インタビュー
世界中の若者が最良なキャリアを選べる、そんなトラフィックを生み出したい
日本の大手家電メーカー勤務時代、世界の有名企業の優秀な人材と接した経験を生かし、世界中の若い優秀な人材を日本の企業に送り込む。そんなユニークな事業を展開されているフォースバレー・コンシェルジュ株式会社の代表取締役社長・柴崎洋平氏。日本の企業、そして国の魅力を世界のヤングエリートに伝え、双方にとってWin Winの関係が築けるサポートをする。 今回は柴崎氏にその事業内容と、今後の日本のインバウンドについて語って頂きました。
プロフィール:1998年上智大学外国語学部 英語学科卒業後、ソニー株式会社入社。世界10数ヵ国で、Samsung、Motorola、Nokiaといった世界的なグローバル企業とビジネスを行う。2007年ソニー株式会社退社後、同年、フォースバレー・コンシェルジュ株式会社設立、代表取締役社長就任。全世界の若者の海外挑戦を強力に支援する事業を展開。海外拠点はシンガポール、インド、中国に加え、来年度中にミャンマー他10数ヵ国に進出予定。世界経済フォーラム(ダボス会議)、Young Global Leaders2013選出。上智大学非常勤講師。
日本独特の文化である“新卒一括採用”にフォーカス
村山
この事業を手掛けられたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
柴崎
設立して今年で5年になるのですが、元々は10年間、ソニーでB to Bビジネスを行っていました。ノキアやモトローラ、サムスンなど、世界の名だたる通信会社を相手に、携帯電話に内蔵されるデジタルカメラの商品企画、および販売戦略の立案を担当していたのですが、相手は世界の列強企業の優秀な人材ばかり。
このような人材を東京の本社に集積することができたら、日本企業は強くなるに違いないという思いを持つようになりました。ターゲットとなる人材は英語を操れる人が圧倒的に多いため、どんな国に行っても、言葉の壁を感じることなくすぐに仕事ができます。世界戦略を意識している日本の企業に、世界中から優秀な人材を募り、本社に獲得する。それがビジネスとして成立するのではということでスタートしました。
村山
着眼点が素晴らしいですね。国境を超えたヘッドハンティングといったイメージでしょうか。
柴崎
そうですが、いきなり30~40代の、いわゆる働き盛りといわれる人材を獲得するためには数々の障壁がありましたので、まずは日本独特の文化である“新卒一括採用”にフォーカスし、事業を展開することとしました。
これまで日本中の企業が、50万人といわれている国内最大の就活情報サイトのユーザー、すなわち日本人学生の中で人材を奪い合っていたのですが、そのような閉ざされたマーケットに対して“世界数千万人の学生の中から優秀な人材を配備しませんか”というコンサルティングを行ったところ、想定以上に大きな反響を呼び手ごたえを感じたものです。
村山
具体的には、日々どのような活動を行っているのでしょうか。
柴崎
まず世界中のトップ大学を行脚して、日本企業への採用イベントを開催します。
どの国でも、おかげさまで超満員の状態で、参加者の学生たちが私どものデータベースに入ってきます。
このデータを基に、優秀な人材を日本企業に紹介し、採用していただくような働きかけをしているのです。
これまでの5年間は、前述のスタイルで日本の採用文化をグローバルに変革させようとチャレンジしてきたのですが、今後は“世界から日本へ”だけではなく、“世界から世界へ”という視点で世界中の若い人たちの国境を越えた就職、あるいは留学やインターンシップなど、あらゆる海外挑戦の支援をしていこうと会社のミッションを大きく変えているところです。
そういった意味で、現在大きな手ごたえを感じているのが、寿司職人の世界派遣。国内では市場ニーズが狭まっていても、世界中で優秀な寿司職人が求められています。
学生のみならず、各ジャンルにおいて活躍できるポテンシャルのある人材を、国境を越えて適材適所に配備する動きを進めていくつもりです。
現地に足を運んでの調査を徹底し、唯一無二のデータベースを構築
村山
柴崎さんがされていることは、日本の魅力を世界に発信するという意味では、インバウンドにつながる部分があると思うのですが、いかがですか。
柴崎
おっしゃる通りですね。日本で働くことの魅力を世界中に伝えていくためには、単に企業の魅力だけを発信していても人材は集まってきません。 日本という国で生活する魅力や観光資源を含め、さまざまな要素を総合的に伝えてこそ、はじめて優秀な人材が日本という国に来てくれるのです。
ですから、結局、私どもが実施しているのは、日本のセールスそのものなのだと自負しているところです。
さらに、日本に働きに来る方々が、生活面において不安を抱かないよう、ハウジングサポートやFacebookにおける情報サイトの運営も実施。ご自身の力を存分に発揮いただけるようキャリアサポートも行っています。
