インタビュー

アジアインバウンド観光振興会(AISO)理事長 王一仁 氏

2015.07.01

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インバウンドのルールづくりとインフラが重要!

日本のインバウンドの草分け的存在、王一仁氏。20数年前からいち早く日本のインバウンド旅行業に目を付けて「総合ワールドトラベル株式会社」を設立。2006年には、インバウンドの活性化を目指し、アジアインバウンド観光振興会(以下AISO)を立ち上げました。現在も理事長としてインバウンドの発展を後押ししています。インバウンドが注目されているなか、AISOの現状について、うかがいました。

目次:
AISOの概要について
インバウンドのルールづくり
AISO活動内容について
今後の活動について
インバウンドへの提言

AISOの概要について教えてください

AISOは、ランドオペレーター(※1)の団体です。
設立が2006年7月で、東京都認可のNPO法人として発足しました。
2013年4月には、一般社団法人化しました。

※1:ランドオペレーターとは、海外の旅行会社からの依頼で、国内でのインバウンド支援をする手配会社。旅行会社のライセンスを持っている場合が多い。

設立の意義としますと、インバウンドに対する日本側の法整備が整っていないために生じた、海外からの直手配(ダイレクトブッキング)に対するランドオペレーター各社の危機感が、設立当時あったのです。粗雑な旅行商品が出回ってしまいますから。

そこで、志を同じくするランドオペレーター各社が集まってAISOを設立し、観光行政を所管する国土交通省に対して、諸外国のインバウンドに関する法整備・インフラ整備の現状、並びに、インバウンドにおけるランドオペレーターの役割と意義についてお伝えして参りました。

ランドオペレーターなど旅行会社が正会員で、ホテル、バス会社、地方自治体など施設が賛助会員として構成されています。現在は200社を超える会員数になりました。

 

インバウンドのルールづくりについて教えてください

やはり、インバウンドのルールづくりは大切です。
特に重要なテーマとして3つあり、まずはバス問題です。当時は無届けのバスがありましたが、最近は厳しくなりました。ところが、今度はバス不足ということで困っています。営業地域の問題など、バスを自由に動かせない法律があり、柔軟な対応も必要でしょう。

2つめは、ガイドさんの問題です。アジアからの場合、9割がノーライセンスガイドで、現地の日本語を話せる人が来日する場合が多く、ショッピングのキックバックで賄っています。

国によっては、ノーライセンスガイドは逮捕されることもあり、インバウンドの先進国では厳しく守られています。一方、ライセンスを持っていても、旅行会社が求めるホスピタリティが足りないなどのミスマッチがあります。

3つめは旅行会社。最近では、オンライントラベルエージェントによってダイレクトブッキングが増え、国をまたぐため、税金の問題が曖昧な場合も出てきました。せっかくの利益が日本に残らず、これでは日本の雇用問題にも影響しそうです。

 

AISO活動内容について教えてください

総会は年に3回あります。
前回は幕張メッセで開催されたアジアトラベルマートに合わせて、臨時総会を実施しました。
それぞれ得意としているエリアを代表して、ランドオペレーターから現状を報告してもらいました。
フィリピン、シンガポール、中国本土、香港、タイ、台湾などで、私は、香港市場についてお伝えしました。
1ヶ月間の取り扱いが、12万人になり、驚くほど増加しています。香港は800万人弱の人口ですから、いかに多いかわかるでしょう。
FIT市場が8割になっていると現地の旅行会社の声があり、FITパッケージが望まれています。香港からの就航は9都市のみで、さらに地方へもっと足を運びやすいFITパッケージが必要だという意見でした。

次回は、秋のツーリズムEXPOの開催期間中にあります。
賛助会員と正会員との対話を増やしたいという意見もあり、将来的には、1対1での商談会形式にしていきたいですね。

さらにAISOの活動としては、2011年の東日本大震災の際に、風評被害でぱったりと外国人旅行者が来なくなり、東京電力に損害賠償交渉をいち早く進めました。
おかげで倒産を免れた会社がいくつもあります。

