インタビュー
「人と人との付き合い」を大事にするプロモーションが必要!
インバウンドの発展に、中国市場は不可欠です。中国人と日本人の感覚はまったく違っています。昨今の国際情勢も含め、中国のリアルな消費者目線に立った市場調査を行いながら、最近で商品のプロモーション展開なども行っている「CM-RC.com(株)中国戦略研究所」の徐 向東社長に、現在外交上さまざまな問題を抱え、関係が懸念される中国への今後のプロモーション方策や付き合い方を伺いました。
目次:
企業設立の経緯
現在の中国市場最大の特徴とは?
インターネットにおける中国消費者の動向
今後の対中国ビジネス展開
企業設立の経緯について教えていただけますか?
今から20年ほど前に、北京から日本の大学に入学しました。私たち1980年代の大学生は、いわゆる文化大革命が終わった後の大学生で、ベビーブーマーの世代。今、中国でもっとも富裕者層が多いのもこの世代になります。
日本で博士号をとった後も日本にとどまり、自動車をはじめとする日本企業の中国現地市場調査などの仕事に関わってきました。中国のマーケティングに特化したコンサルティングを行いつつ、2007年にマーケティングの会社を設立し、2008年の北京オリンピックや2010年の上海万博にも関わりました。
現在会社は日本のほか、中国にも現地法人を設立し、そこで日本オフィスから派遣した現地責任者を中心に、40人ほどの現地社員が実働部隊としてマーケティング業務などを行っています。Webを使ったオンライン会議をしながら、東京と上海、北京、成都、大連などの各拠点と同じオフィスの中で仕事をしているような感覚で日々仕事を進めています。
マーケティングをしていて強く感じるのは、日本の企業や観光PRを行う自治体をはじめ、とにかく現場感覚が薄いということです。
中国とひと口にいっても、上海や北京、広東、沿岸部や内陸部など、中国人の考え方や生活文化はまったく違う。また日本人とも考え方がまるっきり違う。何か商品を買うときも、日本人は少しずつあれこれ買うが、中国人はまとめてどっさり買う。
日本の小売店に置いてある小さなカゴでは入りきらないし、中国人にとっては不満。それぞれの国、地域に見合ったPRやおもてなしの要素が必要となります。
現在の中国市場の最も大きな特徴は何でしょう?
行政的・企業的な日本式のトップダウンのやり方は、もう中国市場には通用しない、ということですね。
身の丈の、消費者目線でPRを行わないと中国の消費者はついてこないし、そもそも情報自体が伝わらないのです。インターネットをフル活用して、消費者とのダイレクトなコミュニケーションを行うことが必要です。
以前は観光PRのために、記者発表を通してPRを行っていましたが、ほとんど効果がありませんでした。
しかしあるとき広州市のデパートで北海道のイベントをやったところ、非常に好評で大勢の人が訪れ、500人分用意したアンケート調査票が午前中でなくなってしまうほどでした。
日本への興味は非常に高いのです。でも日本のPRやプロモーションは企業や自治体が役人経由で行うものが中心で、それでは中国人はついてこない。情報に関しては、中国人消費者は政府関係機関からの「上から目線」のものは信用されないし、堅苦しい情報の伝え方には見向きもしない。
そこで横浜の観光イベントや日本の有名化粧品の体験イベントを中国で開催する際に、カリスマブロガーを何人も呼び、PRを行いました。会場では自由に写真を撮ってもらい、ダイレクトで中国版Facebookといえる「微博(ウェイボー)」に情報を上げてもらったところ、非常に大きな反響がありました。
また日本のカリスマ美容師を呼んでイベントを行い、壇上モデルを募ったところ、会場の参加者ほとんどが手を上げ、大盛況だった。
日本の商品、日本のものは依然として人気があり、中国人は貪欲に情報を欲している。しかし日本は旧態依然とした政府・企業発表による情報発信やPRを行っている。
情報の発信者と受け手のあいだに、情報発信の方法のミスマッチが起こっているのです。
中国人消費者のインターネットによる情報流通について、もう少し教えていただけますか?
現在中国のインターネット人口は6億人といわれ、中国版Facebookといえる「微博(ウェイボー)」の登録者4億人、中国最大のチャットサービスのQQのアカウント数は9億。つまり1人が少なくとも2つはアカウントを所有している状態です。
上海のような大都市では、みるみるうちにほとんどの20代や30代のメイン消費者層はスマートフォンを使うようになっており、Wi-Fiはどこでも利用できます。日本はその点が立ち遅れていますね。
先にもお話したように、中国消費者は政府情報より口コミやブログの、民間レベルの情報、つまり自分たちと同位置の目線に立ったものを求めています。
情報はインターネットで探しますが、根底にあるのは「人と人との付き合い」。
例えば決して上手くはない中国語で、一生懸命中国人に情報発信をしている日本人の女性タレントがいますが、彼女は中国では非常に人気があります。それは彼女の“中国人が好き”“中国が好き”という思いを、中国人は敏感にキャッチしているからです。
これと同様に、今後中国市場に訴えかけるには、インターネットでの消費者目線の“付き合い”はもとより、どれだけ中国人と親身になって付き合いたい、中国人の役に立ちたい、という気持ちが伝わるかがポイントとなってきます。
今後の日中関係を踏まえ、どのようにビジネスを行なっていけばいいのでしょうか?
今年、最高指導者の新党総書記に習近平さん、新首相に李克強さんが就任するでしょう。特に新首相となる李克強さんは、やはり文革後の大学生世代です。主義主張のはっきりした方で、今後の政府レベルの交流はまだまだ難しい状況が続くでしょう。
領土問題はメンツ対メンツ、互いのプライドのぶつかり合いだから決着が付かない。冷却期間が必要です。
さまざまなイベントや催しが中止になるなど、民間交流や経済にも影響は出ていますが、でも停滞している時期だからこそ、作戦を練り直す絶好の機会ともいえます。
いざ再び動き出したときに、即座に対応できるように、しっかり計画して、準備を整えておくべきです。
中国の消費者社会は「個人」「個人の嗜好」で動いています。「原則」や「一般論」は成り立たない。海外旅行や海外でのショッピングについてはそれぞれに自分の思いの強い中国人ですから、自分たちの個人ニーズにいかに対応してくれるのかを求めている。
旅行にしても、スケジュールで管理されたくない。選択できるものをたくさん用意したうえで、自由に選ばせるほうがいいのです。
そういう意味では、中国の消費社会もビジネスも、極めて自由主義です。逆に誰が責任を持つのかわからない、「社長不在」といわれる日本ビジネスのほうが国営企業化してしまっていますね。
中国市場に限らず、世界のビジネスや情報の流通形態が変わっている中で、日本の企業はどこかで経営方針と発想を転換する必要があると思います。
CM-RC.com(株)中国市場戦略研究所
http://www.cm-rc.com/index.php
取材:西尾知子
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