インタビュー
全世界にマーケットを展開する
今、最も勢いのあるホテル予約サイト
オンラインのホテル予約サイト、エクスペディア(Expedia)はアメリカのマイクロソフトがオンライン旅行部門として立ち上げた会社です。現在は30ヵ国以上に販売拠点を持つ世界最大のオンライン旅行会社で、パッケージ旅行を取り扱うほか、ホテルなど宿泊専門予約サイト「Hotels.com」では80を超えるサイトを全世界で展開しています。利用者は北米、欧州、アジアなど全世界に広がり、さらにバックパッカーから高所得者まで幅広い層を獲得しています。2005年に日本法人を設立して以来、ここ数年で日本市場の売り上げが急成長している注目企業。今回は、日本の施設の仕入れを担当している岡田健太郎氏に日本市場に対する戦略やインバウンド市場に対する展望などを伺いました。
目次:
会社の設立の経緯
エクスペディアが強調したい日本の施設に対して外のメリット
日本での営業活動とインバウンド市場の変化状況
今後の展望
会社の設立の経緯を教えていただけますか?
当社はアメリカのマイクロソフトの旅行部門のひとつとして1995年に立ち上げられました。オンラインの旅行業を設立するという発想で、設立当時はマイクロソフトの社員数名のチームで発足しました。
その後、米国IAC(インターネット・アクセス・コーポレーション)の傘下に入り独立、日本法人が設立されたのは2005年です。
日本法人が設立される10年ほど前は、オーストラリア法人のセールスマネージャーが日本のホテルの仕入れを行っていました。
日本法人ができてからは、当初はひとりでホテルや旅館の仕入れを含めた営業活動を開始しました。エクスペディアの日本における認知度もあまり高くなく、外資系チェーンのホテルを中心に、東京や大阪、福岡など都市部のホテルの仕入れが中心でした。しかし、ここ数年インバウンド市場への注目が非常に高まってきたことで、エクスペディア自体の認知も広まり、参画施設の増加に伴いスタッフも増えている状態です。1年前は10人弱だった仕入れチームも現在は19人になり、他チームを含む日本オフィス全体としてもこの2年で約50人へと倍増しています。
日本の施設が外国人を幅広く取り込むことに対してエクスペディアが強調したいメリットはなんでしょうか?
まず当社の一番大きな特徴は、当社のサイトを通して予約を入れる海外のお客様のリードタイムが30〜40日、平均宿泊日数が3泊以上と長いことです。実際に旅行の8〜30日前に予約を確定するお客様は全体の34%、31〜60日前については24%にのぼります。
さらに航空券とのパッケージを利用するお客様は平均宿泊日数が4.5泊、リードタイムも60日と長くなります。
しかも外国人のお客様は週末祝日に関係なく平日も利用する。実際に当社を利用するお客様は週末と平日で3%ほどしか変わらず、宿泊施設としては1週間を通して安定的な予約の取り込みが可能となります。
こうしたリードタイムの長さ、平均宿泊日数の長さ、平日利用は、ホテルや旅館などの宿泊施設にとって、売り上げの安定はもとより、人件費などにかかるコスト計算やルームコントロールといった宿泊運営計画が早期に立てやすいという大きなメリットにもなります。
また当社の利用者はアメリカ大陸で25%、欧州15%、アジア・太平洋地域が41%と全世界に広がっています。一極集中は避け、全世界で満遍なくマーケティングを行うことで、ある地域に政情不安や伝染病などが起こったときのリスクを減らすことができます。これは米国本国の方針でもありますが、世界各国のお客様を安定して供給できるというメリットに繋がると考えます。
一極集中を避けることが重要と考える一方で、ここ数年でアジアの実績比率が急拡大しているという事実もございます。
全体的なトレンドであるとは思いますが、アジアの旅行者のFIT化、オフラインからオンラインへのシフトに伴う変化が背景にあります。
