インタビュー

世界一のホテル支配人が首長に。国際的スノーリゾート「白馬」が描く、地域観光の未来

2023.01.12

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2022年の夏、国際的スノーリゾートとして知られる長野県白馬村に、歴代最年少・47歳の新首長が誕生した。

白馬村出身の丸山俊郎氏は、オリエンタルランドでの勤務やオーストラリアワーキングホリデーを経て、2009年に白馬に戻り家業の「しろうま荘」を継ぐと、2012年にはワールド・ラグジュアリー・ホテル・アワーズのスキーリゾート部門で日本初のグローバルウィナー賞を受賞。支配人としては、2016年にロンドンの富裕層向け旅行誌が主催する「ラグジュアリー・トラベル・ガイド・アワード」で、世界第一号となる「General Manager of the Year」を、続けて2018年にはホスピタリティ業界を対象とした「ワールドワイド・ホスピタリティ・アワード」に日本人として初めてノミネートされ、「ベストホテリエ」ファイナリストを受賞した。

そんな村長としては異色の民間経験を豊富に持つ丸山氏は、就任するとすぐに、クリスマスシーズンまでにインバウンド客を招き入れるため、スノー産業を牽引して政府に対して水際対策緩和の働きかけをしていった。インバウンド個人旅行者受け入れ再開後、冬を目前に控えた10月末には長野県知事らとオーストラリアへ渡りトップセールスを行うなど、早くもグローバル感覚をいかした独自の手腕を発揮している。

「何かを変えていくには、すごくエネルギーがいるので」と、若く体力のある40代で首長を志した理由を話す。日本全体のインバウンド観光を白馬からリードする気持ちで取り組む丸山氏に、世界中の人を魅了してやまないリゾート・白馬のビジョンを伺った。

 

1.宿泊とホスピタリティの世界から白馬村首長に

国に働きかけ村に貢献できる立場を目指して

─ インバウンド観光の先進地であった白馬にとって、この2年余りのコロナ禍は大きな打撃を与えたことと思います。今のタイミングで首長を目指したのはなぜでしょうか。

コロナ禍が思った以上に長引く中で、自分がこの村のために何かしなければとずっと思っていました。白馬で生まれ育ち、家が宿泊業をやっているのですが、そこで日本で初めてとなる国際的アワードを受賞したことがあります。そうした経験からも白馬は日本のインバウンド観光を引っ張っていける場所だと信じているので、国に働きかけられるくらいの立場になり、日本の諸外国に対する遅れを取り戻したい気持ちが強くなってきました。

あとは年齢的な理由もあります。なんとか脳みそが柔らかく変化に対応できる40代のうちに地域全体に貢献できる立場になった方が、より役割が果たせるとは感じていました。

─ 就任されて数カ月ですが、さっそくオーストラリアへトップセールスにも行かれていました。どのような意図があってのことでしょうか。

白馬への冬のインバウンドの予約は夏頃から入ってきます。12月のクリスマスから年末にかけて訪れてもらいたければ、9月には水際対策の緩和をしてプロモーションを始めないと、ツーリストは行き先を他の国に変えてしまいます。もとから交流のあった観光庁と長野県の阿部知事に強く訴え、そこから近隣他県へ、内閣へと危機感を伝え、国への働きかけをしていきました。オーストラリアへは阿部知事にお声かけいただき、山ノ内町、野沢温泉村の町村長と行ってきました。

トップが水際対策緩和後すぐに海外セールスに行ったのも都道府県として初めてでしたし、思い描いていたアクションがこの短期間でできました。ワーキングホリデー時代からたびたび訪れていたオーストラリアで、自分のコネクションをいかしてセールスを行い、スノー産業から国の政策にもインパクトを出せたのは、ひとつの成果かなと思っています。このように観光の分野を牽引していく白馬のリーダーを誰がやるかは非常に重要で、自分はそれが可能な人のひとりだと感じていましたし、今のところは功を奏しているかなと思っています。

▲トップセールスでオーストラリアへ、観光地への視察のほか大使館や企業などを回った

 

ディズニーから学んだ安全管理とチームづくり

─ 過去にはオリエンタルランドで「ディズニーのお兄さん」として働かれていたご経験をお持ちですよね。

大学で経営学を学び、就職と同時に白馬に戻ったのが長野オリンピックの年でした。地元の観光開発会社で働きながら家業の「しろうま荘」を手伝う中で、「白馬がもつ自然は変わらなくていいけれど、人のほうは変わらなければ」と肌で感じました。スキー産業のバブル崩壊から回復しきれていない白馬をよくしていくには、最前線でホスピタリティを学ぶ必要があると思い、ディズニーの世界に飛び込んだんです。会社も家業も手放し、経済的なリスクも負って環境を変えるのは勇気がいりましたが、後に活きる選択でした。

