インバウンド特集レポート

歴史的資源を活用した観光まちづくり推進事業、住民主体の地域づくりの足掛かりに

2024.03.22

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観光庁が推進する「歴史的資源を活用した観光まちづくり推進事業」は、訪れる旅行者に対して、地域に根付く伝統文化などを生かした魅力的なコンテンツの提供と、古民家や城、社寺などへの宿泊をあわせ、滞在型の観光地域づくりを目指す取り組みだ。

訪問者だけでなく、その場に住む地域住民の視点も取り入れた「持続可能な地域づくり」への重要性が高まるなか、今回の事業が、住民主体の地域づくりに向けた合意形成や、一体感醸成の一歩にいかに繋がったのか。観光庁は、2024年3月8日に、今年度の採択地域のうち4地域の事業者と専門家による事業報告勉強会を開催した。

▲長野県上田市での視察の様子

 

歴史的資源を活用して、魅力的な観光まちづくりを目指す事業

観光庁の「歴史的資源を活用した観光まちづくり推進事業」では、地域の歴史的資源である城や社寺、古民家等における宿泊滞在型コンテンツを軸として、周辺の伝統文化等を含めた歴史的資源を面的に活用した観光コンテンツの造成を図り、魅力的な観光まちづくりを進める取り組みを推進している。

2023年度は新たに、「事業化支援事業」が加わり、全国から23地域(事業化支援事業14地域、モデル地域創出事業9地域)が 取り組んだ。どちらの事業でも、まちづくりの専門家が担当コーチとして各地域の事業者に伴走支援を行うのが特徴で、それぞれの地域で体制構築や観光まちづくりの計画策定などが行われた。

勉強会には、事業化支援事業から2地域(長野県上田市、京都府南丹市美山町)、モデル創出から2地域(福井県若狭町、三重県伊賀市)が1年間伴走支援した専門家とともに登壇し、事業に参加したメリットや今後の展望について話し合った。

今回の事業が、住民主体の地域づくりに向けた合意形成や、一体感醸成の一歩にいかに繋がったのか。勉強会に登壇した地域のうち、長野県上田市での城下町の古民家活用事例、三重県伊賀市のお城を活用したキャッスルステイの2つの事例を紹介する。

 

城下町の古民家を活用した宿泊施設拠点に、滞在型観光を目指す長野県上田市

長野県上田市には上田城と城跡公園があり、北国街道沿いの柳町周辺には城下町の風情を残す町並みが残されている。しかし城下町エリアの観光推進は手つかずで、空き家化した古民家の活用も個別の動きにとどまっていた。上田城下町観光協会の池松勇樹事務局長は「こうした現状を変えるため、柳町の古民家改修による宿泊施設を拠点とし、上田城下町で滞在型の観光を推進、歴史的景観や文化財の保全等に再投資できる仕組みづくりを目指すことを掲げ、 事業に参加した」と話す。

特筆すべきは、ほぼ半年の事業期間内で上田城下町観光協会という新たな組織を整備したことだ。「専門家によるワークショップを4回、国内5ヵ所への視察を行った。また地域内の観光関係者の合意形成のための会議を行い、最終的には既存の観光協会や行政との情報交換を定期的に開催する民間組織として整備ができた」と池松氏。さらに古民家を活用するため、官民連携で観光事業者をマッチングする仕組みの構築を進めたほか、長野大学との連携により古民家空き家調査、紅葉まつりの入口アンケート調査などを実施した。

こうした活動により古民家活用の意識が高まり、空き家の活用方法を検討するミーティングが定期的に開催されているほか、事業者のマッチングも活発化している。また外部の専門家に委託し、城下町エリアの観光資源の抽出、リスト化を行い、活用方法やターゲット設定などのノウハウをまとめて活性化計画の事業提案を作成した。「本事業をきっかけに上田城下町観光協会が発足したことで、民間が主体的に観光まちづくりを考える大きな一歩を踏み出すことができた。調査を専門的に行う機会をいただけたことで、今後の事業化の根拠として役立ち、展開スピードも速まると思う」と池松氏は話す。

▲北国街道沿いの柳町周辺 城下町の風情を残す町並み

 

伊賀上野城を軸にキャッスルステイを展開する三重県伊賀市

三重県伊賀市には伊賀上野城や史跡公園のほか、江戸以降のさまざまな時代の建物が混在する町並みなど、コンテンツも豊富に揃っている。また2019年からは市と民間企業が連携し、古民家宿泊施設を利用したNIPPONIA HOTELを展開してきた。

伊賀市が歴史的資源を活用した観光まちづくり推進事業にエントリーした理由を伊賀市産業振興課観光戦略課の辻本康文氏はこう説明する。「施設の老朽化の問題があり、また歴史的資源を活用した観光においても個々の動きが多くまとまりがなかった。観光まちづくりの象徴的な事業に地域一体でチャレンジすることで、ブレイクスルーを見出したいと考えた」

同市では今回の事業に基づく観光まちづくりを「MIRAIGAプロジェクト」と名付け、そのコンセプトを「伊賀上野城跡 不易流行キャッスルステイ」としている。

具体的な取り組みは次の4つだ。

1つ目がキャッスルステイ実証実験だ。関係者には上野城に宿泊するわけではないことを丁寧に説明した上で、国史跡、旧藩校での忍者学、伊賀上野城ガイド、キャッスルバー、近代モダニズム建築のガイド、忍者ショーを含む1泊2日のモニターツアーを実施し、オペレーションのテストも合わせて行った。

