インタビュー

JNTOラグビーW杯担当者に聞く、スポーツイベントをインバウンドに活かすか。まだ間に合う訪日客おもてなし対策

2019.09.13

堀内 祐香

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9月20日に開幕するラグビーワールドカップ日本大会。試合開催地を中心に盛り上がりを見せています。ラグビーワールドカップ2019組織委員会によると、観戦チケット182万枚のうち9割を占める164万枚が販売済みとのこと。またチケットの売行を受けて大会予算規模を1割増加させるなど、大会への期待も高まっています。

そんなラグビーワールドカップをどのようにインバウンドビジネスに繋げられるのか、今からでも間に合うインバウンド対策について、日本政府観光局(JNTO)ラグビーW杯担当の清水さん、及川さんにお話をお伺いしました。

 

ラグビ―大会は、欧米豪圏への訪日の認知と興味喚起のチャンス

—ラグビーワールドカップ開催まで1週間となりました。ラグビーワールドカップの日本開催というビッグイベントを、どのように訪日客誘致に繋げていくのか、JNTOの戦略や取り組みを教えてください。

JNTOでは、今回のラグビーワールドカップ日本大会そのものが訪日誘客機会であるということ以上に、大会後の訪日拡大を狙える、認知と興味喚起の千載一遇のチャンスと考えています。

現在の訪日客の8割以上は東アジア、東南アジアからのお客様ですが、今回はラグビー強豪国と言われる英国やオーストラリア、ニュージーランドなど欧米豪圏の方たちに日本の魅力を伝える絶好のチャンスです。特に、これまで訪日経験がなく、日本を旅行先として検討してこなかった、いわゆる訪日無関心層に対して、ラグビーへの関心を入口に、開催国である日本の全国各地の魅力をアピールできるのです。短期的な訪日客数の増加を狙うというよりも、中長期的な視点をもった取り組みの1つとして捉えています。

 

JNTOがラグビーファン向けに行う3つの取組み

—インターネットの発達により、スマホがあればクリック1つで欲しいものが気軽に購入でき、家まで届く時代になりましたが、旅行に関しては、すぐに行動に移すとは限らない。そういう意味でも、中長期的な視点をもって取り組むことは大切ですね。
ところで、ラグビー開催に伴う日本の認知度アップ施策としては、具体的にどのようなことに取組まれているのですか。

今回ターゲットとするラグビーファンや観戦者の多くは、訪日経験がなく、日本のことを良く知らないという調査結果に基づき、主に3つの取り組みを行います。

1つは、日本にゆかりのあるラグビー選手やコーチが登場する動画を制作し、大会開催中にテレビやスポーツメディアに広告配信します。レジェンドプレイヤーを活用することで、まずはラグビーファンの注目を集め、そこから日本の魅力や素晴らしさを伝え「観光地としての日本」を認識してもらおうという取組です。

2つ目に、ラグビー開催中に試合が開催される地域と連携し、外国人が日本でラグビー観戦を楽しむ様子を、SNSを通じて発信します。ラグビー観戦を楽しむ訪日客にインフルエンサーとなってもらい、楽しむ様子を拡散していくこと、試合の盛り上がりや人々の熱気をリアルタイムで配信すること、#TRYJAPANというハッシュタグや、ステッカーを会場で配布するなどして、キャンペーンを盛り上げることで、「面白そう」「行ってみたい」という訪日意欲を高めていきます。

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3つ目に、こうして日本に興味をもった方がさらに詳細な情報を知りたいと思ったときに、JNTOが運営するラグビーW杯特設サイトに誘引し、情報収集に役立ててもらおうというものです。

Webサイトには、各開催都市の観光情報はもちろん、来日するラグビーファンの旅程や日本の楽しみ方を想定した、観光とアクティビティとナイトライフを交えたプランなどを掲載しています。

 

ラグビー取材のために来日するメディアとの関係構築の際に気をつけること

—ラグビーをフックに日本への興味関心を高めてもらおうという取組ですね。これ以外に、地方自治体との取り組みもあるのでしょうか。

地方自治体の方へは、ラグビー日本大会の取材のために来日するメディアと自治体のネットワーク構築の支援に取組んでいます。

ラグビー目的で訪日するメディアに対し通訳機能を備えた取材などを含む相談窓口を設け、問合せに応じて地方自治体への取材へ誘導したりします。また、開催都市の地方自治体とメディアのネットワークが構築できる場としてJNTO主催でメディア歓迎イベントを実施するほか、メディア向けのファムトリップも行います。

—今回お越しになるのは主にスポーツメディアですよね。どういった事に気をつければいのでしょうか。

今回日本に来るメディアの多くは、旅行・ライフスタイル系のメディアではなくスポーツ系のメディア、スポーツ担当の記者の方がいらっしゃいます。この点が、今までのファムトリップとは違う点で、非常に難しいところでもあります。

1つ私たちも含めて覚えておきたいのは、今回来日するメディアの担当者の方は、日本の観光地取材がメインの業務ではなく、ラグビー選手のキャンプ地での様子や試合の様子、試合結果などを伝えるために日本へ出張しているという状況にあるという点です。海外出張って結構体力も入りますし、慣れない場所での仕事で疲れもたまりますよね。食べ物や文化も違う、地域によっては時差もあります。そのため、記者の方も、仕事以外の時間はリラックスしたい、自分の時間を過ごしたい、そう考える人も多いのではないかと思います。

