インタビュー
前回(Part1)では、岐阜県高山市が実践するインバウンド戦略の中でも、地域の魅力の見極め方のコツ、海外へのプロモーションの際のポイントについて紹介した。
本編(Part2)では、引き続き、行政の海外プロモーションに欠かせない「民間企業の巻き込み方」や、プロモーション動画作成のコツ、行政のインバウンド対応に必要不可欠な受入環境整備の方針について、引き続き、田中氏にお伺いした内容を紹介する。
<目次>
- 地域の魅力の見極めのコツ、それは「今あるもの」で勝負する
1-1.地域の魅力を絞り込んだうえで「普段の暮らし」をいかに魅せるか
1-2.自治体の方が見せたいものと、外国人観光客が見たいものは違う - プロモーションにあたっての高山市のこだわりとは?
2-1.一番大切なことは、何においても「人間関係」
2-2.実績を出すためのコツは、積極的な民間企業を応援すること
2-3.プロモーションビデオは最大3分 動画制作も「絞り込み」が必須 - 受入環境整備における行政の役割は『インフラ整備』
3-1.高山市のコンセプトは「一人歩きできる街づくり」
3-2.MAPの言語はできるだけ豊富に、ただし街中の看板はシンプルに - インバウンドに本気で取り組むならば、真剣さと覚悟が必要!
4-1. このままでは…という危機感が高山市の原動力に
4-2. 「継続は力なり」5年後10年後を見据えた計画が結果へつながる?! - インバウンド対応にあたっては、民間企業の巻き込みが必須!
5-1.行政の存在意義は『地域住民の幸せ』を追求すること
5-2.行政ができることは、「売るサポート」実際に売るのは民間企業 - 訪日外国人の集客には、周辺地域との連携が必要不可欠!
6-1.競争ではなくて共生! 周辺エリアとは積極的に連携を
6-2.考え方の基本は、「外国人視点」連携先を選ぶ際のポイントは? - 最後に「インバウンド成功の鍵は、そこに住む人々」
- 地域の魅力の見極めのコツ、それは「今あるもの」で勝負する
インバウンド対応に欠かせない、“商品・集客・受入環境整備”の3つを制するために
2.プロモーションにあたっての高山市のこだわりとは?
2-2.実績を出すためのコツは、積極的な民間企業を応援すること
民間企業と同様、高山市でも実績を出すことに焦点を当てた取り組みをしています。高山市にとっての「実績」とは、高山市の経済に貢献することだと考えています。当初は、高山を訪れる人を増やすことが目標でしたが、今は宿泊者を増やすことに注力しています。宿泊していただけると、宿はもちろん、飲食店、お土産物屋、観光施設など、利用する施設の幅が広がり、高山市への経済貢献度が高くなります。
高山市もインバウンドの取り組みを始めたばかりのころは、実績を出せずに苦労しましたが、やり方を変えて以来、目に見えた効果が出るようになりました。それは、「積極的な姿勢を持つ民間企業を応援する」ことです。
これは、不平等に扱うということではなく、高山市のMAPには、すべての宿泊施設を掲載するなど、基本的なインフラの整備は行っています。
しかし、民間企業の中にも、外国人を積極的に受け入れたいところと、そうではないところがあります。例えば、海外の旅行会社や現地メディアへ営業に行く際、積極的な民間企業の方にも同行していただき、実績を作ることにこだわりました。
一社が実績を出すと、当初は消極的だった企業も刺激を受けて積極的になり、その企業も結果を出すようになる。このようにして、成功の連鎖が生まれるのです。自治体の方は、どうしても「平等」を意識して行動を控えがちですが、積極的な企業を巻き込んで取り組み、成功事例を作ることも、地方自治体の大切な役割だと考えています。
2-3.プロモーションビデオは最大3分 動画制作も「絞り込み」が必須
海外現地訪問の際の営業ツールとして、多くの地方自治体がプロモーション動画を作成していますが、この動画にも落とし穴があると感じています。
最近は、Youtubeに様々な動画が掲載されていますが、そのうちの一つを、どれでもよいので見てみてください。
その動画を何分見ることができましたか?3分でも長く感じなかったでしょうか?ましてや、10分の動画となると、早送りして飛ばしてしまいますよね。ところが、地方自治体の方が作る動画には、15分、20分といった長さのものも多く見受けられます。これでは、中身もぼんやりしてしまって伝わりません。
高山市では、1本で完結する3分の動画を8本作り、その中から、興味がある分野の動画を選んでもらう、というやり方をとっています。動画を「見る人の視点」も考慮することが大切だと感じています。