風評被害対策として、同年7月には、アジアからのメディアを招待して、視察ツアーを決行。オーストラリアを含め8カ国から来日し、伊豆、富士山など1週間かけて案内して、地元の市長も参加いただき、歓迎会をやりました。海外に向けて安全をアピールしたのです。

今後の活動について教えてください

AISO全体の取り扱い人数は、推計、200万人〜300万人です。日本のインバウンド全体の約20%の取り扱い規模です。

今後、国とのルールづくりにおいての意見交換を積極的にやっていきます。
観光立国を目指すうえで、これまでの隙間産業から主要な産業として発展させるべきですから、そのためにも意見を述べたいと思います。

本年の7月1日には、国土交通省自動車局の方、バス産業活性化対策の方など計3名に来ていただきました。
「貸切バス手配状況及び行政への要望等」をまとめ、書面にしたものを提出、本音での会談ができました。
国土交通省からも今後このような会談を定期的に開催したいとのことでした。

AISOでは、6つの部会活動があり、ますます活発化するでしょう。
政府機関担当部会は、国交省自動車運輸局へバス規制緩和の進言、観光庁へダイレクトブッキングのデメリット訴求と改善提案など。
賛助会員連携推進部会は、賛助会員と正会員の交流の場作り、賛助会員からの声を拾い旅行商品企画提案など。
インフラ整備・コンテンツ開発担当部会は、新たな旅行コンテンツの発掘、インフラ整備の提言など。
観光ガイド担当部会は、全国の通訳ガイド団体(ボランティアを含む)との連携、通訳案内士・旅程管理主任者資格取得のためのセミナー開催(日本国内・海外)など。
AISO事業推進担当部会は、AISO予約センターの構築、AISOシャトル便の運営など。
全国自治体・全国支部拡大部会は、全国自治体(都道府県別)との連携構築、国際交流促進など。

 

インバウンドへの提言がありましたよろしくお願いします

訪日外国人の地方への誘客が必要でしょう。JNTOもそうおっしゃっていますが、現場としてもやはり、ゴールデンルート(※2)はパンクしそうですから。

(※2)ゴールデンルートとは、東京〜大阪間の太平洋側のルートを利用する初心者向けの人気コース。

例えば、香港では、中国大陸からの訪問が多過ぎて、いろいろな弊害が出てきました。
市街地では、地下鉄のラッシュ時には5回待たないと乗れないほどです。またバスが増え過ぎて、排気ガスで溢れています。生活商品が売れ切れてしまい、地元の人が買いにくくなっています。
困っている地元からの要望に応え、法律が変わり、水際対策が取られるようになりました。
深圳から香港へは、マルチビザで1日に何度でも行き来ができましたが、今は、週に1度きりとなりました。
6月1日から中国内でのブランド商品の税金を半分にして、本土で購買しやすい環境を整えました。
中国は法律が驚くほど早く変りますね。

台湾では、中国から1日に入れる人数の上限を設けるという対策を取っています。

一方、日本は、ゴールデンルートがパンク寸前ですが、地方はまだ余力があります。ここが、香港や台湾とは違う点です。
もっと分散すべきです。

そのためには、補助金を使って、宿泊クーポンを使うのもいいでしょう。
地方を知ってもらうように、ファムツアーの実施もいいでしょう。
地方へのダイレクト便も増やすのもいいでしょう。
施策はいろいろとあります。

ルールづくりとともに、インバウンドインフラを高めることも重要です。
交通では、LCCが深夜に離発着する際に都心部と結ぶバスなどが必要ですし、観光地での2次交通も不足しています。また、wifi環境、通訳電話の整備など、外国人旅行者のためのインフラ整備の促進を希望します。

 

取材後記:
王さんは、インバウンドにはパイオニア的な存在で、長く携わってこられた。以前は、隙間産業だったが、今後は日本の主要産業に育っていくと確信されていた。だからこそ、ルールをしっかりと定めないといけないということだろう。

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