インタビュー
多言語対応のデジタルブックの普及を目指す
出版や印刷業界など、紙メディアに関わる人なら誰もが知っているモリサワ。しかし、インバウンド業界ではあまり知られていない会社である。
プロ向けのフォント(書体)で国内NO.1シェアの会社で、日本に流通する多くの印刷物にモリサワの文字が使われており、実はモリサワの文字は日本人なら誰もが毎日目にしているであろう。
そんなモリサワがインバウンドにも取り組んでいるという。自社の強みであるフォントや組版(文字を並べる)技術を応用し、日本語の印刷物を多言語対応のデジタルブックに変換して、専門誌には載っていないディープな観光情報を外国人に届ける。
目次:
概要について
インバウンドに取り組んだ経緯
利用者の感想
今後のさらなる展開案
貴社の概要について教えてください
弊社は1924年創業、今年で91年目の会社です。
印刷物を制作するための機械である写真植字機の発明以来、情報発信に関する技術・製品づくりに尽力してまいりました。現在は、デジタルフォント(書体)の開発や販売が主な業務となっております。
約6年前にiPhoneをはじめとしたスマートデバイスが普及してきた際に、電子書籍化のニーズが高まりました。その際に小さな画面でも読みやすいようにと電子書籍を制作するツール(MCBook, MCMagazine)を開発。この電子書籍化への対応の延長線上にインバウンドがあったのです。
インバウンドに取り組んだ経緯を詳しく教えてください?
当社では元々、多言語のフォント、組版の技術を持っていました。
2020年の東京オリンピックが決定した際、当社の技術を使い、何か貢献出来ないかと考えました。
あるインバウンド施策をおこなっている方にヒヤリングをした際に、多言語の印刷物を作るためには、「翻訳」、「レイアウト」、「印刷」と言語毎に掛かってしまい、コストと時間がとても掛かることが課題を持っていると分かりました。
そこで当社の技術を使い、コストや制作時間を抑えた多言語の情報発信が出来ないかと考えました。
「読みやすい」電子書籍を制作するための技術はモリサワオリジナルの技術で作られています。ユニバーサルデザインに準拠したフォント、独自の組版技術。さらに電子雑誌の配信技術を応用した電子配信の技術。
そこにインバウンドに対応させるため、1つのエッセンスとして、「自動翻訳機能」を加えMCCatalog+は誕生しました。
目的は、専門誌には載っていないディープな情報の掘り起こしです。日本にはまだたくさんの魅力が隠れています。それを多くの外国人に知ってもらいたいというニーズはあるものの、予算の問題で実現できないのが現状です。
我々の技術と自動翻訳を合せたことで、「安く」「早く」「多く」の3つを実現。
自動翻訳よりも精度の高い人力翻訳を望まれる方は、オプションで対応可能ですが、情報の質よりも情報量を求めている方にはフィットするでしょう。
電子書籍等、貴社の実績と利用者の感想を教えてください
大阪市浪速区様はモリサワの本社の所在地としてご縁があり、既存の日本語観光ガイドブックをMCCatalog+で多言語化、配信しております。
関西空港からもアクセスが良く、通天閣のある新世界など魅力的な観光スポットがありながら、これまで訪日外国人観光客に向けた情報発信が不十分でした。限られた予算の中で日本語の印刷物を活用し、多言語化と電子配信が同時に出来ることが魅力的とのお話を頂きました。
また、埼玉県三芳町様と協働で、同町が発行する広報誌「広報みよし」(全国広報コンクール内閣総理大臣賞受賞)をスマートフォンやタブレット端末に向けて広報として日本初の多言語電子配信を2015年8月1日より開始しました。
三芳町様は「東京から一番近い町」として、町の情報を全世界へ知ってもらえること、また町内に住まれている外国人にも町の魅力はもちろん、暮しに必要な情報を知ってもらえるのはとても役に立つとお話を伺っております。
その他、地域情報の多言語発信として、『仙台朝市通信』(仙台)、『Fのさかな』(能登)というフリーペーパーがあります。
どちらも地元発信の地元しか知られていない情報を世界へ発信したい! という思いで、活用頂いております。
今後のさらなる展開案を教えてください
この多言語機能を持つデジタルブックは、「Catalog Pocket」というアプリを通じて世界へ発信されます。2015年8月現在、14の国と地域のApp StoreやGoogle Playで無料でダウンロードすることが出来ます。
現在、5カ国語対応(日本語・英語・中国語簡体字・中国語繁体字・韓国語)となっておりますが、訪日外国人数の国別推移を見て、必要に応じてさらなる言語拡張をおこなっていきたいと思っております。
また、先日のバージョンアップで多言語対応の自動音声読み上げの機能も実装されました。これまでの「読みやすく」から「誰にでも伝わる」をコンセプトに、自治体様のアクセシビリティに対応した多言語情報発信のお役に立てればと考えております。
http://www.mccatalog.jp/
http://www.morisawa.co.jp/
取材後記:
2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まった際に、株式会社モリサワとして、是非とも貢献したいと考えたそうだ。1964年の最初の東京オリンピックの際に、テレビ放送でのテロップ作成の協力をした。今回も何らかの形でと検討していたところ、インバウンドという発想に至ったそうだ。
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