インタビュー
中国駐東京観光代表処・首席代表の王偉氏インタビュー。Part1では、最近の中国でのキーワードである「癒し」について、旅行のトレンドと合わせてお話を伺った。Part2では、日本を訪れている中国人観光客の具体像や、流行、情報収集方法などを伺っていく。
女性が活発化し、マーケットを牽引
——昨年、中国からの訪日客の4割がリピーターでした。リピーターとして日本に来るのはどのような人達なのでしょう。
若い層を中心に、リピーターとして日本を訪れる人は多くいます。中でも上海や浙江省や江蘇省(共に上海市と接する)などに住む人が、週末などを利用して2〜3日、日本に来るケースが多くあります。
最近の中国では女性が活発で、食べ歩きや旅行をする人が増えています。女性は男性よりもお金を使います。まるで自分のお金でないみたいに(笑)。女性は良い旦那を見つければどうにかなると考えていて、将来のことよりも今を楽しむことが大切。一方で、男性は貯金をして、家に籠もってゲームなどをしている物静かな人が増えています。
そんな女性達は、2、3人の友達同士でもどんどん海外にも行きます。そして、旅先では自分の化粧品などを買います。
——ショッピングのことも聞かせてください。2015年には「爆買」が流行語大賞に選ばれるほど、中国の方が買い物をしてくれました。しかし、その後爆買は落ち着きました。かつてのような買い物ブームはもう起きないのでしょうか。
ブームではもう無いですね。買うことは買いますが、薬とか化粧品とか、自分が使うものを買う程度です。つい先日も上海の買い物代行業者130名が税金を支払わなかったため捕まりましたので、これからはより厳しくなると思います。家電などは買おうと思えばネットで買えるし、中国製も良い物があるので、日本で買い求めることは少なくなってきています。免税店も決して安くはないので流行らない。以前とは変わってきています。
——それでは、最近の中国の方は、どのようなショッピングを好まれるのでしょうか。
伊東屋とか、無印良品、鳩居堂などのように、日本人が好きな店を好みます。
最近の中国で流行っているのは「簡約風」、あるいは「性冷淡風」と書かれる、北欧デザインのようなシンプルなものです。情報が詰まった今の時代なので、シンプルなデザインで癒されることを求めているのです。
中国で空前のブームとなっている「跑」
——リピーターが増えることで、FIT(個人旅行)の割合も増えてきています。
そうですね。中国国内の場合は9割が団体旅行ではなくFIT。台湾や香港への旅行でも8~9割以上、日本への旅行の場合も2017年は6~7割、2018年は個人旅行の割合が8割ぐらいになると見ています。
初めての日本では、団体旅行でゴールデンルートを回った人も、2回目以降になると、東京や京都だけではない場所へ行きたいと考えるようになります。特にその時期ならではのイベントや、お祭りへの参加。季節ごとの風景が見られる山登りも人気があります。
最近、中国ではスポーツが流行っています。2022年冬季オリンピックが北京で開催されることに決まったので、スキー人気も高まっています。一時期流行っていたゴルフは、接待と関係するということで、公務員は禁じられてしまったことでゴルフをできる人は限られるようになってしまいました。
運動不足を解消するためにマラソンも大ブームとなっています。中国語で走るは「跑」と言いますが、グループで街の中を走るクラブ「城跑」も盛んに形成され、多くの人が参加しています。彼らは街の中を走るだけでは飽き足らず、田舎を走る「村跑」に出掛けてもいます。

▲鳥取県で中国人ランナーが集い実施された村跑。写真は2017年開催時のもの。提供:一般社団法人鳥取中部観光推進機構
「村跑」では、地方のマラソン大会等に参加するわけではなく、空気が良くきれいな景色の田舎をグループで訪れ走ることが目的。どこで開催するかは自分たちで調べて決めます。——どんな景色の所か、周辺に何があるか。交通手段、美味しい食事、良い買い物もできそうか等を調査してネットで発信。そうして集まったクラブが「村跑」です。
そんな「村跑」の海外版を、今年7月鳥取で開催しました。昨年に引き続き今回で2回目の開催となります。
——日本で開催された「村跑」も、個人のグループで主催したのでしょうか。
鳥取でのイベントは、中国の雑誌社が中心になって実施しました。福建省の海峡観光雑誌がクラブを作り、ネットに発信することで40名程の参加者が集まりました。子供連れのファミリーも3、4組居ました。小さな子供が乗った乳母車を押しながら走るんです。今年は私も参加したものの残念ながら大雨で屋内イベントになりましたが、面白かった。参加者の皆さんも満足されていました。日本への出入国は東京の空港を利用したので、マラソンを楽しむだけでなく、東京で買い物もできます。
鳥取県では、同じような仕組みでゴルフのイベントも開催し、こちらにも40名程が参加しています。
——村跑のイベント開催地として、鳥取を選ばれた理由は。
鳥取県へ行く中国からの訪日客は多くありません。とはいえ、中国人にとって鳥取は、人気漫画『コナン』所縁の場所ということで関心はありました。そこへ鳥取県より、自然豊かで湖もありスポーツイベントに相応しい場所としての提案があり、中国政府のサポートもあり開催となりました。
このようなニーズは今後もあるので、同じようなイベントができる場所を日本中で20〜30カ所探しておこうと考えています。
ーーということは、中国市場を呼び込みたいと思っている地域にとっては、いい機会ということでもありますね。
→Part3:「中国市場へ情報発信には、ナビが必要」に続く
→Part1:「中国人が日本を訪れる理由は“癒し”」に戻る
編集部おすすめ関連記事:
→【訪日外国人の傾向を知る】中国編:急速に変化する訪日中国人市場、個人・リピーターが急増
→中国の11月11日は「独身の日」。1日で5兆円を売り上げる一大ECセールイベントとは?
→キャッシュレス先進国・中国における最新のアプリ・決済事情 日本のインバウンド対応に応用させるコツは?
最新のインタビュー
【海外での学び直し】キャリア形成への挑戦、ホテル業界から2度の米国留学で目指すものとは? (2023.09.29)
広島にプラス1泊を、朝7時半からのローカルツアーが訪日客を惹きつける理由 (2023.08.04)
異業種から観光業へ、コロナ禍の危機的状況で活かせたMBAでの普遍的なスキルとは? (2023.06.09)
台湾発のグローバルSaaS企業「Kdan Mobile」の電子署名サービスは、いかに観光業界のDXに貢献するのか? (2023.05.17)
【提言】アドベンチャートラベルは「体験」してから売る、誘客に必要な3つの戦略 (2023.04.21)
世界一予約困難なレストランでも提供。北海道余市町を有名にした町長の「ワイン」集中戦略 (2023.04.14)
「不便さ」を武器に。わずか7軒の限界集落に建てた宿「ume, yamazoe」が提案する価値とは (2023.03.24)
観光MBA取得を転機に、民間企業からDMOへ。学び直しを成功させる出口戦略の必要性 (2023.03.03)
観光客の誘致・流通・決済の一元化、NTT西日本が目指す地域の観光DXとは? (2023.02.27)
世界一のホテル支配人が首長に。国際的スノーリゾート「白馬」が描く、地域観光の未来 (2023.01.12)
起業して突き当たった壁、学び直しの場で乗り越える【なぜ観光MBAでのリカレント教育を選択したのか?】 (2022.11.22)
高千穂神楽継承に向け保存会立ち上げと観光活用に取り組むインバウンドスタートアップの挑戦 (2022.09.30)