村山
働くことで日本全体の印象がよくなるようなサポートをされているのですね。ところで、御社は世界の新卒学生のデータベースを構築されていますが、現在ではどのくらいの規模になっているのでしょうか。
柴崎
100ヵ国5万人です。大学4年生から第2新卒の方々が対象となっています。特に多いのが中国、インド、アメリカ、続いて韓国、台湾、香港などASEAN全域に渡っています。最近では、イギリス、ロシアの学生の登録も増えています。このように世界中のヤングエリートを対象としたデータベースを持つビジネスモデルは、世界のどこにいっても類を見ないオンリーワンのサービスです。
人数からしたら、リクルートさんが抱える日本学生50万人には及びませんが、私どもが直接現地に足を運んで獲得してきた世界のトップ層5万人ですからね。かなり威力はあると思っています。
村山
それだけの規模のデータベースを構築するには、さまざまなご苦労があったのでしょうね。
柴崎
何よりも重要なのは、どこの国のどの大学のどの学部が、どのようなジャンルに強いか、どの程度のレベルなのかを調べ上げ把握することです。書籍に掲載されているものではないので、ひたすら現地に足を運んで大学にアプローチし、学生から徹底的にヒアリングを実施して積み上げてきました。
獲得してきたネットワーク、知識、ノウハウは、他社が簡単に追いつけるようなものではないと思っています。
そういった地場の情報を正確に把握するために、弊社は世界各国に拠点を置いていますが、さらなる拡大を目論んでおり、5年以内に100の拠点を置くことを目標に掲げています。
村山
先ほど、採用だけではなく留学支援についても注力されているとのことでしたが、具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。
柴崎
インターネット上で、バーチャルな留学フェアを実施しています。日本はもちろん、イギリス、フランス、カナダ、中国など各国のトップ大学が、サイト上にブースを設け、その魅力を伝えています。こちらのサービスも、世界中の大学との契約を順次進めていき、国境を越えて全世界の海外留学のハブにしていきたいと考えているところです。
世界スタンダードの雇用を理解、権限委譲で外国人スタッフの力を生かす
村山
外国人の雇用は、インバウンドを推進する読者の皆さんにとっても大きな関心事だと思います。留意点などあればアドバイスをいただけませんでしょうか。
柴崎
私どもが考える外国人採用のメリットは、あくまで“経営幹部候補生”として採用することで生ずるものです。日本の本社で海外戦略を考えるなら、当然、対象となるエリアの人たちの方が、より現実的でよりフィットした戦略を生み出すことができるからです。そうでなければ、現地で採用すれば良いのですから。
雇用における注意点としては、第一に日本と外国の雇用文化の違いを理解することです。終身雇用、年功序列が常識なのは日本だけ。
実力があってアウトプットを出せば、どんどんステップアップできるというのが海外の常識ですから、こういった世界のスタンダード型の雇用形態にもっていくべきでしょうね。
もちろん、言語は英語。
全社員が必要とはいいませんが、少なくとも経営層や幹部だけは英語でビジネスができるよう環境を整えたほうがいいでしょうね。
村山
それなりのポストを与えることが必要ということなのでしょうか。
柴崎
すぐに部課長になれなくても、先のキャリアに夢を感じさせてあげることができれば、彼らは皆、頑張って活躍していきます。
“一生こんな下積みか……”と思われると、どんどん辞めていってしまいますよ(笑)。やはり業務における権限委譲をして、やる気を引き出すのがポイントだと思います。
村山
なるほど。海外の方のほうが、キャリア志向が一層強いということなのでしょうね。ところで、日本のインバウンド観光について、何か思うところはございますか。
柴崎
日本にいる外国人をもっと活用した方がいいような気がします。当然のことではありますが、日本に住んでいる外国人が、その感性によって日本のよさを一番理解しているわけですから、自国の人たちに何が刺さるのかがわかっていると思うのです。そして、その国の言語で、自国の人たちに向けて発信すればいいのです。現状では日本人がやらなくていいことを日本人がやりすぎているような気がしますよ(笑)。
村山
もっともなお話だと思います。最後に、今後の目標を教えてください。
柴崎
留学、インターンシップ、就職にくわえ、観光も含めた4本柱において、30歳以下の若者たちの海外挑戦を支える、徹底したトラフィックを生んでいきたいと考えています。
彼らにとって最良なキャリアを世界から選ぶことができ、世界中の人々が自由に行き交うようになれば、相互理解が深まり、世界経済の活性化、ひいては世界平和につながるものと考えています。
村山
本日は、ありがとうございました。
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