インタビュー

カオサン東京(有限会社万両) 代表取締役 小澤弘視氏

2012.09.27

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ライバルはバンコクやクアラルンプール世界水準のバックパッカー宿を目指し

LCCの就航に伴い、海外からの旅行客が泊まれる安くて質の良い宿が求められています。有限会社万両では、2003年からバックパッカー宿カオサン東京を展開し、国内外の宿泊客から高い人気を得ています。今回の注目企業インタビューでは、代表取締役ーの小澤弘視氏に、『カオサン東京』の先進的な取り組みについてお聞きしました。

目次:
バックパッカー宿『カオサン東京』
オンライン予約サイトを使った集客
日本のホステル業界の現状
今後の展望

『カオサン東京』オープンまでの経緯を教えてください?

2002年の日韓ワールドカップの際に、上野出身の創業者が、山谷に外国人旅行客が集まっているという記事を読んだのがきっかけです。その時に、せっかく海外からお客さんが来ているなら、是非浅草に泊まって欲しいと思ったんですね。その後、2003年に、第1号店を雷門2丁目に出店しました。ニーズは高かったみたいで、1号店を開けた半年後には満室になりました。その後は毎年1、2店舗出店しています。今は東京に6、京都に1、福岡に1、別府に1と、全部で9店舗あります。東京・京都では、外国人のお客さんが9割ぐらいです。稼働率は年間で90%を切りません。

具体的にどのようなプロモーション活動をされているのですか?

オンライン予約サイトを積極的に活用しています。バックパッカーは10年程前から、現地に行って飛び込みで泊まるスタイルから、旅に出る前にオンラインで予約を入れるスタイルに切り替わりました。カオサン東京では、早い段階から9割以上がオンラインの事前予約です。

去年は地震もあって、少し客層が変わってくるという見込みがあったので、販路を細分化しました。以前はホステルワールドの比率が高かったのですが、楽天とじゃらんの比率を上げて、ホテル系のサイトであるエクスペディア、アゴダ、Booking.comでも販売を始めました。その結果、ホテル系サイトからの集客もだいぶできるようになりました。Booking.comのレビュー評価では、『カオサン東京 歌舞伎店』が東京エリアの上位に入っています。星の数1のホステルが、五つ星ホテルよりもお客さんに評価されているのです。

僕らがホテル系サイトで売る時の一番の強みは、大部屋です。例えば4人部屋は、日本の宿の供給がものすごく少ない。その一方、エアアジアで来日するマレーシアのお客さんは、4人組みのファミリーが一番多い。4人で来たらやっぱり4人で泊まりたい。特にムスリムの人は、相部屋を嫌います。

2012年のLCC就航は3年前からわかっていた話です。また、国の経済発展段階によって客層が違うというのもわかっています。韓国や台湾は学生が多く、マレーシア、インドネシアはファミリーが多い。ヨーロッパやアメリカは個人かカップルです。『カオサン東京』では、オープンスカイ協定が結ばれていく中で、どこの国の人が何人ぐらい増えて、そのうち何割ぐらいがホステルのマーケットに来るかというのをふまえて、どのルームタイプのどの単価が必要になるかを予想し、それに合わせて店舗を作りました。
宿業はマーケットの変化に対応するのが難しいですが、コストを抑えて、初期投資の回収期間を圧縮すれば、変化に合わせて箱をアジャストしていくことができます。足りないところはわかっているので、そこを補ってオンラインで売れば、売れるのは当たり前です。

日本のホステル業界は今、どのような状況にあるのでしょうか?

建築基準法や消防法、旅館業法など、日本は法律の要件が厳しいので、出店のハードルは世界で一番高いと思います。新築でやると、どうしても宿泊単価が高くなります。となると、用途変更をしやすい物件を探すか、ホテル・旅館として建てられた用途変更の必要がない物件が出るのを待つしかないんです。

日本のホステル業界は、多店舗展開できている会社が国内に3社しかないほど弱いんです。ここが増えないと、日本に来たいと思っている人を取り逃します。また、バックパッカー宿は、リピーター、ワーホリ、留学、起業、定住、そういう話のすべてのスタート地点です。

これから人口が減っていく中で、日本はどうするのか。例えば、オーストラリアは国の政策として、ワーホリと留学生の受け入れ枠を増やすと同時に、バックパッカー宿の整備をしました。一時のブームに左右される富裕層を追いかけるのではなく、確実に定着する若い個人旅行客の受け入れ窓口の整備をすることが課題だと思います。安く泊まれる宿は、大事なインフラなんです。

 

 

今後の展開についてお聞かせください。

現在、墨田区観光協会の協力を得て、外国人観光客向けのWi-Fi活用やバックパッカーズマップ制作企画が進行しています。地域でバックパッカーを受け入れていく時に、どういうノウハウや観光インフラが必要なのか、行政とも連携しながら模索し、そのプロセスを含め「すみだモデル」として発信していきたいと思っています。
また、日本には、あまり有名ではないけど、外国人が喜ぶような場所が無数にあります。「優先順位は低いけれど、本当は面白いコンテンツ」にリーチさせるためには、そこに行きたいというモチベーションを与えるか、滞在日数を延ばすしかありません。滞在日数を延ばすための一番の特効薬は、宿泊単価を下げることです。安い宿を提供することで、面白いものとの出会いを経験してもらいたいし、そうすることがリピートにもつながると思います。

これからアジア域内のトラフィックは増えていきます。オンラインで手軽に行き先を選べるので、ディスティネーション間の競争はさらに激しくなると思います。カオサン東京の2000円とか3000円という料金は、常にタイで何バーツ、マレーシアで何リンギと換算して考えています。バンコクやクアラルンプールは、バックパッカー宿の業態の蓄積があるので、大部屋のベッドの作り方から飲食との合わせ方まで、本当にレベルが高いです。
その一方で、カオサン東京のスタイルをクアラルンプール、バンコク、上海でやりたいという話もあります。世界中の街中でがんばっているバックパッカー宿が、僕らの最大の競合です。
そんな中、昨年世界的なホステル予約サイト”ホステルワールド”のアワードで、弊社京都店が世界で5位(アジア3位、日本1位)の評価をいただきました。「日本は宿が高くて、個人旅行がしづらい」という海外の旅行者のイメージを払拭するためにも、土地が高くて、法的ハードルが高くても、日本のバックパッカー宿が国際的な競争力を持ち得ることを、世界に示していく必要があります。来たいと思ってくれている人がいる限り、僕らはここで踏ん張って、世界水準のバックパッカー宿のクオリティと値段を保たなくてはいけないと思っています。

カオサン東京
http://www.khaosan-tokyo.com/ja/

取材:Kanako Morishita

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