インバウンドコラム

宿泊施設必見「プラスチック新法」とは? 基礎知識を解説

2022.04.27

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コロナ禍で日本国内でも急速に「持続可能性/サステナビリティ」という言葉が広がり、各企業がSDGsな取り組みを情報発信するなどの動きが目立ってきた。世界では、欧米を中心に日常でも旅行シーンでもサステナブルを意識した選択や行動が一般的になる一方で、日本での取り組みは遅れている。

入国規制の緩和が徐々に進むなか、日本の観光事業者はインバウンド再開を見据えた準備が必要だ。特に欧米豪圏の訪日客を迎えるにあたっては「サステナビリティ」に配慮した取り組みの発信も重要になる。

そのようななか、2022年4月1日に施行された「プラスチックにかかる資源循環の促進などに関する法律」は、観光業にも大きなインパクトをもたらした歯ブラシやかみそり、ブラシなどのアメニティを提供するホテル・旅館などの宿泊事業者にプラスチック製品の削減に向けた取り組みが課せられたのだ。罰則規定が限定的であることから、優先順位の低い宿泊施設もあるかもしれないが、対応は必須だ。

今回は、先日施行された新法の目的や背景、内容を解説するとともに、具体的にどのような対応ができるのか、前編後編の2回に分けて紹介する。

前編では、プラスチック新法の概況を解説する。

 

4月1日に施行、プラスチック新法とは?

2022年4月1日に施行された「プラスチックにかかる資源循環の促進などに関する法律」(略して「プラスチック新法」)は、プラスチックごみがもたらす環境負荷を減らすため、削減・リサイクルの推進を目的とした法律だ。

対象となるのは、プラスチック使用製品の製造・販売・排出事業者、市区町村のほか、「特定プラスチック使用製品」を提供する小売・サービス事業者が挙げられる。

これらの事業者には、プラスチック製品の提供方法や素材の変更など、プラスチック排出量削減のための取り組みが課せられる。対応が不十分な場合は罰則の可能性もあるため、必ず取り組まねばならない。 なお、観光業界では、主に歯ブラシやカミソリ、ヘアブラシなどを提供する宿泊施設が対象になっている。

 

経済活動における「脱プラスチック」を目指す

この法案の最終目標は、”経済活動における脱プラスチック”だ。その段階的な取り組みとして、現段階ではプラスチックの利用を規制するのではなく、事業者や自治体が、プラスチック製品の設計から製造・使用後の再利用まですべての工程で資源循環をしていくための法となっている。

これは、「そもそもごみを出さないよう設計する」というサーキュラーエコノミー(循環経済)の考えが取り入れられている。

これまで国内で実施されてきたプラスチックの適正処理である3R(リデュース:ごみの減量/リユース:再利用/リサイクル:再資源化)をベースとしながら、今回の法案では、処理方法だけでなく「素材」にも焦点を当てているのが画期的なポイントだ。

この法案では、3Rに加え、プラスチックではなく再生素材や再生可能資源(紙やバイオマスプラスチック等)を使って新たな製品を作る方向へ切り替える「リニューアブル(再生可能)」という新たな基本原則が追加された。

 

プラごみ増加による海洋汚染は、観光業にも大きな痛手

この法律制定の背景となるのが、プラスチックの廃棄による海洋汚染の問題だ。プラスチックは、例えばポイ捨てなど不適切に処分されると、風に飛ばされ川などに流され、やがて海に流れ着く。通常プラスチックは自然に分解されないため、体に絡まったり、小さく砕けたマイクロプラスチックを誤飲した海洋生物が命を落としているというニュースは、一度は耳にしたことがあるはずだ。

人間にとっては、漁業において漁獲量が減るという問題があるほか、マイクロプラスチックが体内に残留した魚介類を食べることで、私たち体内にもマイクロプラスチックが入り込む可能性もある。

和食が世界遺産に登録され、日本食が世界の注目を集めるなかで、このような問題は観光に悪影響をもたらす可能性もある。また、海洋汚染は海水浴やダイビングなどを目的にきれいな海を求めてやってくる人たちを遠ざける可能性もあり、観光収入に大きな影響を与えかねない。

 

”プラごみの減量”から”プラスチックを出さない”へ

日本では、この海洋プラスチック問題のほか、限りある資源の確保や、廃棄物の埋立処分場の不足、有害物質の環境への影響などといった課題に対応すべく、2000年に「循環型社会形成推進基本法」を制定し、先述の3Rを軸にさまざまな取り組みを行ってきた。その一環として生まれたのが、家庭や事業所から排出されるプラスチックごみの減量化に注目した「容器包装リサイクル法」や「家電リサイクル法」だ。

これらはすでにある製品が廃棄されたあとどのようにリサイクルするか、ということに焦点が当てられている。つまり、プラスチックが存在することが前提であり、根本的なプラスチック削減へのアプローチとしては不十分だ。そこで、より包括的な資源循環体制の強化を実現するため、新たなR「リニューアブル(再生可能)」に力を入れた法律が施行される運びとなった。

 

使用量にかかわらず、全宿泊施設や飲食店の対応が必須

今回、削減の義務化対象となるのは下記の12品目だ。

・歯ブラシ・カミソリ・クシ・ヘアブラシ・シャワーキャップ:宿泊事業者
・フォーク、スプーン、ナイフ、マドラー、ストロー:百貨店、小売店、飲食店
・ハンガー、衣類用カバー:クリーニング事業者

なお、前年度に5トン以上のプラスチック製品を提供する事業者は「多量提供事業者」として定義され罰則が厳しくなる。取り組みが不十分な場合は「勧告」「社名の公表」また、命令に従わない場合は「50万円以下の罰金」などが、科せられる可能性がある。

こうしたことから、年間5トン未満の事業者は「法律の対象外」と解釈するケースも見られる。ただし、ウェブサイトやパンフレットでは、5トン未満の事業者も「法律の対象」「取り組みが求められる」と明確に記載している。つまり、現時点で罰則規定や社名公表などはないものの、すべての宿泊事業者が法律に沿った対応を求められているということだ。

 

脱プラに向けて、宿泊施設は7つの方法から選択

宿泊事業者が脱プラを見据えて対応すべきアメニティは、歯ブラシ・カミソリ・クシ・ヘアブラシ・シャワーキャップの5つ。それらの削減方法についても国から指定されているものの、どの方法を選ぶかは事業者の裁量に任されている。

ガイドラインで、削減方法として紹介されているのは以下の7パターンだ。

1.有償販売
2.不使用時にポイントや景品を還元
3.提供時に使用の意思をお客様に確認
4.お客様に繰り返しの使用を促す
5.材質や形状の変更によりプラスチックを削減
6.サイズ変更
7.事業者内で繰り返し利用

この7つの削減方法からどれを選びどのように運用すべきなのかは、後編で専門家に話を伺いながら詳しく説明したい。

「多量提供事業者でなければ罰則がない」「事業者裁量に一任されている」ことなどから、規模の小さい宿泊施設の中には「自分たちの施設は実質対象外」と考える人もいるかもしれない。しかし、世界的に持続可能性への対応が求められていること、観光業は環境負荷が高いと言われていること、お客さまにどう受け止められるかという点などを考えれば、できるだけの対応をすべきだろう。

後編へ続く

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