インタビュー
新しいステージに入るMICEのトレンド
訪日外客数は伸びているものの、数字ばかりに気をとられ、その効果や質については後回しになりがち。しかしその中でMICEの分野は、良質な交流人口を増加させることで、ビジネスインフラを拡大させる可能性が高い。世界各国との熾烈な誘致合戦をいかに勝ち残るか、その秘訣をうかがった。
目次:
日本コンベションサービス株式会社の概要
MICEの意味とその意義
最近の国際会議取り組みについて
グローバルな誘致競争に勝つために
会社の設立経緯と活動内容について教えてください
弊社はPCO(Professional Congress Organizer)と呼ばれています。PCOとはコンベンションビジネスを取り仕切る専門的な会社のことです。1967年の設立で、約50年の実績があります。
そもそもは、通訳者の派遣からスタートしました。
あるとき、数十人の通訳派遣のオーダーがまとめてあり、それが国際会議だったのです。そこにビジネスチャンスがあると先代の社長が考えコンベンションの運営も手がけるようになりました。
現在は、社員数が約250名で、支店は、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、神戸、京都、福岡にあります。
国際会議、医学薬学学会、企業ミーティング、マーケティングなどのユニットに分かれています。
国際会議の運営は、当日だけでは無く、数年前から事務局の運営として仕事がスタートします。そこでは会議までの総合窓口として携わり、弊社オフィスの入り口には各事務局の銘板が並んでいます。
我々は国際会議の運営専門会社であり、会議の開催件数が増えないと売り上げが伸びません。そのため、海外からの誘致活動もビジネスとして扱いコンサルにも力を入れるようになりました。誘致先は、海外の国際事務局や理事会などになります。
国際会議の誘致は、オリンピック開催の誘致と同じようなイメージとなります。誘致競争して勝ち残らなければなりません。各国との競争が激しく、早くからの戦略的行動が勝敗を決めます。
誘致行うための体制づくりを手伝い、都市の成長戦略に連動させた誘致戦略を提案します。
誘致するためには、地元開催の必然性を組立、それをプロモーションに活かします。
エリアとしての開催価値の明確化、施設の能力やアクセスの利便性がどうなのか、地元の関係者をどのように連携させるのかなどコンサルします。
最近話題のユニークベニュー(注1)の開発、大規模会議で求められるサポートする人数が大がかりな場合は、ボランティアの確保その教育など一連の導入から運営システムの構築を手伝うこともあります。
(注1:ユニークベニューとは、美術館や博物館、歴史的建造物などで、会議やレセプションを開き、地域の特性を演出することで、通常のホテルでは味わえない特別な感動を参加者に体験していただくものです)
国際会議にもトレンドがあり、新規国際会議場の設計時にアドバイスを求められることも最近はよくあります。
国際会議に関する業務はハード面、ソフト面と多岐にわたりますね。大型国際会議誘致のためには、首相の推薦状をもらいにいくこともあります。観光庁の有識者会議に社員が委員として入り、政府への政策提言に関わることもあります。
約50年の間に、国際会議の専門会社として、どんどん進化し専門領域を拡大しています。
MICEの意味とその意義は何ですか?
MICEとは、Meeting(会議・研修・セミナー)、Incentive tour(報奨・招待旅行), Convention またはConference(大会・学会・国際会議), Exhibition(展示会)の頭文字をとった造語と言われていますが、全体MICEのコンセプトを理解することが難しくなっています。
MICEと観光とはイコールではありません。またMICEとインバウンドともイコールではないのです。
観光で言うとこころのSIT(Special Interest Tour:特定目的旅行)の1つと考えたほうが分かり易いでしょう。SITとは、特別な分野に対する、目的をもった旅行のことです。MICEの場合は、観光でもビジネスの目的に特化しているということです。
そのため、会社や大学がその費用を負担することが多く、消費単価が大きくなる特徴を持ちます。
確かに消費単価は大きいので注目をされますが、昨年の約1300万人のインバウンド数と比較されると、MICE訪日者数の絶対数が少なくないため、MICE参加者による経済効果が埋没しているように見えます。
しかし、国際会議で来日される、各国の元首、ノーベル賞級の大学教授、NPO/NGOのリーダーたちなど社会的影響力の高い人々が多く、日本の知識人に与える効果は計り知れません。またビジネスイノベーションへの効果が期待されるなど、観光とは比較できない側面があります。そのためMICEは産業インフラ的な機能を持っているとも考えられます。
インセンティブ旅行については、インバウンドの高付加価値商品としてみることができます。
