インタビュー
「知名度がなくても、ユニークで、旅行者のニーズに寄り添う取り組みに光が当たり、注目される場にしたい」
そうした思いのもと立ち上げられた「Japan Travel Awards 2022(ジャパントラベルアワード2022)」。同アワードには、コロナ禍で苦境に立つ観光事業者の訪日客向けプロモーションを支援したいという想いも込められている。アワード受賞者は、広告費をかけずとも、Webサイトや書籍など様々な形で世界中にプロモーションされ、認知度を高めることができる。
今回は、ジャパントラベルアワード2022の発起人であり、株式会社しいたけクリエイティブのメンバーの本郷誠哉氏(写真中央)、本郷アリー氏(同右)、デイビッド・ジャスキヴィッチ氏(同左)の3人に、アワード立ち上げに込めた思いと共に、本アワードの概要や応募することで得られるメリットについても伺った。
Japan Travel Awardsとは? アワードに込められた思い
個人旅行者が楽しめるコンテンツ、アワード形式で募集
Japan Travel Awardsとは、旅行者が体験できる観光関連の商品やサービス、取り組み、人などを広く募集し、優れた対象を表彰するもの。個人の旅行者が訪れ、触れあったり体験したりして、楽しめることやものであれば、どのようなものでも応募ができる。
観光地などの「地域」はもちろん、宿や飲食店、体験サービスやイベントの他、匠の技を持つ職人や田舎の名物おばあちゃんといった「人」も対象になる。自薦他薦問わず、法人個人問わずだれでも応募ができる。
・旅行者が「行ける」場所や地域
・旅行者が「体験できる」こと
・旅行者が「泊まれる」場所や地域
・旅行者が「会える」人やコミュニティ
応募時には、エントリーする部門を以下の6つから選択する。複数選択も可能だ。
・持続可能な開発を考慮しているかどうかを基準とした「サステナブル部門」
・非日常で質の高い体験の提供を基準とした「ラグジュアリー部門」
・旅行者目線にたった多様かつ柔軟なサービスの提供を基準とした「ホスピタリティ部門」
・家族連れを意識した独自性や柔軟性などを基準とした「ファミリー部門」
・障がいのある人の快適な旅行環境を基準とした「アクセシブル部門」
・LGBTQ+の理解度を基準とした「LGBTQ+部門」
アワードへの期待「話題性」と「受賞者の自信」
今回アワード開催に至った背景には、話題性を作り出すだけでなく、 受賞者はじめエントリーするすべての方の自信に繋げたいというアワード主催者の狙いが込められている。
発起人の3人が、以前、外国人向けWebメディアの編集をしていた時のことだ。「当時、編集部企画で『来年行くべき日本の観光地TOP10』という記事を公開したら、1位になった地域への反響がすごかったんです。読者の外国人や海外メディアで取り上げられるようになっただけでなく“外国人に注目された”ことで、国内のメディアも取り上げるようになって。1位として取り上げられたことで、地域住民や観光事業者の自信にもつながっていったんです」
「賞を獲った」という実績が話題性を集め、観光への呼び水だけでなく、地域のアイデンティティに繋がったことで手ごたえを感じた。
受賞すれば世界中に発信、旅行に熟知した審査員からのフィードバック
エントリーのあった取り組みは、審査員による書類審査と現地審査を経て、最終的に10の取り組みが表彰される。選ばれた取り組みは、編集者とカメラマンによる現地取材や記事化を経て、独自のWebサイト(今後立ち上げ予定)や、後日出版される公式ブックに掲載され世界中に発信される。いずれも英語で制作するので、欧米豪圏への訪日プロモーションとしても活用できる。 また、メディアパートナーを通じた拡散も期待できる。例えば、1993年に創刊、冒険的な旅行や文化体験などを好む旅慣れた旅行者を読者に多く持つイギリスの有名旅行雑誌「Wanderlust」にも掲載される。
仮にファイナリストまで残らなかったとしても、応募者全員が、審査員からのフィードバックを受けられる。観光や旅行に熟知した審査員からは、応募した取り組みの強みや弱み、課題や可能性など客観的な視点でのコメントがもらえる。
なお、審査員は、グローバルな視点を持ち、日本の観光や旅行事情に詳しいジャーナリストやコンサルタント、マーケターやクリエイターなどで構成されている。イギリスで最も影響力のあるジャーナリストとして知られるWanderlustの創業編集長Lyn Hughes氏も特別審査員として参画する。
▲同アワードの審査員、多様なバックグラウンドを持つメンバーが揃っている(提供:株式会社しいたけクリエイティブ)
同アワード発起人の本郷誠哉氏は、完璧な取り組みでなくても、具体的な施策に悩んでいたとしても応募してほしいという。「例えば“LGBTQ+コミュニティの方にも安心して来てもらいたいが、何をしたらいいか分からない”といった状況でも、審査員によるフィードバックが、次の行動の一手に繋がる可能性もある」
アワードの選考基準、応募方法や評価ポイント
多様性や旅行者目線などを重視、誇り、情熱、社会貢献が高評価のカギに
応募時には、概要やこれまでの取り組みに加え、目指す姿、課題、今後の取り組み、自己PRなども記入する必要があるのだが、どのような取り組みが高い評価を得られるのか。そのポイントを、発起人の本郷誠哉氏に伺うと、「誇り」「情熱」「社会貢献」の3つがキーワードとして挙がった。
「まず、外国人やメディア受けしそうといった視点での取り組みよりも、携わっている人々が心から誇りに思っていることを土台とした取り組みかどうか、そして、そこに取り組む人の想い、情熱が込められているかどうか、さらに、それが社会にとって良いことに繋がっているかどうか、です」