接客のホスピタリティという面での学びはもちろん大きかったのですが、ディズニーは安全管理がすごくしっかりしているんです。スノー産業もウィンタースポーツという危険と隣合わせのものを扱うので、ここで培われた安全管理意識は今にとても役立っています。それから、行政サービスもお客様と向き合うホスピタリティ業に近いものがあり、住民の方が役場に来たときに「なんか明るいね」と感じてもらえる雰囲気作りやチームワークの醸成はディズニーで身につけた知識や経験を役立てたいと思っています。

 

海に憧れオーストラリアへ。海外に出て気づいた白馬の魅力

─ ユニークなご経験です。その後、英語を学び国際的視野を養うためにオーストラリアに行かれたそうですが、そこではどのような経験をされたのでしょうか。

山の環境で育った人間なので、海に非常に憧れるんですよね。私がいたのはゴールドコーストという、語学よりもサーフィンをしに来る人のほうが多いようなビーチリゾートでした。サーファーズ・パラダイスというエリアを中心に、南北に約1時間に渡ってビーチが延々とあるわけです。滞在中にいろんなビーチに行ったのですが、これを白馬に置き換えてみると、八方尾根を真ん中に北には岩岳や栂池、南には五竜やさのさかがあって、まるで山バージョンのゴールドコーストじゃないか、と気づいたんです。


▲オーストラリアに滞在していたころの丸山氏、ゴールドコーストにて

今でこそ「白馬バレー」と名付けて白馬エリアとしての全体感が見えやすくなりましたが、そんな概念がなかった当時も、長期滞在して複数の山を楽しめるこのエリアはオーストラリア人にはすごく魅力的なコンテンツに映るだろうなと思いました。彼らは雪への憧れが強いので、真反対のコンテンツというのも面白いところです。そういったリゾートのスケール観の捉え方のような感覚は、オーストラリアで得られましたね。

 

2.観光デスティネーションとしての白馬

この地で生まれ育った丸山氏から見た、白馬のインバウンド観光

─ 外国人観光客の多さでも知られる白馬エリアですが、ご出身であるこの地で長年過ごされてきて、観光地としての変化をどのように見られていますか。

長野オリンピックがあった頃など、一時は白馬も巨額の投資をかけて作り込んだコンテンツで、他のリゾートや日本国内からの観光客をお迎えしていました。しかし莫大なコストをかけて開発しなくても、オーストラリア人のような外国人たちの目には、ただそこにあるものだけで十分ユニークで魅力的に映ります。

インバウンド客も最初は雪目的で来るのですが、リピーターが増えるうちに善光寺やスノーモンキーのような周辺観光地へのデイツアーが充実し、本物志向の日本食レストランなどが求められるようになってきました。アジアからの観光客も徐々に増え、バラエティ豊かになりました。

─「あるものを活かす」という意味で、ご自身の宿ではどのような工夫をされてきたのでしょうか。

たとえば欧米豪圏の人たちは温泉で裸になる文化がないので、貸し切りの時間を設けたり、シャワーだけ浴びられるスペースを作ったりしていました。寝るときに布団1枚だと硬いと感じるお客様がいたら、ベッドに変えるのではなく布団を2枚3枚と重ねるなど、日本文化を大切にすることと快適にお過ごしいただけることを両立する工夫を考えます。夕食は郷土料理を出すぶん、朝食にはトーストをつけてみたり、普通のコーヒー以外にラテなども飲めるエスプレッソマシンを導入して、マグカップも少し大きなものに変えてみたり。多大な投資はせずに、あるものを活かして整備することでいかに彼らにとっての価値ある体験を提供できるかは、かなり考え抜いてきましたね。


▲しろうま荘にてインバウンドのお客様をもてなす丸山氏

 

冬以外のグリーンシーズン観光を強化

─ 白馬全体としても、それに近い姿勢でインバウンド客を迎え入れてきたのでしょうか。コロナ禍以前まで、集客には成功していたように感じます。

そうですね。地域としてもそれに近いやり方で冬の観光は上手くいったと言えます。しかし、これから先も感染症拡大や雪不足、人口減少、ブームによる来訪者数の変動などのリスクを考えると、「どこから来るか(国・地域)」と「いつ来るか(シーズン)」を分散させたポートフォリオを組むことが大切だと考えています。

