インタビュー
医療の国際化を目指して、常に前進し続ける専門病院
近年大きな注目を集めているメディカルツーリズムですが、日本では医師不足や言葉の問題から、本格的な導入には壁が立ちはだかっています。今回の注目企業インタビューでは、甲状腺専門病院として全国屈指の患者数と実績を誇り、医療の国際化のために先進的な取り組みをしている伊藤病院の伊藤公一院長に、医療観光の現状と今後についてお話を伺いました。
目次:
甲状腺専門病院として
メディカルツーリズムの取り組み
外国人患者受入れ体制
今後の展望
貴院は全国でも珍しい甲状腺専門病院ですが、病院のご紹介をお願いします。
当院は昭和12年に私の祖父が創業した個人病院です。祖父は甲状腺外科医として大分の病院に勤めた後に上京し、ここ表参道で開業いたしました。昨年に創立75周年を迎えましたが、祖父、父、私と全くぶれることなく、一貫して甲状腺疾患に専門特化していることが、私どもの最大のプライドです。
甲状腺の代表的な病気には、ホルモン量が過剰になるバセドウ病、ホルモン量が低下する橋本病、そして腫瘍があります。そこで、いずれの甲状腺の病気も、自分では気づきにくいので、患者様の約半数は、かかりつけ医や人間ドックからのご紹介で来院されます。初診の方を年間2万2千人以上、延数としては30万人以上の方を拝見しておりますが、ほとんどの場合が外来診療で完結できます。
診療のIT化を積極的に進めており、全国から集まる患者様に対して、ホルモン異常があるか、腫瘍があった場合はそれが悪性か良性か、治療の必要があるかということを短時間で判断し、来院されたその日のうちに治療を開始します。診断の精度は極めて高く、1~3mmの小さな甲状腺がんでも正確に診断ができます。また、国内トップレベルのアイソトープ検査・治療設備とスタッフを揃えております。
メディカルツーリズムに関しても積極的に取り組んでいらっしゃると聞きしました。
私は2009年から観光庁の「インバウンド医療観光に関する研究会」医療側委員を務めておりますが、実は、ご依頼を頂くまで医療観光という言葉を知りませんでした。そこで勉強し、医療観光の本質を知るにつれ、まさに私どもの強みを活かせるところだと感じ、本格的に取り組み始めました。
まずは、観光庁の実証事業として、中国人の患者様を拝見しました。引き続き、省庁国際プロジェクトの一環として北京、上海、台北、ロサンゼルスに出向き、甲状腺疾患の啓蒙活動と我々の病院の特徴、日本の甲状腺医療の現状を講演してまいりました。また、モスクワの旅行博にも出展し、講演を行いました。東欧諸国での反響は大きく、その後、患者様とともに、複数の視察団が当院を訪れました。
その間、メディカルツーリズムの先進国を見学するために、タイ、インド、シンガポールの高機能病院や省庁を巡りました。さらに医療観光を学問的にも捉えなくてはいけないと実感し、国際観光医療学会に理事として参画し、2014年の秋には学会長として学会を催すこととなりました。
昔も今も伊藤病院は組織風土として、皆で新しいものに挑戦するということに意欲的です。現在まで、私どもは海外の医学誌に英語の論文投稿をしたり、国際学会で発表をしたりと「医学の国際化」を図ってまいりました。今後は「医療の国際化」も進めていきたいものと思っております。
外国人患者受け入れに際して工夫されていることはありますか。
我々の病院には、以前より、在日外国人や海外からの患者様が少なからずいらしていたので、ホームページや疾患別リーフレットを英訳しておりました。国際的な基準としてISO9001も認証取得していますし、米国やカナダへの留学経験を持つ医師や看護師が多いことも強みでした。そして近年は、急増する中国や韓国の方に対応するために、ホームページとリーフレットを中国語と韓国語にも訳しました。また、モスクワの旅行博出展をきっかけに、ロシア語の通訳サービスを導入し、ロシア語版のホームページも作りました。
甲状腺疾患は慢性疾患も多く、病院に続けて通うことが必要な場合が多々あります。よってメディカルツーリズム実施となれば、患者様の母国での主治医に対して円滑に診療情報を提供していくことが求められます。そこで当院では、外国の先生方と、正確に連携するための英語版診療情報提供システムを独自に完備いたしました。これで帰国後も、より安心して治療を継続していただくことができるようになりました。
さらに、中国語と韓国語の医療通訳として、中国吉林省出身の鄭君(日本語検定1級保持)を採用しました。患者様にとって非常に頼りになる存在であり、日本語に不安をお持ちの患者様の通訳を提供するほか、電話相談に応じたり、患者様が帰国する際には主治医と連絡を取ったりと大活躍しております。
医療の国際化に関して、今後の展望をお聞かせください。
アジアではメディカルツーリズムが急成長しており、タイ、インド、シンガポールに加えて、近年では韓国もかなり積極的に取り組んでいます。それらの国に比し、我が国の医療は優れているものと信じておりますが、国際化という部分では完全に取り残されています。医師不足や看護師不足が問題となってはおりますが、海外から患者様が渡航して来られることは、日本の医療関係者としては大変光栄なことですし、是非とも活発になってほしいと思っております。
同時に、日本在住の外国人の方々に対する診療も充実させなければなりません。東日本大震災後に問題視された「放射能と甲状腺の関係」について、私どもは日本語、英語、中国語、韓国語で情報を発信し、在日外国人の方に喜ばれたという嬉しい経験があります。そのような日常の取り組みが、医療のグローバル化に繋がっていくものと確信しております。
伊藤病院(http://www.ito-hospital.jp/)
取材:Kanako Morishita
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