インタビュー
世界の衛星放送をホテルに配信!
ホテルで自国のテレビ番組を視聴できるのは、今ではスタンダードになりつつある。しかし訪日数の増加により、英語圏以外の国などなかなか追いついていないのが現状だ。衛星放送のノウハウを持つ株式会社アルジーさんに現状をお聞きしました。
目次:
インバウンドにおける経緯
衛星放送とはどのような内容か
導入したホテルからの反響
今後の展望
貴社の概要およびインバウンドにおける経緯を教えてください
弊社は、1995年に放送映像に特化した業務を行うために設立した会社です。
編集スタジオとしてスタートし撮影や収録、放送送出、衛星通信、データセンターと業務を拡大し、地上波TV局をはじめ海外のTV局や通信社にもサービスを提供しています。
自社で編集や通信などの設備をはじめ衛星中継車なども所有しています。
1996年にCSデジタル放送が日本で開始された際に放送送出業務を開始し、その関連業務として1998年頃からは、海外衛星を受信してコンテンツを提供する案件にも関わり、そのノウハウが蓄積されていきました。
2013年の秋に外資系のホテル様から、衛星放送受信に関する相談がありお聞きしたところ、映像にノイズが入ったり受信不能になって困っているとのこと。実際にお訪ねすると、本来は直径3mのパラボラアンテナではないと安定した受信ができないものを、1.8mの小さいパラボラアンテナを使っており、しかも屋内の窓越しに置かれていたのです。試行錯誤してノイズを無くそうと努力しましたが、うまくいきませんでした。
代替え案として、別のやり方として弊社の自社設備で受信してIP伝送する方法を提案しました。テストしたところ非常に好評で、そのまま契約になったのです。
そこに商機を見いだし、2014年12月から商品化することができました。
衛星放送を受信して海外TVをホテルに提供し、ホテルの標準サービスとして普及させることを目指しています。
衛星放送にはどのような内容があるのでしょうか?
海外衛星放送は全世界に数多くあります。把握しているだけでもスクランブルを掛けずに無料提供しているチャンネルが最低400はあるでしょう。
例えば、日本発の衛星放送ですと、NHKワールドが3つのチャンネルを流しています。ニュースを中心に日本語放送、英語放送、そしてNHKの多様な番組を流すプレミアム放送があります。これは、海外に対して日本文化を発信するというスタンスで、日本人渡航者や海外居住者向けの日本語放送と外国人向けにプロモーション目的での英語放送があり、プレミアム放送以外は無料です。
このような目的をもった放送が海外には多数あり、自国民向けや海外向けプロモーションを目的に無料しているところが多いのです。
一方、有料放送というものがありますが、スクランブルが掛けられ契約者以外は視聴できないようブロックされています。CNNのようにニュース専門、他にスポーツや音楽の専門があります。
弊社は安価でインバウンド向けに情報を届けるのがミッションです。ですので、有料放送では、契約のお手伝いはしますが無料のチャンネルを主にご提案しています。
弊社はコンテンツ販売業者ではなく技術サービス提供業者だからです。
衛星は、約3万6,000キロメートルの上空にあります。自社設備のパラボラアンテナを駆使して世界の98%、ほぼ世界中の地域の放送を受信できます。
導入したホテルからの反響はいかがでしょうか?
衛星放送を直接受信しているホテルがありますが、実際のところご苦労が多いと聞きます。アンテナ設置にあたっては大きなコストが発生しますし、設置の際に建築申請も必要になります。運用を開始すれば台風などによってずれたり壊れることもありますし、放送局によっては、使用する衛星を変えてしまう場合があり、突然、映らなくなります。
そうなると、アンテナの角度を変えて新しい衛星を探すしかありません。しかし専門の技術がないと難しいのです。
一方、我々のサービスは台風などがあったとしても弊社が対応しますし、雪などの対策としてアンテナにヒーターが設備されているため雪や雨による受信障害もほぼありません。また、衛星の変更があればこちらで対応するだけです。ホテルが自社でアンテナを持っていると、対応が手間になりコストもかかるでしょう。
実際に宿泊した外国人からの反響として、自分の国の放送が日本のホテルで見れるとは思ってもいなかったとご好評を頂いていると聞きます。
外国人観光客は言葉が通じにくい日本に来て不安があると思いますが、ホテルで休む際に母国語の放送があることが何よりの安らぎになると思っています。
スカパー!やケーブルTVの外国放送もありますが、それほどチャンネル数が多くないのが現状です。
弊社のサービスではタイ人が増えた、台湾人も増えた、中国人が来なくなったなど、インバウンド層の状況に応じて伝送チャンネルを簡便に変えられます。
伝送するチャンネル数だけをご契約いただくため、コンテンツである局自体を変更することが可能だからです。宿泊者層に応じてフレキシブルに変更することができるのです。
短期の対応でも柔軟に対応できます。例えば、ある国から団体で貸し切りになるとき、全部をその国のチャンネルにすることも可能になります。
また従来の衛星放送の契約は、テレビ一つや部屋数に対しての課金が多く、客室数が多いホテルではコスト負担が非常に大きくなります。我々は、ホテル1軒あたりのチャンネル数の契約ですから、リーズナブルな価格での提案ができます。現在、多いホテルで7チャンネルの契約があります。
今後の展望をお聞かせください
海外に旅行すると、現地のホテルでテレビをつけると30チャンネルぐらい当たり前です。アメリカのホテルなどでは100チャンネルぐらいあります。私も海外に旅行した際のホテルでは、やはり日本のNHKワールドも視聴しています。
日本の常識は海外の非常識と言われることがあります。
それは海外のホテルでは、外国のテレビ放送が多数入っているのが当たり前であり、日本は非常に遅れていると思います。
「お・も・て・な・し」と言いましても、海外の常識すらできていないとマイナスの印象になるかもしれません。今後は、海外の衛星を数多く視聴できるのがスタンダードになって欲しいです。
そのためには、いかに普及させるかが重要です。しかしホテル設備のリース契約に紐付いていることなどによって、簡単には変更できないのがネックになっているのが現状です。現時点で導入が進んでいるホテルは、新築か設備のリニューアルの時期に差し代わってきたタイミングが多いです。
これを打開するべく代理店さんなどと協業も進めていき、何とか2020年の東京オリンピック・パラリンピックを目標に増やしていきたいと思っています。
株式会社アルジー
http://www.aruji.com/
取材後記:
映像の高い技術を持つ会社がインバウンドに関わるようになり、今後、ホテルの衛星放送のチャンネル数が飛躍的に伸びる可能性があります。
日本の技術力を結集して、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでにインバウンドの受け入れ環境整備が進みそうですね。
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