オーストラリアではクリスマスから1カ月の夏休みがピーク期間です。タイの場合は12月頭にホリデーがあるのと、他の国があまり来ない4月にもソンクランの休みがあり来てくれます。シンガポールは12月中旬からクリスマスまでがスクールホリデーで、3月中旬からイースターにかけても休暇です。このように国ごとの休暇や祝日を把握して、幅広くアプローチすることでバランスよく観光客がいる状態をつくれます。働き手という意味でも、英語も中国語も話せて日本人に近いホスピタリティ感覚をもった台湾人などは、積極的に受け入れたいですね。

─ 通年雇用なども考えると、冬だけの話ではなくなりますね。やはり「オールシーズンリゾート」を目指す方向性なのですね。

冬は観光客も多く仕事もたくさんありますが、やはりグリーンシーズンのインバウンド観光誘致を強化することは欠かせません。もともと白馬には登山やトレッキングの文化がありますが、最近はマウンテンバイクなどアクティビティの種類も増え、絶景スポットやテラスができるなど活発な動きが出てきていますね。国内の旅行需要は長い目で見るとブームに左右されることもあるので、リスクヘッジという意味でも、文化として安定的に興味をもってくれる海外の人たちも大切に考えていきたいです。


▲グリーンシーズンの白馬も魅力あふれるコンテンツが多数ある

 

3.空白の2年間を経て、丸山氏の考える白馬村のビジョン

デジタル化で人間力を磨き、「本質的ラグジュアリー」を追求

─ インバウンド客が一切来ないコロナ禍を経験し、地域全体としてあぶり出された課題や見えてきたこともあったのではないでしょうか。

コロナ禍以前はオーバーツーリズムの問題もありました。ハイシーズンには混雑しすぎて飲食店に入れないとか、夜飲んで騒ぐ外国人のマナー問題とか。一回それがリセットされたものの、戻ってきたときまた同じ状態にならないためにはどうすべきか、今後の体制整備が問われているとも言えます。宿泊施設などは特にコロナ禍で露呈した課題が多く、この先どう経営していけばいいのか考え直す大きなきっかけになったと思います。

観光地として魅力的な地域であり続けるには、どうしてもお金がかかります。村全体の方向性で考えると、価値を維持するためにも、適正な額を払える人に適正なだけ来てもらう、というのがよい形だと思っています。お金と時間をかけてでも来たいと思ってくれ、地域をリスペクトしてくれる人たちに愛される観光地でいることが重要です。スキーバブルだった時期とは全く状況が違うので、価格に転嫁していかなければいけないですね。

─ 価値を維持して適正な額を払って来てもらえる地域になるために、具体的にはどのような方法を取りますか。

地域内のいろいろなことのデジタル化、システム化は積極的に進めたいと考えています。たとえば宿のチェックインシステムを自動化し、ある程度はお客様ご自身でやっていただく形にすれば、人員コストと負担が減らせます。そこで浮いたぶん料理に手間をかけたり、お客様と密なコミュニケーションを楽しんだりと、人間にしかできないホスピタリティの質を上げることができれば、価格設定も見直せるかもしれません。

高いお金を取ることは決して悪いことではないので、これだけの世界に誇れる環境を維持し将来に残していくためには、デジタル化等を進めて本来持っているユニークさを磨いていきたい。至れり尽くせりのサービスもいいけれど、昔ながらの家庭的なよさやおもてなしの心を残したまま効率化することもできると思っています。

絢爛きらびやかでアメニティが豊富にあり、ゴージャスなことが「ラグジュアリー」だった時代もありました。しかし本当の贅沢や豊かさが何かという価値観は、今と10年前では違います。産業として持続可能であるために、本質的なラグジュアリーとは何かを追求していきたいです。

 

住民視点の良質な開発で、暮らしやすい観光地に

─ 観光と表裏一体で「移住」という話もあり、近年の白馬村には30〜40代の若い移住者が集まり、面白いことをしている印象があります。

白馬は本当に魅力のある場所だと見られていて、若い移住者が増え活発に動いています。一方で観光地として成功すると、比例して土地の値段は上がります。移住したい人の住居問題は深刻なので、村としては住宅環境を整えるのもそうですし、今あるものを活かして住んでいただける空き家のマッチングも検討しています。

地域を盛り上げたい人たちが生き残っていけるように、生活環境を整えるための規制なども設けていく必要があります。景観条例や開発条例の全面改正はしたのですが、私権を制限することはできないので「建てないでください」とは言えません。バランスは難しいですが、住民のことを考えた良質な開発を目指していきたいです。


▲白馬村の街並み

─ 移住者を含めた地域住民のための施策としては他にどのようなことをお考えでしょうか。

車がないと不便な地域なのでまずは公共交通整備です。今まで冬に夕食や飲みに出掛けるインバウンド客用にナイトシャトルを走らせていたのですが、空で走っていることも多かったので、シンガポールのベンチャー企業が開発しているシステムを導入して、予約アプリでAIが自動スケジューリングしてくれるオンデマンド型に変え地域住民にも活用してもらおうと考え進めています。昼間にはスクールバス等と連動させて1日中コミュニティバスを走らせたりできると、免許返納後の高齢者の足問題も解決できると思っています。

