に疲れてしまいますので。最後に、ちょっと聞きづらいのですが、偏見についてはどうお考えでしょうか?

:ひとつは、先ほども申し上げたとおり、今日本に来ている中国のFITは、20代や30代が多いので、他国の文化を受け入れる柔軟な考えを持っているということを知ってほしいです。彼らの多くは、ある程度学歴が高く、日本以外の国にも何度も足を運んでいます。こうしたFITのほとんどが問題ないと思います。その国のマナーに反するようなことはしないですし、したくないと思っていますから。もしマナー違反をしている人がいたら、それは知らないだけの可能性が高いので、注意すればすぐに直すでしょう。

ただ、確かにそれでも文化が違えば、多少の衝突は起き得るので、我々はカスタマーセンターやコールセンターといったサービス(朝9時〜夜10時)も設けています。言葉の問題でも文化の問題でもなんでも大丈夫ですので、もし問題が起きたら、そこに電話していただければ対応ができます。チャットであれば24時間対応可能です。

村山:爆買いがピークをむかえていた2014年〜2015年頃によく報道されていた、大型バスで大挙してやってくる中国人の方々とは、だいぶイメージが異なるわけですね。本日はどうもありがとうございました!

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