特に香港や台湾の予約の伸びが顕著です。台湾については日本の記事を書くことに特化した現地のブロガー数名とアフィリエイト提携をしており、彼らのブログを通じた予約も比較的多くの割合を占めるようになってきました。
従来ランドオペレーター経由の予約が多かった国であるだけに予約チャネルが変わってきていることを強く実感しています。
日本で営業活動を行い始めたときの苦労や日本のインバウンド市場の注目度の変遷をお聞かせ下さい。
先にも述べましたが、日本法人設立当初はまだ日本国内でのエクスペディアの知名度も低く、仕入れホテルは都市部(東京)に留まっていましたが、現在は京都をはじめ各地域の旅館などにも認知度が高まり、仕入れ数が急激に増えています。実際に契約宿泊施設数は5年前に比べて7倍ほどに増加しております。
外国人客の日本市場に対する注目度も、当社における日本国内の宿泊数は昨年が対前年比86%増、本年も4月末時点で対前年比約70%増を記録し、非常に好調を維持しております。特に近年LCCの就航数も着実に増えてきているので、今後パッケージを利用した予約が伸びを牽引していくと考えています。
また先ほど申し上げたように、リードタイムの長さが当社の強みでもありますので、例えば3週間前までの予約なら20%オフといった早期割引を宿泊施設とともに設定し、宿泊施設にとって質の高いお客様を獲得できるような工夫もしています。
各地域、各市場に柔軟に対応できるよう、経営戦略はほとんど現地に任されており、日本は日本独自で提供しているサービスや商品もたくさんあります。もっと内部的な話をすると、人事採用も各担当部署に任されています。現場主義といいますか、現場の人間がチームにとって必要な人材を採用できるようになっています。
今後の展望を教えてください。
新たな販売チャネルのひとつとして、宿泊施設に一層活用していただけるように努力をしていきたいですね。
当社のサイトを閲覧してから、各宿泊施設の自社サイトに行き、自社サイトで直接予約をするという利用者もいます。
弊社が米国コーネル大学とIntercontinental Hotel Groupと合同でおこなった研究では、宿泊施設の自社サイトで予約をした人の60%が、先ずエクスペディアなどで口コミ情報などの下調べをした、という結果が出ています。
これは宿泊施設に販売チャネル、自社サイトに誘導するPRツールとして大いに活用していただきたいポイントです。
もちろん、当社としてもワンストップですべて完結するなど利用のしやすさ、パートナーサイトとのネットワークの構築、コンテンツの充実や10泊で1泊無料といったロイヤリティプログラムを充実させるなどの努力をしていきます。
またJNTOの協力のもと、サイト上に日本を紹介するバナーを掲載するなど、タイアップセールスも展開していますが、こういった機会も今後さらに増やしていく予定です。とにかくオンラインの世界は日進月歩なので、努力を怠ればすぐに取り残されてしまいますから。
依然外国人客は受け入れ難いという宿泊施設もありますが、当社は「24 時間カスタマーセンター」でサポートする態勢を取っていますので、宿泊施設の皆さまには安心して利用していただきたいですね。
単に仕入れと営業をするだけではなく、常に宿泊施設など関係者のニーズを汲み取り、最適な方法で市場と宿泊施設をつなぐコンサルタントでありたいと思っています。
<取材後期>
外資系の会社らしく、無駄を省いた現場主義の経営を行っているという印象を強く受けました。現スタッフ19人のうち、旅行業界経験者は3人というお話でしたが、業界の常識に捕らわれない、利用者目線もキープした柔軟な運営を行っているとも感じました。為替レートに応じて価格をすぐに設定できるシステムやネットワークの広さは、マイクロソフトという母体があるからこそでしょう。このネットワークの広さは、販売チャネルのひとつとしても大いに活用でき、また宿泊施設のマネジメントや商習慣なども、今後大きく合理的な方向へと変わっていきそうです。
取材:西尾
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