しかし、我々の観光戦略において、来日している海外メディアの発信力を活かさない手はないと思います。ですから、来日スポーツ記者の方の事情を考慮したプログラムの作成が重要です。例えば、JNTOが主催するファムトリップのプログラムは半日程度と短めにし、行先も詰め込まないようにしています。

 

スポーツメディアや記者の方にも日本を楽しんでもらう

—今回お越しになる方は、仕事で来日していることを頭に入れて、メディアの方が参加しやすい工程やプログラムにすることも大切なのですね。それ以外で、気をつけたほうが良いことはありますか。

一番大切だと思うことは、ファムトリップ参加者の方にとにかく楽しんでもらうことだと考え、記事化や放映を強要しすぎないことではないでしょうか。

ファムトリップも時間とお金をかけて準備をするため、少しでも多くの場所にメディアの方をご案内し、魅力を発信して頂きたいのは本音です。

スポーツ記者の目線になり、発信方法を工夫し、たとえ記事掲載にならなくても、参加者の方が美しいものを見たり楽しい体験をして感動すれば、次は家族や友人と一緒にプライベートで日本に旅行するかもしれません。参加者の方が個人のSNSで発信することで、口コミが広がり、訪日を検討する人も出てくることも期待できます。

今回参加したスポーツ担当の記者の方が、観光や旅行担当の記者の方に日本旅行をおすすめすることで、次の取材対象の候補になるかもしれません。

すぐに目に見える結果が出なくとも、種まきをする感覚で、日本の魅力を感じてもらい、楽しんでもらおうと目の前にいる人に真摯に向き合うことで、その芽が出てくるように大切に育てていただきたいです。

 

業種別 今からでも間に合うインバウンド対策

—ラグビー開幕まであと1週間となりましたが、今からでも間に合うインバウンド対策があれば教えてください。
まず、地方自治体の方向けへのメッセージをお願いします!

地方自治体の方にお伝えしたいことは、メディアの動きをしっかりと把握して追いかけましょう! ということです。

JNTOで入手したメディアの動きは、できる範囲で試合開催自治体の方に提供しますが、その情報などを基に現地に足を運び、メディアの方と情報交換するなど関係構築に取り組んでほしいと思っています。特に、各国代表チームのキャンプ地にはメディアが貼りつくと思われます。関連部門の方との連携も重要になります。

また、ラグビーW杯に関わる担当者全員が、観光に関する基本的なことは一通り話せるように情報交換するのもよいと思います。記者の方から地域の観光について何か質問や問い合わせがあった際におすすめを1つでも答えられれば、地域のPRになります(例えば、おいしい食べ物、飲み物、またラグビーに関わる地域の有名人など)。

—観光は、どんな人にとっても身近なこと。基本的なことは誰でも答えられるようにしておくというのは大切ですね。それでは、宿泊業や交通業、民間の観光事業者の方が、直前でもやっておくべき対策はありますか。

私たちにとって当たり前でも、外国人には知られていない日本のマナーなどを解説したり、使い方のハウツーを説明するツールを用意しておくことでしょうか。

旅館に宿泊する場合、履物を脱ぐ場所や、チェックインのタイミングでは布団が敷かれていなく、食事のあいだに旅館が布団を敷くとか、私たち日本人にとっては当たり前のことですが、日本のマナーを知らない方も多くいらっしゃいます。簡単なもので構わないので、習慣や使い方を知らせることは大事だと思います。

—ラグビーファンの方はお酒好きとも言われますが、そんな方たちをお迎えする飲食店が準備しておいた方が良いことはありますか。

絶対にビールを切らさないでください!ということです(笑)冷えていないビールでも飲む方はいらっしゃいますし、ビールの種類を質問されることもあるでしょう。せっかくの日本滞在に日本酒を楽しみたいという方も多いと思いますので、酒類・作り方を簡単に英語で説明できるとよいですね。また、料理に使われるお肉の部位も聞かれるケースがあるので、用意しておいた方が安心です。食習慣の違いから、外国の方は気にされる方もいます。

また、これは飲食店の方に限らず、私たちを含む全員に言えることですが、地元の人たちとの交流を楽しみにしているラグビーファンが多いので、みんなと友達になる感覚で、来てくださった方たちと楽しい時間を過ごせるようにしたいですね。

 

あらためて日本の魅力が何なのかを知るチャンス! 

—最初に、ラグビーワールドカップ日本大会はゴールではなく、大きなきっかけとして捉えるものとのことでしたが、ゴールデンスポーツイヤーズ1年目でもあるこのイベント、インバウンドに携わる方がここで何を学び、次に活かせたらべストでしょうか。

これまで訪日していた外国人は、日本に興味がある、日本が好きという方が多数を占めていましたが、今回のイベントを機に、日本への興味関心が薄く、日本のことをあまり知らない方々が多く来ることが予想されます。

これまでとは違ったタイプの人たちが、日本でどんな楽しみを見出すのか、どんなことに魅力を感じるのか知る絶好のチャンスだと思います。また、日本人が良いと思っていても、外国人にとっては魅力でないケースもあります。ポジティブな要素だけでなくネガティブな要素も知ることができます。

私たち日本人にとっても新しい気付きや発見があると思うので、そのチャンスをしっかりものにしたいですね。

 —ありがとうございました!

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▲JNTOラグビーW杯担当の及川さん(左)、清水さん(右)

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JNTOラグビーW杯特設サイト:https://visitjapan2019.com/

 

ラグビーワールドカップ2019 x インバウンド特集ページ公開中bnr_rwc_02-02

(取材 執筆:堀内祐香)

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