3.受入環境整備における行政の役割は『インフラ整備』
3-1.高山市のコンセプトは「一人歩きできる街づくり」
高山市は外国人観光客の受け入れにあたり、『外国人が一人歩きできる街づくり』というコンセプトを掲げています。そのために力を入れていることの一つに、無料Wi-Fiの整備があります。高山を訪れる観光客のために用意している無料Wi-Fiは、メールアドレスなどを登録していただくことで、7日間無料でインターネットに接続できます。
これには、3つの目的があります。
1つ目の一番大きな目的は、観光客の方にWi-Fiを利用していただくことです。メールの送信や情報収集はもちろんのこと、旅行中に撮影した写真をSNSにもアップできます。こうしたSNSへの投稿は、高山のプロモーションにもつながります。
2つ目は、観光客への情報提供です。観光情報はもちろんのこと、災害発生時には緊急情報も提供でき、安心して高山に滞在していただくための環境整備としても機能します。
3つ目は、マーケティングデータとしての活用です。無料Wi-Fi接続時に、メールアドレスのほかにも、国籍や性別、年齢など、いくつかの情報を入力してもらい、そのデータをマーケティングに活用しています。また、帰国後に、登録いただいたメールアドレスにアンケートを送付し、回答していただくこともあります。
外国人の方にとっては少し手間がかかるのですが、集めたデータを高山市の施策に反映させるなど活用しています。
3-2.MAPの言語はできるだけ豊富に、ただし街中の看板はシンプルに
Wi-Fi環境の整備以外で、高山市が取り組んでいるインフラ整備の一つに、多言語MAPやパンフレットなどの各種ツール作成があります。英語、簡体字、繁体字、ハングル、タイ語はもちろんのこと、スペイン語やフランス語、ヘブライ語など様々な言語に対応しています。
また、パンフレットに関しては、国によって興味関心が異なることを踏まえ、表紙やコンテンツを変えて、国/地域別の冊子を作成しています。
一方で、街中に設置する道路標識や看板などは、景観や雰囲気を考慮して、英語かローマ字で表記しています。多言語化する箇所と、限定的な多言語化にとどめる箇所を分けて、メリハリをつけて対応しています。
前編では、2回にわたって、人口の5倍以上もの外国人を集客する高山市のインバウンド戦略を「地域の魅力・プロモーション・受け入れ環境整備」の3つの観点から紹介した。
後編では、行政のインバウンド対応に欠かせない民間との連携、市民との連携、周辺自治体との連携をうまく進めるためのコツは何なのか、「連携」に焦点を絞って紹介する。
高山市役所 企画部 部長 田中明 氏
1961年岐阜県県高山市生まれ。
大学を卒業後、都内商社に勤務し貿易を担当。
昭和62年、高山市役所入所。16年間の国際交流担当を経た後、教育委員会、久々野支所次長、地域振興室長(課長級)、地域政策課長を務め、平成23年4月から6年間、海外戦略部門の部長を務める。
最新のインタビュー
日本一のインバウンド向けローカル体験を創ったツアーサービスMagicalTripが、未経験ガイド9割でも最高評価を獲得できる理由 (2024.07.26)
やんばる独自の文化体験を提供する宿の若手人材育成術「育てるよりも思いをつぶさない」の真意 (2024.04.26)
人口の7倍 62万人のインバウンド客が訪れた岐阜県高山市の挑戦、観光を暮らしに生かす地域経営 (2024.03.22)
国際環境教育基金(FEE)のリーダーが語る、サステナビリティが観光業界の「新しい常識」になる日 (2024.02.09)
パラダイムシフトの渦中にある観光業に経営学を、理論と実践で長期を見据える力をつける立命館大学MBA (2023.11.14)
2024年開講、立命館大学MBAが目指す「稼げる観光」に必要な人材育成 (2023.10.26)
【海外での学び直し】キャリア形成への挑戦、ホテル業界から2度の米国留学で目指すものとは? (2023.09.29)
広島にプラス1泊を、朝7時半からのローカルツアーが訪日客を惹きつける理由 (2023.08.04)
異業種から観光業へ、コロナ禍の危機的状況で活かせたMBAでの普遍的なスキルとは? (2023.06.09)
台湾発のグローバルSaaS企業「Kdan Mobile」の電子署名サービスは、いかに観光業界のDXに貢献するのか? (2023.05.17)
【提言】アドベンチャートラベルは「体験」してから売る、誘客に必要な3つの戦略 (2023.04.21)
世界一予約困難なレストランでも提供。北海道余市町を有名にした町長の「ワイン」集中戦略 (2023.04.14)