▲オンデマンド型で走らせているコミュニティバス

高齢者向け支援という意味では、介護士の不足などはすぐに解決できない問題としてあるため、白馬ならではの「介護予防」に力を入れていきます。幸いこういう土壌があり元気なお年寄りが多いので、集まって身体を動かせる場を作るなど、要介護にならないよう健康でいていただけるための環境づくりが現状できることかなと。彼らを支えるためにも若い人の力が重要なので、子育て世代への支援も力を入れていきたいところです。

─ 非常に白馬らしいやり方ですね。外国人の移住者はどう見ていらっしゃいますか。

海外にルーツがある人の移住は増えていて、地域としてもウェルカムです。白馬は「多文化共生」に関する条例があるくらいで、インターナショナルスクールもできましたし、行政サービスの多言語対応も充実しています。村民は比較的慣れ親しんできているところなので、地域のコミュニティに溶け込んでほしいですね。外国人の多い街ならではの政策が求められるので、行政サイドにそういうアンテナの高い人がいるべきだと思っています。

 

多様性を大切に、100年先も世界に愛される白馬を目指して

─ 水際対策が緩和され、これからインバウンド観光客も戻ってくると思われますが、今シーズン、そしてこの先3年後、5年後と、白馬村としてどのようなビジョンを描いていますか。

近いところでは、この冬。まだまだ飛行機の便数も限られますが、多くの人が来てくれると予測しています。白馬の動きに日本も追随してくれれば、というくらいリードしていく気持ちでいます。依然コロナと共存しながらにはなるので、観光客が増えたときの医療逼迫の可能性なども考えながら、村全体として受け入れ体制を作れるよう準備を進めています。3年後にはコロナ禍前の水準に戻るイメージで、2023年は再出発の1年になると考えています。


▲白馬ならではの雪質の良さを求めて多くのインバウンド客が訪れる

「オールシーズン観光地化」をずっと謳ってきているように、国内はもちろんアジアを中心とした海外の方にグリーンシーズンにも来ていただき、年間を通して世界各国からお客様がいらっしゃる状態を数年以内には実現したいですね。これから100年先、200年先もそういった場所であり続けられる環境を作っていくために、気候変動への取り組みも大きなテーマのひとつです。白馬村は気候非常事態宣言を出し、ゼロカーボンに向けた積極的な取り組みをしている地域です。白馬だけがやって気温が下がるわけではないですが、そうした取り組みをしていることが白馬の魅力にもなっていきますので、プロモーションにも結びつけながら強化したいところです。

─ スキー場の再生エネルギー化を進めたりと、国内のスノーリゾートとしては環境問題に積極的に取り組んでいる白馬村ですが、環境先進国と比べるとどうなのでしょうか。

まだまだだとは思っています。環境対策はお金がかかるわりに、かけたぶんだけ気温が下がったり雪が降ったりするわけではないので、行政として予算をつけるのが非常に難しい分野です。観光客の数として明らかに跳ね返ってきたりエネルギー自給率を上げて電気代が削減できたりすれば、やりやすいのですけれども。行政としてできていないことはたくさんありますが、あれができていないと否定しあうのではなくて、お互い一緒に住んでいく仲間として住民の皆さんとも理解しあいながら協力していきたいです。自分がやっていることも他人の取り組みも「いいじゃん」と認め合う空気を醸成していきたいですね。

─ 最後に、2023年に観光地としての白馬村が最も力を入れていきたいことはなんでしょうか。

これまでに築いてきたイメージや関係性がありますので、ガツガツしたプロモーションをしなくても、ウェルカムな姿勢さえ見せられれば一定のお客様には来ていただけると思っています。日本はまだ世界的には、コロナ禍においてあまりウェルカムではないように見られているので、そこを白馬発信で変えていきたいです。新型コロナウイルス感染症に対する向き合い方は国によってそれぞれになってきている中、日本はまだ感染症と付き合っていく社会であり、マスクやパーテーションや消毒などをどうするかといった問題もあります。この1年に関しては、国の状況を見ながらのコロナ対策が重要になると考えています。

白馬のユニークさを言語化するとすれば「多様性」です。多文化が共生している「人の多様性」も、豊かな環境が生み出す「自然の多様性」も。このユニークさを前面に出しながら、安心してお越しいただけるようコロナ対策もしっかりとして、諸外国に対して受け入れ体制であることをアピールしていきたいと思っています。

取材/文:鰐渕涼子

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