インタビュー
商店街、住民、企業が一体となる街づくりが実効力あるインバウンドに繋がって行く
外国人にも人気の観光スポット「原宿・表参道」。今回は『原宿表参道欅会』の理事長である松井誠一氏と、インバウンド担当副理事長の穐山壮志氏にお話しを伺いました。1973年に設立された前身となる“原宿シャンゼリゼ会”の発足当初から「キープ・クリーン/キープ・グリーン」というスローガンを掲げ、商業振興と地域環境の両面で活動を続けておられます。2010年から本格的にインバウンドを意識するようになったものの、銀座や新宿のように団体客を受け入れるのが難しい地域。そこで“3段階の施策”を打ち出し、実行に移されています。
松井 誠一 理事長プロフィール
1951 年青森県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。学生時代から表参道にある父親の店を手伝い、卒業後「原宿シャンゼリゼ会(欅会の前身の商店会)」理事に就任。以来、表参道の街に関わり続ける。2006 年7 月より第4 代理事長。趣味はダイビング。
穐山 壮志 副理事長プロフィール
1968 年6 月東京・練馬生まれ。1991 年3 月慶応大経済学部卒。同年4 月森ビル入社。2008 年11 月から表参道ヒルズの2 代目館長。同年、原宿表参道欅会副理事長に選任。2010 年からインバウンド3 ヶ年計画を陣頭指揮して推進。モットーは「誠心誠意」。趣味は「深掘りせず、間口を広く」と常に心がけている。
商店街振興組合原宿表参道欅会について
昭和48年4月表参道と神宮前交差点両側の明治通り沿いを区域とする「原宿シャンゼリゼ会」として設立し、昭和60年8月商店街振興組合として法人化。平成11年9月原宿の発祥の地に位置すること、歴史的に明治神宮の表参道であること、シンボルである欅(けやき)から「原宿表参道欅会」と名称を変更。平成24年12月時点の会員数は230社で加盟店は約500店舗。原宿表参道地域の生活環境の向上と商業の健全なる発展を目指すことを主たる活動目的として、その目的の達成手段として良い環境作りということに重点を置いている。人間が幸福になる街を創造するということが最も大切であると考え、民間レベルで活動し得ることを最優先に商店や企業、住民とが一体となって上記目的の達成のために活動している。
先進的な理念と独自の地域連携が現在の魅力的な街を形成
村山
本日は原宿表参道欅会の理事長である松井誠一さんと、インバウンド担当副理事長でいらっしゃる穐山壮志さんのお話を伺います。私もこの街が大好きなのですが、改めてその魅力や存在価値について、お考えをお聞かせいただけますでしょうか。

松井
この緑豊かで美しい景観と、どの路地に入って歩いてもまったく問題のない安全性。これは商業以前のもっとも基本的な街の魅力といえるでしょう。そのベースの上に商業があるし、そしてオフイスや住宅などがバランスよく存在している。
ビジネスや住宅街など、ある目的や機能に特化した街ではなく、日常的に必要とされるすべてのものがそろっているのです。そういう意味では、例えばアウトレットや大型ショッピングモール、あるいは新宿歌舞伎町が持つ“非日常性”ではなく、“日常のハイクオリティ”を有する街であると考えています。

村山
存在自体が大変ユニークな街といえますね。
松井
歩きたくなる街、歩いていて楽しい街という感覚でしょうね。私ども原宿表参道欅会の前身となる“原宿シャンゼリゼ会”は1973年に設立されたのですが、当初から「キープ・クリーン/キープ・グリーン」というスローガンを掲げて活動をしていました。
70年代初頭という時代に、ひとつの商店街が商業振興とかけ離れた環境意識を持っていたということが驚異的ですね。元々この地で商売をしていた私たちの先代にあたる人間たちは、この美しい環境を有する街のよさを共有できるように、立地的な価値に目をつけて次々に参入してくる企業さんや店舗に対して啓蒙していくことが、義務と感じていたのでしょう。
その思いがベースとなり、以降、街全体の発展に関わる取り組みに対して、住民も商業従事者も意識が高まっていったのでしょう。
村山
なるほど。地域内連携の素地が当時から出来上がっていたのですね。

松井
古くから商売を続けている人や新規参入してきた企業さん、さらには住人の方々とうまく連携を取っていくベストな方策というものは明確に示すことはできませんが、このエリアはそれがうまくいっている例だと思っています。
それは特色あるコミュニティづくりがよい効果をもたらした結果といえます。
一般的なコミュニティは住民中心か、あるいは商店街が中心に形成されるものですが、私どものエリアは、企業もそこで働いている人も、あるいはこの街が好きで買い物に来たり散歩に来たりしている人もコミュニティの一員と捉え、一緒にイベントや清掃活動などを行っているのです。
結果、単なる商業振興のためのイベントではなく、街全体を盛り上げるという意義を持ったイベントになりますし、さらに街の景観や安全を自主的に守っていこうという意識付けにつながっていく。
商業と住宅という対立図式ではなく、それぞれの立場の人間がそれぞれ利害から離れたところで、一緒に街づくりを進めていこうということで、真に一体となっていくことができるのだと思います。
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