インタビュー
注目企業インタビュー スイス政府観光局 ロジェ·ツビンデン支局長
150年も前からインバウンドに積極的に取り組む、ヨーロッパの観光立国スイス。世界中のスイス政府観光局の全体の年度予算は約70億円です。
スイス独自のインバウンド戦略やプロモーション方法について、スイス政府観光局日本アジア・支局長のロジェ・ツビンデン氏にお話を伺いました。日本のインバウンド事情にも詳しく、日本が観光立国となっていくうえでの、参考となるでしょう。
- 目次
- スイス・インバウンドの歴史
- 3つのメイン政策と4つのマーケティングモデル
- 連携こそがインバウンド施策において重要
- スイスの海外プロモーション
スイスは観光立国ですが、どのような経緯で今に至るのですか?
● スイス・インバウンドの歴史
国を挙げての取組みが活発になったのは、150年程前です。
山や湖など大自然を売りに、夏の観光地として、作家や芸術家などの著名人が多く訪れました。しかし、夏以外の間はほとんど観光客はおらず、ホテルも大半が閉まっている状態でした。
それでは経営が成り立たず、各ホテルは130年前に冬季のプロモーションも始め、第2次世界大戦後には、政府が本格的にインバウンド事業に取り組み始めました。●3つのメイン政策と4つのマーケティングモデル
スイス政府は、3つのメイン政策を掲げています。
①
スイス政府観光局が海外に向けてのプロモーション活動を行う。
②
銀行はホテルに安い貸付限度額を提供する。普通の銀行ではなく、ホテルクレジット銀行という銀行です。その銀行のリスクは政府が負担します。
③
中小企業は活発なイノベーションを行う。Innotourという活動は中小企業の対象だけではなく、観光地、民間組織などのイノベーション過程をサポートします。
これら3つの政策は「現在」でも大きな柱として残っているのです!我々が担っている①のプロモーションでは、以下の4つのマーケティングモデルを設定しています。
1.宣伝
2.PR(メディア活用)
3.インターネット/e-marketing( iPhone, Twitter, Facebook, YoutubeなどのSNS活用)
4.B to B, 旅行会社向けの活動 (Distribution Channel、新商品開発、研修活動など)この中で最もキーとなるのが、4番目のDistribution Channel(グループビジネス)です。
これからの日本のインバウンドで大切なものは?
●連携こそがインバウンド施策において重要
ホテルやレストラン等も巻き込んで、新しい観光地・商品の開発を話し合い、旅行代理店と何を販売したら良いかを共有することが必要ではないかと考えています。
このような、あらゆる企業間で行われる「グループビジネス」は、ヨーロッパでは50~60年前から考えられ、実行されてきました。
企業同士の協力体制を整えることは、インバウンド施策において大変重要ではないでしょうか。今後の日本にとって、「グループビジネス」は最も重要な要素の一つではないかと思います。
しかし現在の日本では、例えば高速バス会社同士、レストラン同士、小さな町同士、それぞれが互いを敵とみなし、競い合っているということを見聞きします。
一方、九州の黒川温泉で導入された「黒川温泉入湯手形」のように小規模旅館が集積し、街全体で取り組むなど、「協力」することで大きな力を生んでいる地域も見られるようになってきました。これは日本のインバウンドにとって、大変良い傾向だと思います。
スイス観光局の日本でのプロモーションを教えてください
●スイスの海外プロモーション
プロモーションを行う際、まず初めに考えなければならないのは、「何を価値として売り出し、どのようにそれを海外へ発信していくか」ですよね。
スイスの場合、歴史やショッピングを売りにしても、隣国のフランスやイタリアには敵いません。
他国に負けない魅力でスイスをブランディングするため「本当のもの」「自然」というキーワードで世界に売りこんでいます。また使用する写真、ロゴ、色を統一し、一目でスイスと分かるブランディングイメージを作りました。スイスのロゴ
プロモーションする国や地域をしっかりリサーチした上で、どのようなキャンペーンを打ち出すかを決定することも不可欠です。
ハイキングが好まれ、「花」に対する感情が強い日本では、花に関するキャンペーンを始めました。
また日本人は電車での旅が好きなので、電車で近くまで行けるハイキングコースなどを設定しました。(スイス観光局では誰でも資料を利用できる)
こうした「ハイキング」、「花」、「電車」というキーワードを上手く取り込んだ旅行プランを旅行代理店へ持っていったり、メディアを入れたワークショップを日本で開催したり、SNSで情報を発信したりと、先ほどお話したマーケティングモデルにのっとって、プロモーションを図っています。
スイス観光局
http://www.myswiss.jp/jp.cfm/home/<取材後記>
ロジェ・ツビンデン支局長のスマートな面持ちとは異なり、話し方は非常に熱く、予定の時間を越してまで語っていただきました。またロジカルでわかりやすい内容でした。スイスが観光立国としてどのように成長していったか、その熱さと冷静さを兼ね備えた人柄からも理解できたように思えました。
最新のインタビュー
日本一のインバウンド向けローカル体験を創ったツアーサービスMagicalTripが、未経験ガイド9割でも最高評価を獲得できる理由 (2024.07.26)
やんばる独自の文化体験を提供する宿の若手人材育成術「育てるよりも思いをつぶさない」の真意 (2024.04.26)
人口の7倍 62万人のインバウンド客が訪れた岐阜県高山市の挑戦、観光を暮らしに生かす地域経営 (2024.03.22)
国際環境教育基金(FEE)のリーダーが語る、サステナビリティが観光業界の「新しい常識」になる日 (2024.02.09)
パラダイムシフトの渦中にある観光業に経営学を、理論と実践で長期を見据える力をつける立命館大学MBA (2023.11.14)
2024年開講、立命館大学MBAが目指す「稼げる観光」に必要な人材育成 (2023.10.26)
【海外での学び直し】キャリア形成への挑戦、ホテル業界から2度の米国留学で目指すものとは? (2023.09.29)
広島にプラス1泊を、朝7時半からのローカルツアーが訪日客を惹きつける理由 (2023.08.04)
異業種から観光業へ、コロナ禍の危機的状況で活かせたMBAでの普遍的なスキルとは? (2023.06.09)
台湾発のグローバルSaaS企業「Kdan Mobile」の電子署名サービスは、いかに観光業界のDXに貢献するのか? (2023.05.17)
【提言】アドベンチャートラベルは「体験」してから売る、誘客に必要な3つの戦略 (2023.04.21)
世界一予約困難なレストランでも提供。北海道余市町を有名にした町長の「ワイン」集中戦略 (2023.04.14)