選考基準は、主に「旅行者にとって魅力的か」「ダイバーシティ&インクルージョンに向けた努力をしているか」「ユニークで豊かな旅行体験が用意されているか」「適切な情報提供ができているか」の4つがポイントとなる。
6つの部門ごとに選考にあたっての詳細項目が設定されているが、一貫しているのは多様な背景や価値観を持つ旅行者へ配慮したうえで、他では真似できないようなユニークな体験が用意されているかどうかが重視されることだ。
後れる日本の「多様性」、世界基準に照準を
今回もうけた6部門の中には、まだ聞きなれない「アクセシブル」「LGBTQ+」も設定しているが、そこには「多様化する社会」を強く意識する背景がある。
本アワードの共同発起人で、グラフィックデザイナーのデイビッド・ジャスキヴィッチ氏はこう話す。
「インターネットを介して様々な情報にアクセスしたり、多様な考え方や価値観を持つ個人が簡単に繋がれる今の時代、個々人が尊重されるべきという考え方が一般的になりつつある。旅行においても同じ。少数派だからと言ってないがしろにされることなく、一人ひとりが自分らしく旅できるよう、受入側ができる限りの準備を整えることが大切」
「アクセシブルを例にとると、車いすでも気兼ねなく旅行できる環境の整備と情報が行き届いていたら、旅をしたい人はもっとたくさんいるかもしれない。そうした整備や情報発信もしないまま “車いすで旅行する人を見かけない”から“車いすの人は旅をしない”と解釈するのは間違っていると思う」
「例えば、宿側にLGBTQ+への正しい理解があれば、男性2人組の予約の際に、確認なしでダブルベッドルームからツインベッドルームへ変更はしない。旅行者は、こうした状況に直面するたびに自分のプライベートな事情をさらけ出すか、ツインベッドルームを受け入れるかの選択を迫られる」
このように、表面化していないけれども、解決すべき問題はたくさんある。「今回、アクセシブルやLGBTQ+というカテゴリを設けることで、このような問題を考えるきっかけにもしたい」
欧米豪など先進地域を中心に世界ではダイバーシティ(多様性)という価値観が広がっているが、日本は後れを取っている。世界基準を意識してダイバーシティを加速させたいという想いも込められており、この6つの部門が、観光業において当たり前の単語になることも願っている。
デジタル化が進む今の時代に本の出版に挑戦する理由
デジタル化が進むこの時代に、Web記事や動画での訴求に加えて、あえて本の出版にも挑戦する理由について、ブランディング効果の高さとギフト需要による広がりの可能性を挙げた。本郷誠哉氏はいう。
「文字情報が中心のウェブサイトは、詳細の情報を得るのに長けているが、Webサイトにアクセスして読むという自発的な行動を必要とする。それに対して、本と動画は、受動的に情報が入ってくる。また、写真や映像などを通じて脳に直接訴えかけるため、ブランディングの観点ではより効果的」
「そのうえで、動画と比べた本の魅力は、読み手のペースで進められることだ。本は気になったら目を止められるし、前のページにも簡単に戻ることができる。気に入った場所はより心に残るし、次のアクションを移すという視点では有効」
また、世界に目を向けると、本がギフト需要としてニーズがあることにも着目している。共同発起人で長年英字Webサイトの編集者を務めてきた本郷アリー氏はこう話す。
「フォトブックは“コーヒーテーブルブック”とも言われていて、ページ数がたくさんある図鑑のような本です。欧米では、家のリビングやカフェなどに飾られてあって、コーヒーを片手にゆっくり本を楽しむという文化もあります。受賞者を掲載して出版する本は、コーヒーテーブルブックのようなポジションを目指しています」
▲フォトブックのイメージ図(提供:株式会社しいたけクリエイティブ)
「どこかに旅したお土産として(本を)贈る文化があります。今度出版する本も、これから日本を訪れる人に参考にと贈ったり、日本を訪れた人が思い出として自国に持ち帰ったり、そういう存在になってほしいんです」
なお、本の制作にかかる費用は、現在クラウドファンディングを通して資金を集めている。
アフターコロナのインバウンド需要獲得に繋げる
世界を見渡せば、ワクチンが普及する欧米圏を中心に旅行需要は回復しつつある。そうしたなかで、地域の魅力をブラッシュアップして発信すれば、旅行客の目に留まる可能性は高まる。改めて自分たちの地域の魅力は何か。自分たちの地域の「ウリ」は何なのか、グローバルな視点を持った旅行や観光のプロの視点を取り入れて見直してプロモーションすることで、アフターコロナのインバウンド需要獲得に繋げられるかもしれない。
応募は無料、書類審査で選ばれて実際に審査員が現地視察する際には費用がかかるが、コロナ禍で観光業が苦境に立たされているということから、審査料などは無料とし、交通宿泊費の負担のみ、そして受賞すればWebサイトや動画、本などの形で世界中に発信できる。自分が住んでいる、かかわっている地域や取り組みはもちろん、好きな地域、応援したい取り組みを推薦するつもりで応募するのも一つの手ではないだろうか。エントリーは、ホームページ上で1分で申し込み可能、なお、クラウドファンディングでの支援もできる。
ジャパントラベルアワード2022 エントリーはこちら。
クラウドファンディングでの支援はこちら。
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