インタビュー

日本政府観光局 理事長 松山良一氏

2012.04.09

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観光は人を動かす大きな力

訪日外国人旅行者2000万人の高みを目指す

2013年は、東京オリンピック誘致の成功と訪日外国人旅行者1000万人突破という、インバウンドの将来を明るく照らし出す、ふたつの大きな出来事があった。しかし、日本政府観光局の理事長である松山良一氏は、これだけで満足することなく、2000万人の高みを目指すと語る。この好機を確実に形にするために、今、この時に私たちは何をするべきなのか。氏の言葉の中からそのヒントを見つけ出したい。

 

プロフィール
1949年鹿児島市生まれ。1972年、東京大学経済学部卒業。1989年、Harvard Business School(PMD)履修。
1972年:三井物産入社(自動車部門)
1989年:三井物産業務部経営企画室
1995年:イタリア三井物産社長(1997年―1999年 在イタリア日本人商工会議所会頭)
1999年:三井物産広報室長
2001年:三井物産情報総括部長、及び営業事業部長
2004年:米国三井物産副社長 兼 情報産業本部長
2005年:三井物産九州支社長
2006年:三井物産理事 九州支社長
2008年:駐ボツワナ日本国特命全権大使
     南部アフリカ開発共同体(SADC)日本政府代表
2011年:現職

 

海外勤務経験を活かし,ツーリスト目線で提言を

村山

民間企業ご出身の松山様ですが、それまでに観光業に携わったことはあったのでしょうか。

松山

いえいえ。私が三井物産時代に担当してきたのは自動車産業や情報産業の分野でしたから、直接観光に携わることはありませんでした。しかし、ロンドン、ミラノ、ニューヨーク、ボツワナに駐在し、観光ユーザーとしての視点を培ってきました。

 

村山

ツーリストの視点から、中でも一番印象に残っているのはどちらの国でしたか。

松山

やはりイタリアですね。世界遺産の保有数は世界一ですし、ご存じのように観光資源に恵まれた観光立国ですから。特徴的なのは、地域によって大きく違う文化圏を有している点。フランスのような中央集権による国家統一がなされていなかったという歴史的背景から、各地で独自の文化が形成されてきたのでしょう。それぞれの土地に、それぞれ違ったワインやチーズ、オリーブオイルがあり、しかも地元の人々が、物産を含めた地方特有の文化に大きな自信と誇りを持っている点が印象的でした。

日本も、たくさんの観光資源に恵まれているにも関わらず、果たしてそういった自信と誇りを持っているのか。そこは大いに疑問が残る点であると感じていました。

 

 

村山

おっしゃる通りですね。誇りと自信を持っているからこそ、国民一人ひとりが外国人観光客に向けてしっかりアピールができるということでしょうか。それは、気質の違いなのですか?

松山

そうですね。日本人は元来、奥ゆかしく謙遜することを尊んできました。本当は、自信や誇りを持っているにも関わらず、イタリア人のようにパーッと外には出さない。
ですから私は今、各方面に「日本にはイタリアに負けないくらいの観光資源があるのだから、自信を持ってどんどんアピールしましょう」と働きかけているところです。

 

村山

なるほど。これまでの豊富な海外経験からのご着想ですね。JNTOの理事長にご就任されて、まずはどのような取組から始められたのでしょうか。

松山

私が理事長に就任したのは2011年10月のこと。震災の直後でしたから、海外に向けて日本の魅力を伝える広報事業を大きな柱とする私たちとしては、まずは日本が安心安全な状況であることを示す的確な情報を発信。同時に外国人のプレスやセレブリティを招いて、その体験談を発信してもらうよう働きかけていきました。
観光誘致という観点から、東北、ひいては日本復興に尽力してきたのです。

 

 

「これからは地方の時代である」と断言する理由、その先の未来

村山

現在は、どのような取り組みを進めていらっしゃるのでしょうか。

松山

先ほどお話ししたイタリアの例のように、大前提として日本の各地方がそれぞれ存分に魅力を発揮することが、今後の集客のポイントになると考えています。まさに、これからは地方の時代ですよ。まずは、観光資源を磨くことが重要であると捉え、知事をはじめとする関係者とお会いして、コンサルティングなどを行っています。

 

村山

具体的には、どのような内容でコンサルティングを行い、地方の観光施策を推進しているのでしょうか。

 

松山

大きくふたつのお願いをしています。ひとつは、あれもこれも並べるのではなく、ポイントを絞って訴求していくことを推奨。

長野県で冬場に温泉に入るニホンザル「スノーモンキー」などが良い事例となっていますが、外国人観光客から絶大なる人気を誇る「スノーモンキー」を目的にやってきた外国人も、はじめて長野にやってきて、雪や温泉や郷土料理など、新たな発見に感動して満足して帰っていかれる。「スノーモンキー」に絞ってアピールして集客した結果、他の観光資源へと大きく波及していったのです。

 

村山

ポイントを絞ってPRしたほうが、発信者もやりやすいですし、受け止める側もわかりやすいですよね。そして、もうひとつはどのようなお話をされているのでしょうか。

松山

もうひとつは、最近、物産品の売り込みや観光誘致をトップセールされる知事が増えていますが、皆さんにお話ししているのは「ご自身の県だけではなく、地域でまとまってアピールしていきましょう」ということです。
最近の成功例としては、九州なども共同で集客対策を講じていますし、伊勢から富士山を経て、能登まで抜けていく「昇龍道ルート」に関係する9つの県が連携したプロモートなどがあります。こういったご提案を重ねることで、日本の魅力を底上げしていきたいと考えているのです。

 

村山

おっしゃることはよくわかります。私も先日、香港の観光博に出席して実感したのですが、外国人観光客の趣向は広がりを見せていますから、日本の色々な場所に興味を持っているのですよね。

松山

初期段階では、「団体で周遊旅行」というのが主流だったのですが、現在では個人客が長期滞在して、色々な事を体験するという旅行スタイルに変化しています。観光資源という素材はたくさんあるが、どこをどう組み合わせればいいのかわからないという状態だったと思うのです。

その際に、日本人が頭で考えるだけではなく、外国人の目線から「いいな」と思えるカタチでパッケージングしてアピールしなくてはならないと考えています。あらゆる観点から、地域資源を磨き上げていくことが、これからのJNTOが負うべき大きな使命のひとつになっていると考えます。

 

(Part 2へ続く)

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