企業がお金を出すインセンティブ旅行は、大名旅行な性格を持ち、それはラグジュアリー旅行に似ていることからインセンティブ商品はラグジュアリー商品に転用が比較的簡単にできそうです。インセンティブ旅行は高品質な旅行づくりの開発につながり、高級和食などの普及拡大に寄与する可能性もあります。
20年前に、第1次コンベンションブームがあり、国際観光都市を目指す都市が多く、各地にコンベンションビューローが設立されたのもこの時期です。
一方ここ最近、第2次コンベンションブームと言うべき全国にMICEブームが広がっています。その背景にあるのが地方都市消滅の危機感です。政府による地方創生の政策とも連動しているブームと思われます。
そのためMICE による地方創生、新規国際会議場建設に連動したMICE戦略の立案や誘致体制の構築を支援するような引き合いをいただく機会も多くなっています。
最近の国際会議取り組みについて教えてください
先ほども申し上げましたように、競争が激しくなった国際会議の誘致はグローバル化することで戦い方が変わり、新しい次元に移ったと言えるでしょう。総力戦の様相を呈しています。
また国際会議のやり方も進化しているようで会議進行のノウハウが問われ生産性が問われています。
以前の国際会議は、セレモニー型といった社員総会のように多くの参加者が一堂に会し、代表者が演説するようなスタイルです。短時間利用の広い会場が求められます。
一方、最近多いのは、会議の内容が複雑になり合意形成型と言ったものです。ここでは多くの参加者が離散集合を繰り返しながら、「集合知」を活用して新しいアイデアや合意形成を行うものです。この場合は広い会場だけではなく、数多くの小会議室がもとめられ、多目的な大規模空間も必要になります。会議期間も長くなり宿泊施設も必要になります。
例えば温暖化の問題など、ルールを決めるために多くの議論が必要となりますね。
問題解決のために、グループ討議、展示による共有が必要でしょう。さらに議論を促進させるための技術の高いファシリテーターも必要でしょう。
専門分野に分かれて討議して、それを上に戻すには、1日や半日では終わらない。1週間かかる場合もあります。
このようなスタイルに、古い会議施設はでは対応できず、「集合知」による会議生産性を高める運営ノウハウの提供が必要になります。このような変化に十分日本は対応できているのかこの点に私は危機感を抱きます。日本の課題として、ミーティングプランナーが不足している現状もあります。
グローバルな誘致競争に勝つためには?
アジアでは、MICEの誘致が急増するなか、日本は伸び悩んでいると危惧される声を多く聞きます。しかし、これは相対的に下がったのであり、落ち込んでいるのではないのです。
MICEは経済成長や産業創出には有効な手段だと、各国が気づき急激にアクセルを踏み込みました。特にシンガポールが早く、韓国やメルボルンが続いています。
一方国内では、今まで全国約50の都市が並んで同じような誘致活動を行っていましたが、これでは競争に勝てないと観光庁も考え選択と集中の政策に転換しました。
観光庁はグローバルMICE戦略都市5都市+強化都市2都市を選択し、本気で競争に挑み始めました。これからの成果に期待が集まっています。具体的には、東京、横浜、京都、神戸、福岡の戦略5都市と名古屋、大阪の2都市です。
グローバル競争に勝つためには、マーテイングが重要で、プロモーション力、MICE受入体制強化などが問われています。競合地域との駆け引きなど専門性の高いノウハウが求められます。
人材も国際会議の誘致力を高めるファクターとなると、先ほど述べましたが、不足を補うためには、育成が大事です。
グローバル人材を育成するために、観光庁の予算でICCA(国際会議協会)からマーケティングの専門家を招聘し、そのカリキュラム編成を立案することもあります。
競争や運営の内容がグローバル化するなか、世界のトレンドを知って先手を打って行く必要があります。日本では何が不足しているかを世界的視点に立たって考え、必要であれば海外から不足しているものを導入する場合もあります。
我々は、MCIという世界最大とも言えるPCOとアライアンスを組んでおり、情報交換や共同セールスを常にしているので、最新のトレンドを把握できます。
MICEを振興させ、グローバルな誘致力を開発するためには、デスティネーションマーケティングの視点が重要と思われます。いまこそ地方創生にデスティネーションマーケティングを投入し、MICEというエンジンを使って、地域を成長させるべきではないでしょうか。そのような新しいMICEブームとなることを期待しています。
取材後記:
国際会議誘致というのは、オリンピックの誘致競争と同じだという。話の節々で、「戦う」、「勝つ」というキーワードが何度もでた。そこから逆算して受け入れ側は、何をすべきかをグローバル視点で俯瞰して、戦略を練っていく。進化する国際会議ビジネスを見据えているのだろう。
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