2つ目は公園施設8ヵ所の利活用調査を実施したことだ。ヒアリング調査と事業者向けの勉強会を並行して行うことで、 自治体が公有地を出資し、民間事業者出資による事業体が公共施設と民間の収益施設を複合的に整備しマネジメントするLABV方式という スキーム導入の可能性を見出すことができたという。

▲伊賀上野城守閣3階に特設された「キャッスルバー」

3つ目は歴史的資源を活用した観光まちづくり推進 まち事業に対する地域の理解と機運の醸成で、キックオフ・シンポジウムのほか講演会やワークショップを継続的に実施したことがこれにあたる。

4つ目は辻本氏が事業のゴールに設定していた「コンセプトブック」の制作だ。「まちづくりのビジョンや活動に関わった人のインタビューを中心に1冊のブックにまとめ、考えや思いをアウトプットし、共有することを目指した。今後は、今年度の事業で見えてきた課題や改善点の対策を行いながら、4つの取り組みを継続していきたい」(辻本氏)

 

事業が地域のまちづくりへの「一体感」を生み出すきっかけに

勉強会のなかで行われた「歴まち事業の重要性・活用の在り方」と題したパネルディスカッションでは、本事業でコーチを務めたデネブ株式会社代表取締役の永原聡子氏、Field-R法律事務所弁護士の齋藤貴弘氏両名がファシリテーターを務め、さまざまな議論が交わされた。同事業の特徴でもあるコーチ陣の伴走支援については「親身になって、自分たちの地域に合うアドバイスをいただけただけでなく、多くの先進事例にも触れることができた。自分たちが学ぶべきもの、取り入れるべきものが理解できた」(美山町・中野氏)、「コミュニケーションツールが導入され、 気軽にやり取りができた。プログラムの開発ではコーチが自分たちと目線を合わせてくださり、細かい意見をもらえたので助かった」(若狭町・時岡氏)などの意見が上がった。

また、事業に取り組んだメリットとしては、伊賀の辻本氏、上田の池松氏から口々に「観光庁の事業ということで地域の方の与信が得られ、それまで個別の活動をされていた地域の方たちがたくさん活動に参加して下さった。自分の地域の歴史を学ぶきっかけにもなり、まちづくりへの一体感が生まれた」との意見が挙がった。

▲三重県伊賀市では、専門家を招いての勉強会を開催した

一方で、事業期間が短いことについては「大変ではあったが、締め切りや報告の義務があることを理由に関係者の協力を得られ、スピーディに事を進められた一面もある」(上田市・池松氏)という意見や「まちづくり自体が難しいことなので、半年でできることは限られている。事業計画に多くの事を盛り込まず、本当にできることを見極めることが重要」(永原コーチ)などの声が聞かれた。

限られた時間や予算の使い方としては、若狭町の時岡氏が次のような意見を述べている。「コンテンツや事業の開発プロセスはお金が出ていくばかりなので、民間企業としては開発期間を短くしようと考えがちだ。しかしステークホルダーと関係性をつくり、資源と向き合い、内容を精査し、人を育てるためには、むしろ開発期間は長くとるべき。事業に参加したことで時間と資金を有効に使え、我々だけではできなかった挑戦ができた」。

 

唯一無二の観光資源を磨き上げ、補助から卒業し自走できるフェーズへ

伴走支援した3人のコーチからも2023年度の活動を振り返っての講評が述べられた。一般社団法人Intellectual Innovattions 代表理事の池尾健氏は「各地域で自主財源や運営資金について考えられていたところが大きな前進」とし、事業の資金に関しては、お金を得るためにどんな価値を提供するかを考える「対価性」と、お金を得るために何をすべきか、あるいは何をしたのかを説明、報告する「報告性」の2つが重要と説いた。

続いて株式会社ANGO代表取締役の十枝裕美子氏は「地域の可能性の広がりに、地域がリミットをかけている例が多く見られた。唯一無二のものを目指せる可能性があることをお伝えし、皆さんの目線、目指すところをもっと上にあげていきたい」とコメント。

株式会社いけじま企画代表取jig締役社長の池嶋徳佳氏は「事業を定着させるためには、事業スタートから1、2年で補助を受けず自走できる状態をめざしてもらいたい。また地域を訪れる方が何を求め、どんなことに感動しているか理解を深めることも大切。皆さんが愛する地域の先にある、訪れる人たちの顔もイメージしていただきたい」と話した。

最後に観光庁観光地域振興部観光資源課の竹内大一郎課長が挨拶し、今年度事業に取り組んだ事業者に向けて「今後も各地域でスピード感を持って、この事業でスタ―トした取り組みを継続していただきたい」と期待を寄せた。また、今後事業へのエントリーを検討している地域に対して「 地域に息づくストーリーを持つ歴史的資源であれば、申請対象となるため、事業に関心を持たれた方はぜひ観光庁にお問い合わせいただきたい」と次年度への申請を広く呼びかけた。

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▼2024年度の事業概要は、観光庁のHPをご確認ください。
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